二人の家をクラフトしよう!
「レスト様、この辺りでよろしいでしょうか?」
「えっと……もう半歩ほど右かな」
「わかりました。ここですか?」
エストリアと僕が今何をしているのかというと。
「それじゃあそこに棒を立てて離れて」
「えいっ」
エストリアは可愛らしいかけ声と共に地面に一本の細い棒を突き刺す。
この拠点内の地面は畑の辺り以外はかなり堅くて、テリーヌなどは突き刺すのに苦労していた。
だけど見かけだけならテリーヌよりか弱げなエストリアは、片手で難なく行った。
しかも一メルはあった棒は、すでにその九割が地面の中。
「……そんなに深く刺さなくても良いよ」
「そうなんですか? 私はてっきり基礎にでもするのかと」
「いやいや、そんな細い棒じゃ基礎にはならないでしょ。基礎の部分はこれから僕がクラフトするんだよ。見てて」
そう告げながら僕は四カ所に刺さった棒を目印にして、地面に四角く石で建物の基礎をクラフトした。
ちなみに石材はトンネル工事の時の分がまだまだ残っている。
「わぁ」
エストリアが両手を合わせて面白いものを見たと目を輝かせる。
クラフトスキル自体は昨日も部屋で見たはずだけど。
「レスト様のスキルって、本当にこんな大きなものも造れるのですね」
家具や薬などと違って、建物をクラフトするのを目の前で見ると驚くらしい。
そういえばキエダたちに初めて建物をクラフトする所を見せた時も同じような表情を浮かべていたっけ。
「あの塔も領主館もこうやって造ったんだよ。でも流石にあの大きさになると時間は掛かったけど」
僕は出来上がった基礎の出来を確認しながら答える。
領主館の時はキエダに確認をしてもらったが、今日は自分でやることにした。
何故かというと、昼からキエダはこの拠点の周辺探索に出かけたからである。
キエダはお供にアグニではなくフェイルを連れていったが、多分一番手が空いてそうな人材を連れて行くことにしたのだろう。
鶏舎の世話はアグニがやっているし、領主館の掃除はヴァンの様子を看る必要があるテリーヌが今日はやっているので、フェイルが一番暇なのだ。
「とりあえず問題はなさそうだな。この辺りは地盤もしっかりしてるし、あまり深く基礎を埋め込まなくても大丈夫なのが楽でいいな」
僕も基本的な建物に関する知識はあるので、領主館ほど大きい建築物でなければキエダが居なくても家くらいは作ることが出来る。
「でも本当によろしいのですか?」
「何が?」
「いえ。私たちの家を、こんな一等地に建てていただいて」
一等地。
たしかにこの拠点はこの先領都にするつもりなので、その領主館がある土地の周辺は一等地とも言えるかも知れない。
だけどそれはまだまだ先の話で、今はまだ土地も狭く建物も殆どない。
何より住民が現状八人しか居ないのに一等地だのなんだのと考える段階ですらないと僕は思う。
「領主館から離れた所の方が良かった?」
と行っても現在の拠点は五十メル四方程度の広さしか無い。
その中に領主館と鶏舎、そして畑があるだけである。
一番遠く離れた場所は領主館の対面にある正門の横だけど、それとて今はまだ目と鼻の先とも言える距離でしかない。
「いえ、そういう訳では無く。そもそも家を作っていただけるだけでも信じられなくて」
「気にすることは無いよ。君たちはこれから僕の領地で暮らす大事な領民なんだから」
「でも普通は領民のために家なんて作ってくれませんよ?」
「そう? 領地によっては人を集めるために家を用意して移民を募集する所もあるらしいよ」
僕は基礎から少し離れた所に移動しながら続ける。
「それにこんな孤島まで人を呼ぼうと思ったらこれくらいはして上げないと駄目だろうしね。エストリアたちの家を作るのはその予行練習みたいなものと思って貰えば良い」
そう思えば彼女たちも気が楽になるだろう。
僕はそう考えながら次に建屋のクラフトを始める。
予行練習というのはあながち嘘では無い。
領主館よりは楽なはずだけど、一軒家というものは王都に居た頃に人目の付かない所でキエダたちにお披露目も兼ねて作って以来になる。
それまではミニチュアで何種類か作る練習をしてはいたが、実物と模型とではやはり色々違うわけで。
「じゃあ始めるよ」
僕は両手を基礎に向けて突き出しながら頭の中で建物のイメージをくみ上げていく
一階に台所や食堂、それと応接室に風呂とトイレと物置部屋。
二階にはヴァンの部屋とエストリアの部屋を設置し、他にも客間なども用意しよう。
やがて頭の中のイメージが完成したと同時に僕は意識を手のひらに集中させ力を解放する。
「クラフト!」
両手から様々な素材が組み合わさり作り上げられて、頭の中のイメージが目の前に現実として積み上がり完成していく。
その感覚は何度スキルを発動させても楽しい。
だが楽しい時間はすぐに終わる。
初めて作った二階建ての民家だったが、クラフトに掛かった時間は僅か。
本来なら熟練の大工が何十日も掛かるはずのものが、時計の長針が半分も進まないうちに出来上がってしまう。
「職人を領地に呼ぶ時は自重しないとな……」
そう誰にも聞こえないほどの声で呟きながら僕は目前の家を見上げる。
見える限りは問題なさそうだ。
あとは外観と内装をエストリアの意見を聞きながら整えれば完成である。
「何と言えばいいのか。私、これほどの力を持つ方は初めて見ましたわ」
「方向性が違うだけで僕より強いスキルの持ち主は沢山居るさ。たとえば僕の力じゃドラゴンは倒せないけど、世の中にはそれを楽に討伐出来るスキルを持った人もいるわけでね」
ファルシとコーカ鳥の争いを止めることが出来たのは、彼らが岩の檻を破壊するだけの力を持たない魔獣だったからだ。
たとえばその程度の檻なんて簡単に破壊できるほどの魔獣が相手だったら、僕はあっさりと殺されていてもおかしくは無い。
もちろんクラフトスキルを使って武器や防壁を造り出して応戦はするだろうけど、僕には剣の才能なんてないから役に立つとも思えない。
「というわけだから、僕は僕に出来ることをやるだけさ」
そう言って僕は目の前の家を指さしエストリアに尋ねる。
「それじゃあ君とヴァン、二人の家の仕上げに入ろうか」




