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島の外と中をつなぐ『道』を知ろう!

「この穴ってどれだけ下まで続いているんですか?」


 突然水面が下がり、出来上がった大穴を注意深く覗き込みながら僕はトアリウトに尋ねる。

 この秘密の入り江に来てから光石や魔力濃度、閉鎖された空間に驚いたが、こんなこともまで起こるとは。


「たぶん外の海面と同じ位置まで下がっているはずだ」

「外のって……もしかしてこの入り江は」

「島の中腹と言えばいいのかわからんが、その辺りの高さにあると私たちは考えている」


 正確な数字はわかりようも無いのでほとんど感覚でしかないが、トアリウト曰くこの入り江の位置は海面からかなり上にあるらしい。

 高度計をクラフトすればわかるのかも知れないが、生憎と高度計の作り方は勉強していない。

 頭の中の『外へ買い出しに行った時に買うものリスト』に追加しつつトアリウトの話の続きを聞く。


「この穴の中の海水は定期的に上がったり下がったりを繰り返すのだ。先祖も最初この入り江に流れ着いたときはそれを知らず、仲間と船を失ったらしい」


 大陸から逃げてきたレッサーエルフたちは、漂流中この島の付近で猛烈な嵐に巻き込まれたのだそうだ。

 吹き荒れる風雨のさなか、彼らはこの島の影を見つけて舵を切った。

 だがその島に近づいた時、突然船が海中に引きずり込まれた。


「そして気が付いたらこの浜辺に打ち上げられていたと聞いている」

「一体何がどうなって島の外からこの入り江に辿り着くことが出来たんだろう」


 トアリウトの話を聞いて僕はそう呟いた。

 だが、その問いに対する答えは予想外の所からやって来た。


「レスト様、あくまでも推測ではありますがナールトの大渦に彼らは巻き込まれたのでは無いでしょうか?」

「ナールトの大渦……たしか僕たちが上陸した場所から島に沿って東に向かった所で希に起こると報告書に書いてあった現象のことだよな?」

「はい。調査団が島の周りの調査中に危うく巻き込まれかけたと書かれていた大渦です。もしかするとあの大渦はこの入り江と繋がっているのでは無いでしょうか?」


 キエダの推測によれば何らかの仕組みでこの入り江の海面が上昇する時、外部から海の水が大量にこの大穴へ流れ込むことになる。

 つまりこの入り江の外側がナールトの大渦が発生する場所で、その発生理由が入り江の海面上昇のせいだというのだ。

 そして、その『給水』に巻き込まれたレッサーエルフたちの船はその水の流れのままこの入り江まで運ばれてきたのでは無いか。

 普通なら船は大破して海の藻屑となる所だが、運良くなのか何かしらの力が働いてなのか彼らの船は沈まず入り江に辿り着くことが出来たというわけだ。


「我々の祖先は運が良かった……と言って良いのか」

「結果的に生きて新天地に辿り着けたという意味では運が良かったのでしょうな」

「全滅していてもおかしくなかったんだ。それに、もしかしたらこの島の何かが嵐のせいで命を失いかけているレッサーエルフを救おうとしてくれたのかも知れないしね」


 流石に島が彼らの先祖を助けようとしたというのはあり得ない話ではある。

 だけど、島のおかげで彼らの先祖が助かったことも事実なのだ。


「面白い話してんじゃねーか。俺の話も聞いてくれよ」


 そんな話をしているとヴァンが話に食いついてきた。


「俺たちもこの島に近づいた途端にその渦に巻き込まれちまったんだよ」

「やっぱり外の渦がこの入り江に繋がってるのは間違いないんですね」

「おかげで船もボロボロ。荷物もどっか行っちまったモンが多くて散々だぜ」


 それでもエストリア共々、命があっただけでも儲けものだと彼は豪快に笑う。

 確かにその通りなのだろう。

 海に起こる大渦に巻き込まれ、生きてこの入り江にたどり着ける者がどれだけいるのか。

 そこかしこに散らばる朽ち果てた残骸。

 それは渦の中で命を落とした人たちの成れの果てなのだろう。


「それではレスト様、そろそろ出発いたしましょう」


 エストリアが『見せたいものは見せ終えた』とばかりにレストの側までやって来てそう告げる。

 もう少しこの不思議な現象を見ていたかったし、この入り江についても調べてみたかった。

 だけど今は彼女を上まで連れて行くことが先決だろう。


「よっと」


 ヴァンが一度は地面に置いた箱を持ち上げると「早くしないと水浸しになっちまう」と言い残し洞窟の方へ向かっていく。

 水浸し?


「ああ、そうだった。領主様、急いで洞窟へ戻ろう」


 トアリウトも何かに思いついたのかそう告げて歩き出す。


「何か急がなきゃならない理由でも?」


 僕は慌ててエストリアの手を引いてキエダと共にトアリウトの後を追う。

 そして、先に辿り着いていたヴァンが、獣人の力を遺憾なく発揮して少しだけ高台にある崖の上の入口まで荷物を持ち上げていくのを唖然として眺めていた時だった。


 ゴゴゴゴゴゴゴ……。


 突然、先ほど海面が急降下した時よりも大きな地鳴りのような音が聞こえてきたのだった。


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