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卵焼きを堪能しよう!

「お待たせしました」


 キッチンから料理を載せたカートを押してテリーヌが食堂へやってくる。

 カートの上には黄色い卵料理が湯気を立てて並んでいるようだ。


 今夜は二人の歓迎会も兼ねて、この地に持ち込んだ食材を存分に使った料理を振る舞うことにした。

 王都に居た頃と違い、新鮮な野菜や果物、肉や魚は使えないが、保存が利く食材だけでもアグニの手に掛かれば十分豪華な料理を作ることが出来る。


 食材についてはレッサーエルフの里で、この辺りで採れる植物や動物、魚などの情報は貰っているので、近いうちに狩りと採取にも出る予定だが、今のところは有りものでがまんするしかない。


 本来なら前菜からコース料理のように出していく予定だったが、ヴァンが『形式張った飯は美味い飯でも不味くなっちまう』という言葉でいつものように全部の品物を出来た側から並べるものに変更したのだ。


 そんなディナーの最初の料理がテリーヌの卵料理であった。


「今日の卵料理は何かな?」


 テリーヌが今まで作ってくれた卵料理はスクランブルエッグにオムレツ、あとは目玉焼き。

 コーカ鳥の卵は僕の拳二つ分の大きさがあるので、普通の目玉焼きでもかなりの迫力がある上に調理が難しい。


 だけど、テリーヌはそんな難しい調理も鼻歌交じりで簡単に仕上げる。

 フォークを刺すと半固形状になった黄身がゆっくりとろけ出す絶妙な火加減は、アグニですら未だにマスター出来ていない技だった。


「本日はコーブの出汁を使ったコーブ卵焼きです」

「コーブ? 初めて聞く名前ですわ」

「海の中に生える草のようなもので、海藻と呼ばれる植物の一種でして海の養分をたっぷり吸い込んで育つのです。大きな葉っぱのような部分を天日で干したものをゆでることで美味しいスープが出来るのですよ」

「海藻ですか。私たちの国では魚は食べますけど、海藻は食材として売っているのを見たことはないですわね」


 この島にくる途中に立ち寄った漁港でのことだ。

 アグニが食材の補充がしたいというのである程度のお金を渡し、補給を任せることにした。

 その時に保存が利く食材の一つとして買ってきたのがコーブの日干しだった。


「うんちくはいいからよ。もう喰って良いか?」


 ヴァンが目の前に置かれた卵焼きを、よだれを垂らさんばかりに見つめながらテリーヌに尋ねる。


「ヴァン。はしたないですよ」

「でもよ、もう腹が減って腹が減って仕方ねぇ所に、こんなに美味しそうな匂いをさせたモンが出てきたら我慢できねぇだろ?」


 確かに目の前の卵焼きからはほんのりとした湯気に押されるようにコーブの優しい香りが伝わってくる。


「よろしいですかレスト様?」

「ああ、かまわないよ」

「ありがてぇ。いただくぜ」


 テリーヌにそう言葉を返すと、待ってましたとばかりにヴァンがフォークとナイフを手に持つとナイフで器用に卵焼きを切っていく。

 なんだかんだ言っても彼も王族の一人。

 それなりに綺麗な所作なのが乱暴な口調とから想像できない。


「中に何か入ってやがるな」

「それは出汁を取った後のコーブに香辛料で薄く味付けをしたものなんです」


 しかしヴァンはテリーヌの答えを待たず、切り分けた卵焼きにフォークを突き刺すと、鋭い牙の並ぶ口を開け放り込む。

 そしてゆっくりと味わうように感度も顎を動かし――


「まんふぇほれぇふむめぇ!!」


 まだ口の中に卵焼きが残っているのに、突然大きな声を上げると、皿の上の卵焼きを次から次へと口の中に放り込んでいく。


「ふはっふはっ」

「どうやらお気に召されたようで安心しました。まだお替わりもありますので取ってきますね」


 その食べっぷりに安心したらしいテリーヌは、そう言うと厨房の方へ戻っていく。

 その背中を見送りつつ僕は、弟の無作法さに少し恥ずかしそうにしているエストリアに微笑んで「さぁ、エストリアさんもどうぞ。僕も食べますから」と言った。


「そうですね。せっかくのおもてなしを無下にしてしまう所でした。叱るのは後にして先に食事をいただきますわね」

「テリーヌも嬉しそうだったし、叱るのもお手柔らかに。それにこれからが今日の晩餐の本番だからね。期待してくれて良いよ」


 エストリアが『叱る』と口にした瞬間に固まって顔を青くしたヴァンを見ながら、僕はそう口にしながらナイフとフォークを手に取ったのだった。

 


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