村長の告白
出発の前日。
ウデラウ村を発つと村長に告げると、話を聞いて欲しいと村長の家へ僕は呼ばれた。
「それでお話というのは?」
「実は領主様に今のこの村の現状を伝えて置こうと思いまして」
「現状ですか?」
「はい。今ではこのウデラウ村の総人口は30人ほどしか居ませんが、ご先祖がこの島に辿り着いた頃は60人以上いたそうなのです」
純エルフ族に追われた彼らの先祖は、数隻の船で東大陸を逃げ出した。
そしてこの島の近くで嵐に遭い、エストリアたちと同じように外の大渦に飲み込まれ秘密の入り江に漂着した。
もちろん全ての船とレッサーエルフたちが助かったわけでは無かったが、それでも彼らは60人以上生き残ることが出来、あの洞窟を登ってこの地に辿り着いたという。
そしてウデラウ村を造り、そこで暮らし始めた。
当初は今よりも強い魔法が使える者が多かったレッサーエルフたちは、魔獣を狩り、糧として生きてきた。
しかし代を重ねるにつれその力はどんどん弱まり、魔獣との戦いで犠牲者が出るようになる。
だが、そこに聖獣ユリコーンが現れ、ウデラウ村のある一帯を縄張りとした。
「聖獣様がこの島にやって来るのがもう少し遅ければ、今頃はこの村も無かったかも知れないってことか」
「そうです。力が弱まった我々にとってありがたいことでした。これで村は滅びないと誰もが思ったのです」
そんな安堵に包まれた空気は長くは続かなかった。
「出生率の低下?」
「元々我々の祖先である純エルフがレッサーエルフとなってまで森から外に出た理由は純エルフ族に子供が生まれなくなったからとお話したと思います」
「確かに聞いた。それで純エルフの中の一部の者が危機感を感じて森の外の繁殖力の強い種族の血を入れることで打開しようとしたと」
純エルフは基本的に東大陸の深い森の奥にあるエルフの里で一生を過ごす。
長寿である彼らは、元々出生率は高くなかったが、それでも種を存続するのに十分な位は子供が生まれていたという。
だが、その子供が生まれる間隔がどんどん長くなり、ついには数十年にわたって一人も生まれないという状況になってしまった。
「憶測でしか無かったのですが、純エルフは純エルフとしか子を作らない。故に種としての寿命を迎えてしまったのでは無いかと推進派は訴えたそうです」
推進派。
エルフの種を残すため森を出ることを主張し実行したレッサーエルフたちの祖先だ。
「前にお話ししたとおり、私たちの祖先は森を出て他種族と交わったことで出生率を上げることに成功しました。そしてエルフ族の種としての寿命も純粋なエルフのみの血では無いものの受け継がれ、絶滅の危機から逃れることが出来た――そう思っていたのですが……」
村長はそこまで話すとつらそうな表情を浮かべる。
「実はその滅びの呪いはまだ我々に掛かったままだったのです」
「どういうこと?」
「先ほど話したように、初期のウデラウ村の人口は60人ほどいたのです。そしてこの地を安住の地とした先祖は、ここで子を産み育て、やがてはレッサーエルフの楽園にしようと考えました」
魔法を使って開拓し衣食住が揃ったウデラウ村は、その後百人を超えるまで住人が増えたという。
そしてその一部はウデラウ村以外の場所に移住し、そこに別の村を作り開拓地を広げるまでになった。
「その頃からでした。徐々に我々の間に子供が生まれなくなって来たのは」
「ま、まさか」
「はい。それが我々の中に流れるエルフの血の呪い……なのかはわかりませんが、純エルフと同じように私たちの間でも繁殖力が無くなってしまったのです」
そして最盛期は軽く百人を超えていたこの島に住むレッサーエルフたちは人口を減らし、ついには30人にまで減ってしまった。
「……でもおかしいじゃないですか」
僕はそこまで話を聞いて、その話の矛盾に気が付く。
「だって子供ならコリトコや他にも何人か居るじゃ無いですか。他にも僕と同い年くらいの青年や娘さんもいますよね?」
彼らの言うように子供が生まれなくなっているなら、この村に今居る若者や子供は何なのだろうか。
見かけは子供だけど実は全員がかなり高齢なんてことは無いはずだ。
なぜなら村長は前に「自分たちレッサーエルフは人族とほぼ同じ寿命、同じ年の取り方をする」と言っていたからである。
「彼らは閉塞していたこの村にあることが起こったために生まれた子供たちなのです」
「あること……ってまさか」
「お気づきになられましたか」
一度は繁殖力を取り戻していたはずの彼らがそれを失い、また手に入れた理由。
エルフの血の呪いから彼らの先祖が一時的に解き放たれた方法。
「つまりコリトコや若者たち全員が調査団の生き残りの子供や孫ってことなのか」
村長は首肯する。
そして彼は教えてくれた。
「以前、この村には十人ほどの調査団の方たちの子孫が居ると言いましたが、それは正確ではないのです」
「やっぱりそうなのか」
「もうおわかりのようですね。そうです、この村に住む者は私も含め現在は全て調査団の方々の子孫です」
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