エストリアの思い出話を聞こう!
結果的に言えばエストリアが望む家は、外装も内装も簡素なものになった。
僕はせめてもう少し豪華にしないかと何度か提案したものの、彼女は意外に頑固で自分の意見を曲げることは無く。
結果的には王都でもごく平凡な国民が住むような家の内装を再現するに止まった。
「ありがとうございますレスト様」
「でも本当にこれだけでいいのかい? せっかくだから応接室くらいもっと豪華なソファーとか家具とかにした方が」
「いいえ、結構です。それにそんな応接室を作って貰っても、皇族でも貴族でも無くなった私には使い道がありませんので。それに元々私たちの国では臣民も皇族も儀式の時以外では大して変わらない生活をしてましたので」
実際にエストリアたちがガウラウ帝国の皇族から廃嫡されたかどうかはわからないし、今は確かめる方法も無い。
なので現状では彼女たちの立場は本人の言い張るような『平民』と扱うのは難しい。
ヴァンの話と僕が王都で学んだ知識で、ガウラウ帝国という国は皇族と平民の格差というものがあまりないというのは知っている。
ただそれは獣人族独特の価値観であって、僕たちには理解できないことだ。
「いつか君の国にも行ってみたいな」
「お父様……皇帝は頑固者ですけど、臣民の皆様は凄く明るくて良い人たちばかりですから、きっと楽しめると思いますよ」
エストリアたちの家の内装をクラフトし終えた僕たちは、次にエストリアの希望で鶏舎へ向かうことにした。
鶏舎では確か今はアグニとコリトコがコーカ鳥たちの世話をしているはず。
その道すがら、エストリアは何かを思い出したように語り出す。
「私も昔は鳥を飼っていまして」
「鳥を? どんな鳥だったんだい?」
「アレクトールちゃんほど大きくは無いのですけど、私の腕くらいの大きなカンコ鳥っていう種類なんですけどご存じですか?」
エストリアはそう言うと、自らの細く白い腕を僕に見せつけるように伸ばす。
「いいや。初めて聞いたよ」
カンコ鳥という名前を初めて聞いた僕は首を振って知らないことを伝える。
ただ呼称というものは国や種族によって違う場合も多い。
なので、実際は僕も知っている鳥が、帝国ではカンコ鳥と呼ばれているだけなのかも知れないけれど。
「虹色の羽のとても美しい鳥なのです。 私がまだ小さかった頃に庭で怪我をして倒れている所を拾ったのです」
カンコ鳥はガウラウ帝国の山奥にも少数しか生息していない珍しい鳥なのだそうだ。
美しい虹色の羽は日の光を浴びて様々に変わり、帝国では幸せを運んでくれる鳥として有名だったという。
しかし生息数も少なく彼女たちが住んでいた帝都で見かけることはほぼ無い。
エストリア自身も、本や人づての話でしか知らなかったらしい。
「ガウラウ帝国では基本的に『動物を飼う』と言うことは禁止されています」
獣人の国である帝国が、ある意味自分たちの親類に近い動物を飼わないというのは何となくわかる気がする。
「なので厳密に言えば『飼っていた』というのとは違って、看病していたと言った方が正しいでしょうか」
「それでそのカンコ鳥の怪我は治ったのかい?」
「はい。結局一年くらいかかりましたけどなんとか普通に飛べる位までは」
エストリアは一年間共にしたその鳥に名前を付けようと思った。
だけど帝国では動物を飼うことは禁止されていて、名前を付けるという行為も同じように禁忌扱いだったらしい。
「ですので私は名前とわからないようにカンコと呼ぶようにしたのです」
「帝国も色々と大変なんだな」
所変わればなんとやら。
王国であれば犬や猫、場合によっては珍しい動物を飼っている人も沢山居る。
もちろん名前を付けるなんて当たり前のことだ。
だけどガウラウ帝国ではそれは禁忌だという。
そういった国や種族による細かな違いというのは実に面倒で、だけど国同士の外交ではある意味一番気をつけないといけない部分である。
「でも怪我が治った以上カンコは森に返さないといけなくて、結局その少し後にカンコ鳥の生息地近くまで行くという商人におまかせしてカンコを自然に帰すことにしました」
そしてそれ以来彼女はカンコとは会っていないのだと言う。
「元気にしていると良いのですが」
「そのカンコ鳥ってそんなに長生きなのかい?」
鳥の寿命というのはよくわからないけれどそれほど長くないはずだ。
彼女の話からすると、別れてからすでにかなりの年月が過ぎているはずで。
「ええ。私が聞いた話だと百年は生きるそうですわ」
「ひゃ、百年!?」
「といっても飼うことが禁止されているので実際の所は良くわかってないのです。生息地近くの村に伝わる伝承とか、そういったものでしかわからなくて」
ことの善し悪しは別として、動物を飼育出来ないということは観察・研究をすることを難しくする。
なのでガウラウ帝国においては動物に関することに関しての資料がかなり少ないのだろう。
「なのでアグリさんとアレクトールのことを聞いた時は、実はとても羨ましく思いましたの」
「あはは。僕はびっくりしたけどね。なんせウデラウ村に向かう前まで、アグニはコーカ鳥にとんでもなく嫌われてたから」
「そのことのほうが驚きですわ。今はあんなに仲良くしていらっしゃるのに」
エストリアの視線の先。
話している間に辿り着いた鶏舎の庭では、何頭かのコーカ鳥の雛――いや、もうすでに母鳥と同じくらいの大きさまで成長した鳥たちが気持ちよさそうに昼寝をしていた。
その中心には、これまた至福の表情を浮かべて幸せそうに眠っているアグニの姿が見える。
「気持ちよさそうに寝てるな」
「本当に。私もあの中に混ざりたいですわ」
僕は少し呆れ気味に、エストリアは微笑ましそうにアグニたちを見ながら、コリトコに会うために鶏舎の入り口へ向かったのだった。




