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闖入者を助けよう!

「なんだ今の声は」

「私が見てまいりますので、レスト様はここに居てください」


 キエダが思わず立ち上がろうとした僕を手で制した。

 そしてそのまま開けっ放しだった集会所の入り口から外を確認するように移動する。


「どうやらレスト様がクラフトされた例の家の方で何かあったようですな」


 扉の外から聞こえてくる村人たちの声がどんどん大きくなっていく。

 その原因があの家だとすると、原因はあの穴だろうか。


「とにかく行ってみよう。村の住民に――僕の領民に何かあってからでは遅い」

「わかりましたぞ。それでは私が前を行きますので、レスト様は後ろを着いてきて下さい」


 キエダはそう言うと足早に集会所の外に出て行く。

 それを慌てて僕は追う。

 外に出ると騒ぎの声が更に大きく聞こえ、確かにそれはあの家の方向から聞こえてきている。

 何人ものざわざわした声と気配は、この位置ではまだ何を言っているのか定かでは無い。

 だけど最初に聞こえた悲鳴の様なものと違っていた。


「それほど急なことでもなさそうですな」

「ああ。危険もなさそうだけど、とりあえず行ってみよう」


 僕はキエダの返事を待たずに走り出す。

 丘の上の集会所から、なだらかにカーブした道を駆け下りていく途中で僕の目に家の前に集まる村人たちが見えてくる。

 さらに近寄っていくと、一人の女性の姿が映った。


「テリーヌ?」

「ふむ、どうやら何者かを看病しているようですな」


 レッサーエルフたちが遠巻きに見ている中、テリーヌがその家の前にかがみ込んでいるのが目に入る。

 そしてその彼女が両手で『診察』しているのは――


「あれは獣人のようですな」


 テリーヌの前にうつ伏せで倒れ込んでいるのは、遠目からでもわかるほど毛深い獣人族らしかった。

 王都にも獣人族はそれなりの数暮らしていたし、彼らの営業する店にも何度か行ったことがある。

 しかしこの島に獣人族がいるという話は聞いたことが無かった。

 もちろん調査団の中にもいなかったはずだ。


「レッサーエルフの他にもこの島には先住民がいたってことなのか?」

「さぁ、どうでしょう。ただこの村の人たちも獣人を見るのは初めてのようですが」


 キエダの言うとおり村人の反応を見る限り、彼らにとって獣人は見慣れたものではないことがわかる。

 今もテリーヌ以外の村人たちは遠巻きに彼女と獣人を見ているだけで近寄ろうともしていない。

 そしてその顔には戸惑いとともに恐怖が浮かんでいる。

 一部の若者は武器を握りしめてさえいた。


「キエダは村の人たちを落ち着かせてくれ。僕はテリーヌの所に行く」

「お任せください」


 僕はキエダに暴走しないようにと村人たちのことを任せ、テリーヌに駆け寄った。

 そして彼女の手の先に倒れている獣人に目を向ける。


 獣度が高いようで、顔だけ見ると人というより完全に獣……ネコ科の動物の様だった。

 獣度というのは、いかに獣の血を色濃く継いでいるのかという簡単な目安だ。


 獣人族の中でも獣度が低いものは獣としての特徴をほとんど残しておらず、人にかなり近い。

 そのため獣としての能力が弱く、獣人族の中ではかなり下に見られるという。

 だが、今倒れているこの獣人はかなり獣に近い見た目をしている。

 つまり獣としての力を強く発揮できる強者である可能性が高い。


「テリーヌ。これは一体どういうことだい?」

「レスト様。いらしてたのですね」


 僕はテリーヌがスキルを使って『診察』を終えるのを待って声を掛ける。

 見る限りこの獣人は気を完全に失っている様で、突然暴れ出す事も無いだろう。

 もし暴れ出すような気配があれば、僕は直ぐにでも檻や拘束具をクラフトする準備はしている。


「実は、この方が突然この家から飛び出してきまして」

「この家から?」

「はい。そしてそのまま倒れたと聞きました」


 テリーヌは集会所を出た後、調理器具を取りに家に向かったらしい。

 そこで先ほど僕が聞いたのと同じ村人の叫び声を聞いて、急いで道を駆け下りて家の前で倒れている獣人に駆け寄ったのだそうだ。


「それでこの獣人は大丈夫なの?」

「はい。私のスキルで確認しましたが特に大きな怪我や病気では無いようです」

「それじゃあどうして倒れ……」


 テリーヌが僕の問いかけに答えようと口を開き掛けたその時。


 ぐきゅるるるぅぅ。


 そんな音が倒れている獣人から聞こえてきたのである。


「この音はまさか」

「はい、この人のお腹の音だと思います。診察の結果、極度の疲労と空腹で彼は倒れたらしいので」


 うつ伏せになっているのと、獣度の高い姿から判別し難かったが、どうやらこの獣人は男らしい。

 そして倒れた原因は『空腹』と。


「行き倒れってわけか」

「そういうことになりますね。でも空腹以外にもかなり衰弱が進んでるので食べ物をそのまま与えると体に負担が掛かりますから、ゆっくり体に吸収されて胃腸に優しい食べ物を用意してきますね」

「それじゃあ僕は誰かに手伝って貰ってこの人を家の中に寝かせて置くよ」

「はい、お願いします。それでは」


 テリーヌは立ち上がると僕に小さく頭を下げてから、遠巻きに見ていた村人たちの中にいたおばさん集団の元へ駆けていく。

 おばさん集団といってもレッサーエルフはエルフの血を引いてるせいか見かけはかなり若い。

 村長の話によると、純エルフと違って死ぬまで若い姿なのでは無いらしいのだが、それでも普通の人族よりは成人後の見かけの変化は少ないとか。


「さてと。キエダとトアリウトさんに手伝って貰うか」


 僕は取り巻きの中から二人の姿を探し出し手招きして呼び寄せると、先ほどテリーヌから聞いた話を二人に告げた。

 そしてトアリウトに村人への説明を任せてからキエダと二人で倒れている獣人を家の中に運び込んだのだった。

 


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