拠点へ戻ろう!
更新再開します。
秘密の入り江から村に戻った僕たちは、テリーヌにヴァンとエストリアを紹介した。
そして二人をテリーヌに任せ、次にトアリウトに長老たちを集めて貰い長老会を開き事情を一通り説明。
話し合いの結果、本人たちは問題ないと口にしているが、やはり王族ともなると村では持て余すということで、僕たちは二人を拠点へと案内することにしたのだ。
そして後のことはトアリウトと聖獣様に任せ、一緒に帰るというコリトコとファルシも合流して村を出ることになった。
コリトコは妹のメリメに「いっちゃいや」と散々泣かれて引き留められたらしいが、最終的にはトアリウトが間に入ってくれたらしい。
「あっちが今は領主様のところでコーカ鳥の飼育員として働いてるって言ったら『お前ももう立派な大人だな。行ってこい』って頭を撫でてくれたんだ」
嬉しそうな笑顔を浮かべたコリトコの顔はやはり子供だ。
だけれどトアリウトはあえて彼を大人だと言うことでコリトコだけではなくトアリウト自身もけじめを付けたのかも知れない。
そうして僕ら六人とファルシ、そして聖獣様と何やらじゃれていたリナロンテはアグニとフェイルの待つ拠点への帰路についたのである。
帰路は来る時にしっかりと道と休憩所を作っておいたおかげで特に何の問題もなく進んだ。
夕方に村を出て途中の休憩所で一泊、朝日が昇ると同時に休憩所を後にする。
御者席には御者のキエダ。
そしてその横に僕とエストリアが並んで座っていた。
コリトコとヴァンは馬車の中でまだ眠っていて、ファルシとテリーヌがその二人に付き添っている。
「見えてきたよ」
僕は御者席から屋根に空いたガラス窓を指さして隣に座るエストリアに話しかけた。
その小さな光取り用の天窓から見えるのは天に向かって高くそびえ立つ尖塔の姿。
「あれがレスト様が作り上げた魔王の塔なのですね」
「魔王の塔って誰がそんな……って、コリトコしかいないか」
僕は小さく嘆息して首をがっくりと落とす。
コリトコが拠点にいる間に気に入り、何度も何度もテリーヌに読み聞かせて貰っていた子供向けの『魔法使いの物語』という絵物語。
魔法使いである英雄が世界を手中にしようと企む魔王と、それに従う魔族を初めとした種族を倒すというその王道な物語。
普通であれば主人公であり英雄となる魔法使いに憧れるはずなのに、何故かコリトコは敵側の『魔王』が気に入ってしまったらしい。
そのコリトコは今、馬車の中でファルシの毛皮を枕に眠っているはずだ。
「ええ。コリトコ君からレスト様の話を色々聞かせていただきました」
「どうしても僕を『魔王』にしたがるんですよね」
「私はその『魔法使いの物語』という本を読んだことがないのでわかりませんが、きっとコリトコ君には主人公よりも魔王様のほうが英雄に思えているのだと思いますよ」
魔王が英雄ね。
たしかにコリトコが僕のことを『魔王様って呼んでいい?』と聞いてきた時の瞳には尊敬と憧れしか感じなかったけれど。
「とにかく、あの塔は『魔王の塔』という名前じゃないし、そもそもコリトコの村を探すために建てたんだし」
「そうなのですか?」
「ああ。コリトコの村のある方向には聖なる泉という泉があるって聞いたからね、それを見つけるために作ったんだ」
僕は馬車の移動で塔が見えなくなった天窓から視線を戻す。
「ではあの塔を作った目的はもう終わったのですね」
エストリアのその言葉に僕は小さく首を振って否定の意思を示す。
「最初の目的は達したけど、あの塔にはもう一つ使い道があるんだ」
「もう一つですか?」
「ああ。あの塔の上には展望室があってね、夜になるとそこからとても綺麗な星空を見ることが出来るんだ」
僕はあの日見た星空のことをエストリアに語る。
夜空に煌めく幾多の星の輝き。
そして、その星々を見上げた古の人々が綴った物語のことを。
「星がお好きなのですね」
「貴族の男子がそんなものに詳しくてどうするんだって散々言われたけどね」
貴族の子女が通う学園でも実家でも、僕はあえてそれを隠さなかった。
そのせいで貴族の跡取りとして相応しくないと陰口を叩かれていたのも知っている。
しかしそれは跡取りという立場を捨てたかった僕にとっては望むことでもあった。
「ぜひレスト様のお屋敷に着きましたら、魔王の塔に私も登らせていただきたいですわ」
「もちろん。だけど『魔王の塔』じゃないですからね」
このままではあの塔の名前が『魔王の塔』に確定してしまう。
「それではあの塔には別の名前があるのですか?」
エストリアは顎の下に人差し指を当てて、頭を少し傾けるようにしてそう問う。
「名前……名前か……」
そういえばあの塔に名前はまだ付けていなかった。
せっかくだから『魔王の塔』などという禍々しい名前ではなく、あの塔に相応しい名前にしたいけれど。
「もしかしてまだ名付けていらっしゃらない?」
「……色々忙しかったから、そこまで頭が回らなくて」
「でしたら、私に名前を付けさせていただけませんか?」
エストリアはその瞳に楽しそうな光を浮かべてそう提案をしてきた。
もちろん僕にはそれを断る理由はない。
だけれど『魔王の塔』のような名前だった場合は断固として断ろうとだけ決めてゆっくりと頷く。
「いいけど、何か良い名前でも思いついたのかな?」
「はい」
「じゃあ聞かせてくれるかい」
そう促すと、彼女は一呼吸置いてから口を開いた。
「星空を見る場所ということで『星見の塔』という名前はいかがでしょう?」
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「真贋の鍛冶師~偽物だとギルドをクビになった伝説の鍛冶師の弟子は、偽物だらけの町から田舎に帰って『本物』を探します。最後にのこした剣が伝説級の聖剣だと今頃知っても貴方の審美眼はもう誰も信じませんよ~」




