小動物を愛でる会はじめました
タイトル変更しました(自分的には元に戻したの)
学園の裏庭で鍛練をしてると、渡り廊下を歩く小さな令嬢がふと目にはいった。
髪を後ろでまとめているものの、まとまりきれない癖毛が歩くたびにフワフワ揺れている。
なぜ子供が学園の制服を着ていのか不思議に思い目で追った。
「あっ…」
そこからはスローモーションのようだった。
何もないところでいきなりつまづいた彼女は「ふぎゃっ」と淑女らしからぬ叫び声をあげ、両手をあげた愉快なポーズで飛び上がった。なんとかこらえて倒れこまなかったものの、転びかけた拍子に投げあげた荷物が頭にふってきた衝撃で、そのままベチャリと膝をついてしまっていた。
「ふぐぐぅぅ…」
余程痛かったのだろう、頭を抱えて呻きながらうずくまっている。
どうする俺。
あまりの事に声をかけるのもはばかられる。
見てはいけないものを見てしまったようで動揺しかない。
こんな時どう行動するのが紳士として正しい有り様なのか。
誰だ、こんな未熟な俺を氷の貴公子とかこっぱずかしいあだ名で呼んだやつは。
そんな風に呼ばれてちょっと調子にのってたのは誰だ。
俺だ。
痛みから立ち直った令嬢は、小刻みにキョロキョロと周囲を確認しだした。周囲を警戒する小動物のようだ。
そして目があった。
こぼれるのではないかと心配になるほど目を大きく開けたのち、パクパクと口を動かすが言葉にならない。
わかる。俺も言葉にならない。多分俺も口をパクパクさせてる。
フォローの言葉が何もでてこない。
やがて彼女は羞恥に染まった真っ赤な顔を隠すようにペコリと頭を下げて、散らばった荷物をかき集めて走り去っていった。
肩がドアにでも当たったのか痛そうな音と「ぴぎゃっ」という声が風にのって聞こえてきた。大丈夫だろうか…。
あまりの衝撃に騎士の誇りである剣を取り落とし、顔を両手で覆い悶える。なぜか耳がものすごく熱い。
あの面白可愛い生き物はなんなのだろう。
この痛いくらいの胸の疼きはなんなのだろう。
今までまったく存在に気づかなかったが、彼女は同じクラスの生徒だった。
150センチあるかどうかの小柄な彼女、ミラニア嬢は、クラスメイトから「ミニラ嬢」と呼ばれていた。
それからはもう彼女から目が離せなくなった。
何もない処で転ぶのは当たり前、歩けば壁にぶつかり、授業中居眠りしては机からずり落ち、寝てなくてもずり落ち、自分で閉めた扉に挟まる…。
背が低いのに何故か下駄箱は一番上で、いつも最大限に背伸びしたりピョンピョン跳んで出し入れしている。
もうなんだろうか。麻薬的な何かなのだろうか。
毎日観察し悶えてる俺の肩に誰かがポンと手をおいた。
同じクラスの悪友共が、良い笑顔で親指を立てて言った。
「おまえもやっと気づいたか!」
「小動物を愛でる会へようこそ!!」
「小動物を愛でる会」は男女問わずクラス中の者が入会していた。
合言葉は「イエス!ミニラ!ノータッチ!」だそうだ。
ちょっと意味がわからない。
そんな風だから彼女がクラスでいつも一人で寂しそうにしているのではないのか。
今、俺の手にはとある任務を担う菓子がある。
鍛練を欠かさず、魔物相手でもひるまず戦える自信がある俺が、今人生で一番緊張している。
「ミニ…ラニア嬢…」
ファーストコンタクトだ。
「あまったので食べて欲しい。」
なるべく淡々と告げ箱を渡す。
「これ!人気のシュークリーム!ありがとうございます!」
パァァと顔がほころんだ。眩しすぎて直視できず、思わず手のひらで目元を隠す。しっかり隠してしまうと見えないので隙間はもちろんあいている。
こんなに簡単に人から食べ物をもらってはいかんだろうと不安にもなる。
さらわれてしまう前にさらわないといけないかもしれない。
そんな俺の心配も知らず、ミラニア嬢は箱を頭の上に掲げ小躍りしている。
うむ。そしてこけるまでが彼女の様式美ともいえる。
落ちるシュークリームの箱をキャッチする。転びゆく彼女も支えたいがノータッチルールに躊躇し出遅れてしまった。
打ちつけた赤い鼻をさすりながら照れて笑う姿がまたたまらなかった。鼻血だしてても可愛いとは反則じゃないだろうか。
遠くから見てるだけのつもりが、話しかけたくなり、
もっと声を聞きたくなり、笑顔を見たくなり、触れたくなる。
嗚呼、膝の上にのせて抱きしめてフワフワの癖毛をもふりたい…
口から砂糖を吐くような甘い言葉をささやき羞恥に悶えさせたい…
そうか、俺は氷の貴公子ではなく氷砂糖の貴公子だったのか。
俺は「イエス!ミニラ!ノータッチ!」を心がけつつ、少しずつ距離をつめていくのだった。
小動物が怯えないように、お菓子片手に少しずつ少しずつ。