聖獣様と話をしよう!
突然前に飛び出したコリトコが、僕たちとユニコーンの間に立ちふさがる。
それはまるで僕たちからユニコーンを守るかのようで。
だけど、次にコリトコが口にした言葉を聞いて僕は彼の行動の意味を理解した。
「聖獣様。お久しぶりです」
「聖獣……まさか、このユニコーンが?」
僕が思わずそう呟くと、ユニコーンがコリトコを押しのけるように前に出て来た。
そして僕の顔を覗き込むように見つめると――
『我の名はユリコーン。決してユニコーン等という野蛮な獣と同じくしてくれるでないぞ』
「しゃ、喋ったぁぁぁぁぁぁ!!!」
その馬の口から出たものとは到底思えない流暢な共通語に驚いた僕たちだったが、そのユリコーンの言葉はそれでは止まらなかった。
『そもそもユニコーン等という奴らは何も理解しておらぬのだ。彼奴らは乙女で無いという理由だけでその先に広がる全ての可能性を否定して命を奪おうとする。まったくけしからん。乙女同士で無くともそこに愛を感じたのならそれで良いでは無いか。そこに女性が二人以上いればそれだけで妄想が捗るだろう? お主もそう思わぬか?』
「は……はぁ……」
早口でまくし立てられ、次から次へ僕の耳を打つ。
だけど、その言葉の内容は僕の理解の範囲を超えていて生返事を返すのがやっとだった。
僕は救いを求めるように視線を少しずらしキエダを見る。
だが、彼もどうしたら良いのかさっぱりわからないのか、困惑した表情で固まったままだ。
『しかるに先ほどからあの桟橋で戯れる美しき百合の花に声をかけようとするお主の無粋な行動は我は断じて認められぬ。我は彼女たちの逢瀬を遠くからこうして見守る存在なのであるからして――』
「そ、そうですか。すみませんでした」
鼻息荒く話し続けるユリコーンの言葉はどんどん支離滅裂になって行く。
おかげで話の内容が殆ど理解できない。
僕は今度は目線をキエダからコリトコに移して助けを求めることにした。
テイマースキル持ちのはずの彼ならこの魔物をなんとかしてくれるだろうという願いを込めて。
だけど、そのコリトコの顔は僕の予想に反してキエダと同じように驚きの表情を浮かべて固まっていた。
始めてこの聖獣と対峙している僕らならわかるのだけど、コリトコは聖獣様のことは僕らよりも知っているはずで。
なのにそんな彼もこの聖獣の早口を止めることが出来ないのかと諦めかけたその時だった。
「せ、聖獣様が喋れるなんて……」
『……』
ぽつりと呟かれたコリトコのその声に、未だにペラペラと喋り続けていたユリコーンの言葉がピタリと止まった。
そして僕からゆっくりとその顔を離すと姿勢を正し。
『ユリリーン!』
そう馬の様に嘶いたのである。
その姿はまさに聖獣という言葉に相応しく、体をまとうピンク色のオーラと威厳のあるたたずまいに、始めてそれを見たものならば見惚れてしまうかもしれない。
だけど僕たちにはもうその姿は色々と不味い部分を取り繕った様にしか見えなくなっていた。
もしかして聖獣様は自分が喋ることが出来るという事実を隠していたのだろうか。
「聖獣様。言い辛いのですが……もう手遅れだと思いますよ」
『……やはりか……』
「あっちも」
「私も」
「……ですわね」
『クゥーン』
しばらくの沈黙の後、聖獣ユリコーンはその場に集った一同の反応を見渡して。
『……出来れば村の人々には内緒にして欲しい……』
がっくりと長い首を垂らし、そう頼みを口にしたのであった。
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次回はコリトコの村のお話です。
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