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聖獣様に願いを

 僕が取り出した『素材』。

 それは一本の円錐形をした棒だった。


 その正体は――


「あっちはレスト様が酷いことをしたのかと思ってびっくりしちゃった」

「うん。まぁそう思われても仕方が無かったって反省してる」


 頭を掻きながら僕は手にしたそれ――『聖獣ユリコーンの角』に視線を向ける。


「まさか気を失うほど驚くとは思わなかったんだ」


 角を手に入れたのはウデラウ村を出発するために準備をしていた時だった。

 もちろん聖獣様から無理矢理奪った訳では無い。


 僕は目を覚まし、少し落ち着いたコリトコに謝りながらことの経緯を話すことにした。



     ◇     ◆     ◇     ◆



 エストリアたちを連れて帰った後、僕は聖獣様に一つ気になることを尋ねた。

 それはウデラウ村とレッサーエルフたちを外敵から守り続けていたはずの聖獣様が、ヴァンが現れて騒動になった時に何も行動を起こさなかったことについてだ。


 そして結局最後まで聖獣様はエストリアやヴァンたちのことについては何も言わず、ただ普通に――いや、エストリアが挨拶をした時は微妙に興奮の色を隠せていなかったが、それでも特に警戒するそぶりも見せなかった。


『それならこの角の力じゃよ。前にも話しただろう、我の角の力のことを』

「たしか相手の感情が読める……でしたっけ」

『そうだ。つまり我には相手が悪意を持っているのかそうで無いのかがわかるということだ。だからお主らと初めて会った時も我は全く警戒しておらなんだろう? おかげでついつい喋りすぎてしまったがな。しかしそれとて詮無きこと。長い間我は体臭が気になって人々と会話をする事が出来なかった反動が一気に出てしまったのだから。だが興奮すると力を使うことを忘れてしまって相手がうんざりしていることにも気が付かなくなってしまうという悪癖もあってな。それで――』

「ちょ、ちょっと聖獣様! またその悪癖が出てますよ!」

『……おっと、すまなんだ。つまりこの角のおかげで悪意があるものや敵かどうかはすぐにわかるのだ』


 聖獣様は声に僅かばかりの反省の色を乗せて、そう言った。

 詰まる所、聖獣様はあの時一目見ただけでヴァンがレッサーエルフたちに危害を加える者ではないと見破り、後のことを僕たちに任せて――


『我も村の乙女たちとの語らいに集中したかったのでな。後はお主らがなんとかするだろうと』


 いや、丸投げしたというわけだったらしい。

 これが現れたのがエストリアだったら話は変わっていたのだろう。


「でもその角の力は便利ですね」

『そうじゃろう。我も今ほど力が無い頃はこの力のおかげで危険を幾度も避けて来たものだ』


 その時僕は一つ名案を思いついたのである。


「実は聖獣様にお願いがあるんですけど」

『お願いだと? お主らには大きな借りがある。我の出来ることであれば何なりと申すが良い』


 この先、この島を開拓していくにおいて必要不可欠な事柄で。

 だけどレッサーエルフたちの話を聞いた今、同時に大きな問題として僕の心を悩ませていた内容についてである。


「僕たちがこの島に何をしに来たのかはお話しましたよね?」

『この島を治めに来たのだろう?』

「そうです。島の中に住む人たちには本来なら関係は無いのでしょうが、この島は現在僕たちが所属しているエンハンスド王国の領地と言うことになっているんです。領地という概念はわかりますでしょうか?」


 魔獣である聖獣ユリコーンにとって、人が決めた『領地』という概念は理解されるだろうか。

 心配しながら僕はそう答える。


『我も元は島の外から来た身。人族同士の決まり事のあれこれはある程度理解しているつもりぞ』

「失礼しました」

『いや、良い。人族と関わりを持とうとする我のような魔獣は殆どおらぬからな。お主が心配するのも仕方の無いこと』


 気を悪くした風も無い聖獣様に安堵した僕は、そのまま話を続けることにする。


「実は本来なら僕たちはこの島が無人島だと考えていて、開拓するために近い将来移民を募集して領民を増やしていこうと考えていました。ですが」

『レッサーエルフたちが住んでいた……しかも』

「ええ。彼らが普通にこの島の住民として暮らしていたのならまだ良かったのですが、エルフ族の迫害から逃げてこの地を安住の地としたというのに、そこに外から沢山の人々を招き入れるというのはあまりに危険すぎると僕は考えました」

『この地にレッサーエルフが住んでいる。そのことがエルフ族に知られる危険があるということだな』


 察しの良い聖獣様のおかげで話が順調に進む。

 王都に居た頃にエルフ族が王国にやって来て、王族を含めた王国上層部と会談を行ったことは知っていた。

 歓迎会に僕は出席しなかったが、父と母は出席し、父はその後の会談にも王国側の一員として加わったと聞いている。


 その時にどんな話し合いがあったのか。

 王国とエルフ族との間にどのような約束事が締結されたのかは、その頃の僕にはわからなかったけれど今なら大体察することが出来る。


 本来なら東大陸の森の奥にあるエルフの国から殆ど出てくることが無い彼らが各国へ使者を派遣する理由。

 それは自分たちから見て劣等種であり反逆者の子孫であるレッサーエルフたちの排除のためだ。


「なのでその危険性がある以上、簡単に領民を増やすことは難しいと僕は思っています。それにエストリアたちのこともあります」


 ヴァンやエストリアもガウラウ帝国から逃げて来た立場である。

 今のところは二人がこの島に居ることを知っているのは僕たちとウデラウ村の人々だけだが、移民を受け入れて人が増えていけば自然と帝国に二人の存在は知られてしまうだろう。


『相変わらず人族同士のいざこざというのは面倒だな』


 聖獣様は遠い昔を思い出しているかのような感情を目に浮かべ、ため息交じりに呟く。

 僕は聖獣様がこの島にやってくる前にどこでどう生きてきたのか知らない。

 もしかすると見かけからはわからないがかなり長く生きて居るのかも知れない。

 そしてその間に人族同士の面倒な争いなども見てきたのだろうか。


『……だがそれゆえ人は我らすら追いやるほどの力を得て世界中に広がったのかもしれぬな』


 暫くして聖獣様の目線が僕に戻った。

 

『それでレスト。お主の願いというのはその移民と関係あるということか?』

「はい。それでも僕はこの島に移民を受け入れようと考えています」

『先ほどまでの話の流れだと、てっきり受け入れないのかと思っていたのだが違うのか』


 確かにこの島に逃げて来た人たちのことを考えれば、このまま僕たち以外の人を外部から招き入れないことが最善策だろう。

 だが、そういう訳にはいかない理由がある。

 僕はそのことを聖獣様に告げるべく口を開く。


「実はさっき村長から頼まれたことがあるんです」


 そして僕は聖獣様に話しだす。

 少し前にウデラウ村の村長から聞いた話と願いを。



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