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迫り来るモノに身構えよう!

 カツーン、カツーン。


 トンネル上に作られている道に音が響く。


 カツン、カツン、カツン。


 その音と音の間隔が徐々に短くなっていく。


 カッカッカッカッ。


 カカカカカカカカ。


 その音の間隔が短くなっていくのと比例して、響く音はどんどん大きくなっていく。


「一体何の音だろう?」

「わかりませんが、どうやら何者かがこちらに向かってくるようですな」

「確かにだんだん音が大きくなってきてるけど……屋根の上を魔獣が走っているとか?」

「この音の響き方からして、道路の中と思われますが」


 キエダはそう答えながら手綱をかるく引いて、馬車を曳くリナロンテに馬車の速度を落とすように指示を出す。

 馬車は後ろに荷台を曳いているため、止まる場合は徐々に速度を落としていかなければならない。


「もし魔獣がどこからか入り込んだのだとすれば、この狭い道の中で戦うことになりますぞ」

「強度はできるだけ上げたつもりだから、もし壁を破って侵入したとなるとかなり強敵だね」


 道の脇に停車した馬車からキエダが先に路面に降り立つ。

 僕は馬車の中で休んでいるエストリアたちに声を掛けた。


「何かはわからないけど道の先から何か来るみたいなんだ」

「確かに少し前から何かこちらに向かってきている足音が聞こえますが」


 エストリアは可愛らしい耳をゆらゆら動かしながら音の方向を探るように顔を動かす。

 その後ろではヴァンとコリトコが、そろってファルシの体を枕にして眠っている。

 出来ればヴァンにはすぐにでも起きて貰いたいのだが。


「そのことなんだけど、もしその近づいてくるのが道に入り込んだ魔獣だとしたら、ここで戦うことになるかもしれない」

「そうなのですか? 私はてっきり、レスト様のお迎えにどなたかがいらっしゃったのかと思っていましたわ」

 獣人の五感は僕たち人間族よりも遙かに上だ。

 だから僕たちが気が付くより先にすでにこちらに向かってくる存在に気が付いていたとしてもおかしくはない。


「いや。迎えに来るとしても僕の知る限り拠点には彼女たちが騎乗出来るような馬はいないはずだ。それにこの音はそもそも蹄の音には聞こえない」


 話をしている間も、道路に響く謎の音はどんどん大きくなっていく。

 その音は馬の蹄が路面を叩く音とは思ない。


「そうですね。この音は蹄というよりはもっと何か鋭く細いものが当たるような……でも……」

「でも?」

「前方からやってくる気配からは敵意は感じませんし、それどころか何か嬉しそうな――」


 獣人族の五感……いや、第六感はそんなことまで感じることが出来るのか。

 僕がそのことに驚いていると、馬車の外からキエダの呼び声がした。


「レスト様! 見えましたぞ!」


 僕は慌てて馬車の中から御者台へ戻ると、前方の暗闇に目をこらした。

 天窓があるといっても、四方を壁で囲んだこの通路は遠くを見るには暗い。

 なので、時々天窓の光で浮かび上がるその姿は最初何であるかわからなかった。


「何だあれは……何か丸っこい生き物に見えるけど」


 こちらに向かってくるその生き物は、遠目ではまだわかりにくい。 


「ふむ。どこかで見たような」

「知っているのかキエダ!」


 キエダはかつてそれなりに名の知られた冒険者だった。

 世界中を巡り、様々な魔物と戦い知識も豊富だ。

 本で得た知識しかない僕と違う。


「まさかとは思いましたが」


 キエダはそう口にすると、手にしていたショートソードを腰に戻した。

 どうやら彼は向かってくるものの正体に気が付いたらしい。

 武器を仕舞ったということは、その相手は危険な存在ではないと確信したということだ。


 その間にも謎の球体はどんどんこちらに近づいてくる。

 おかげで僕の目でもそれが何なのかわかってきた。

 いや、わかってきたというのは語弊があるかもしれない。


「何だあれ」


 まん丸のその生き物らしき物体は、なにやらふわふわした毛らしきものに覆われているように見える。

 わかりやすくいえばいえば毛玉だ。


 その毛玉が転がってきているわけではなく、よく見ると下半身らしき部分から二本の細い足が突き出ていて、せわしなく交互に足を勧めていた。

 その細い足には三本ほどの長い指と、その先に爪が生えていて、その爪が地面を蹴る度に『カッ』という音を響かせている。


「やはり、あれはコーカ鳥ですな」

「コーカ鳥って拠点にいるあのコーカ鳥か?」

「ですぞ。しかも背中に人の姿がありますな……あれは」


 キエダの言葉に僕はコーカ鳥らしき生き物の背中に目をこらした。

 すると、なにやらもぞもぞと動く人の姿が見えて――


「まさか! アグニっ!?」


 その毛玉の中から『ぷはぁっ』と顔を上げた人物は、コーカ鳥のもふもふな毛に執着するあまり嫌われ避けられまくっていたはずのアグニだったのである。



書籍版発売中!

Web版と別物と行っても良いくらいに手を加えておりますので是非。

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