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第九話


 怪物たちを殴り倒すのは、なかなかに爽快感があった。

 たまに反撃を食らうが、不意打ちのダメージが大きいのか、こちらの体力が尽きる前に敵の方が死ぬ。

 

 一対一になるような立ち回りを徹底し、今ちょうど6体目を倒し終わったところだ。


「……しかし、どうしたものか」


 結構危なっかしい戦い方をしている自覚はある。

 今のところうまくいっているが、いつかは失敗するだろう。

 早く事態を進展させる必要があった。


 新しい枝を折り、先が鋭くなるように手で簡単に工作する。

 即席の槍の完成だ。


「槍というか、棘だな」


 それでも、うなじの部分など肉の薄い箇所に突き刺せば致命傷だ。

 頼りない枝の槍と、銃と呼ぶことすらおこがましい木製の銃を構えて、俺は遺跡内をさまよう。


 探索してみて、この遺跡は完全に山の頂上にあることが分かった。

 四方八方が崖になっており、安全に下に降りれそうな箇所は一つもない。

 いわゆる陸の孤島、というやつだ。


 まだ探索しきっていないため確信はできないが。

 多分山を下りるための何らかの手段があるはずだ。


 遺跡は大まかに二つの部分に分かれていた。

 一つは、俺が目覚めた遺跡の跡地のような場所。

 俺が最初に目覚めたのはこの跡地で、崖側に群生していた森の中だったようだ。

 

 もう一つは、崖側とは反対側の森林地帯。

 一度遺跡側から奥を覗いてみたが、暗くて一定の箇所までしか観察することは叶わなかった。

 結構深い森林だろう。

 遺跡の跡地はこの森林に崖側へ押し出されるようにして崖沿いに位置していた。

 

 ここら辺一体の地理は大体そんな感じだ。

 

「……森林に飛び込むのは自殺行為か」


 遺跡内をうろついている怪物たちが蔓延っていると考えるのが自然だろう。

 あるいは、より凶暴な奴が潜んでいるかもしれない。


 だが、このまま悩んでいても仕方がない。

 思いついたことは試していくべきだ。


 俺はホルダーの小袋から、小さい木製の弾丸を取り出す。

 遺跡を探索している最中に、ホルダーの中をよく確認してみたら見つけたものだ。

 銃のマガジンを引き抜いて弾を込めてみたら、普通に装填できた。

 

 驚いたのは、ホルダーの小袋の弾をいくら取り出しても中身が無くならないのだ。

 全部一度に取り出しても、不思議な粒子が出てきて弾丸を勝手に作ってくれる。

 最大で三十発分ストックできるみたいで、弾丸を一つ取り出すと、予備の弾が作られ始める。

 一発当たり5秒くらいかかるので、余り無駄遣いはできないが。

 

 まあ何にせよ。

 この銃はどうも鈍器として使った方が威力が高いようなので、今まで同様鈍器として使っていくつもりである。


 さて、俺が今用があるのは弾丸の方だけ。

 

 用意するものは弾丸と木の枝。

 それから、遺跡の跡地に転がっている石や落ち葉など、目についた使えそうなものをとにかく集める。


「怪物の素材とかも使えたら便利そうなんだがなぁ……」


 怪物たちは倒すと黒い粒子となって消えてしまう。

 死体は残らないのだ。

 できればそこもリアルであってほしかったが。


 しばらく歩き回って、たまに怪物を倒して。

 目的のものが結構大量に集まった。


 成功するかどうかは分からないが、ダメで元々だ。


「さぁ、派手なキャンプファイヤーの準備だ」


 あらかじめ石で木の弾丸をたたき割り分解しておいた弾丸の中身——火薬を葉っぱの上に撒く。

 葉っぱは当然乾燥しきったものだ。

 少しでも湿っていたりするものは拾わなかった。


「くくく……ダメだ、笑いがこらえきれん」


 現実でやれることではない。

 もし同じことを公園とかでやって、成功したら間違いなく通報されるだろう。

 

 マッドな笑みを浮かべながら、俺は実験の準備を進める。

 

「よし、こんなもんだろう」


 大量の乾燥した落ち葉の上には、大量の火薬。

 余りぎゅうぎゅうに固めると酸素が触れる表面積が小さくなってしまうので、火薬の粉末をかき混ぜて重ならないように。

 

 火が付くかどうかは正直分からない。

 銃の火薬がどういった性質を持つのかなんて知識までは流石に持ち合わせていない。


 だからこそ、楽しいのだ。

 何が起こるか分からないという好奇心が、俺の心をくすぐる。

 

 まして、これはゲーム。

 メルメルさんが言っていたように『所詮はゲーム』なのだ。

 恐ろしいほどリアルな、ゲーム。

 

 これほど実験をするのに適した場所はあるまい。


「さあ、いよいよだ」


 俺は作った『爆弾』を森の、草木の生い茂っている場所に持っていく。

 火薬がばらけないように慎重に。


「ん?」


 森の中に足を踏み入れると、地面に何かが落ちていることに気付く。


「なんだこれ、松ぼっくりか? それにしてはやけに黒いが」


 もともと明るい色ではないが、俺の知っている松ぼっくりよりもかなり黒い。

 真っ黒と言ってもいいだろう。


「ちょうどいい。これも燃料にしよう」


 松ぼっくりがキャンプなどの際に火種としてよく用いられるのは一般常識だ。

 実際にどのくらい燃えるのかは知らないが、物は試しだ。


 俺は松ぼっくりのような実をいくつか拾い集め、火薬の粉末の中に突っ込んだ。


「着火の方法が一番問題なんだよなぁ」


 木の棒をぐりぐりして火をつけるキリモミ式が最初に思いつく。

 だが、あれはかなり技術が要る上に、道具も工夫しなければならないと聞く。

 とりあえず一応やってみるつもりだが……


「あ、そうだ。銃あるじゃん」


 銃で火薬を撃てば、衝撃で引火するかもしれない。

 そう考えた俺は早速銃のマガジンに弾薬を込め、銃口を爆弾に向けた。

 

「距離も十分とったし、大丈夫だろ」


 森の近くに遺跡の壁があったのでそこに隠れながら。


 俺は爆弾を置いた草むらに向かって、引き金を引いた。



――ドゴオオォォン!!



 起きた現象に、意識が飛びかける。

 すさまじい爆音とともに上がる、巨大な火柱。

 地面ごと飛散した礫が、俺が陰にしている壁に弾丸のごとき勢いでぶつかる。

 

 頬を、粒の一つが掠め光の粒子が散った。

 慌てて顔を引っ込め、壁に礫がぶつかる音が鳴りやむまで待つ。


 そして、もう一度顔を壁から覗かせたところ。


「……マジか」


 広がっていたのは地獄絵図だった。

 爆発の中心地点になったであろう草むらは轟々と燃え上がり、その炎は周囲の木々に延焼していた。


 望んでいた結果であるが、予想以上の山火事具合に罪悪感に近いものを感じてしまう。


「ま、結果オーライってことで」


 そうして俺はしばらく、森林が焼けあがるのを待った。


 

 森林一つ燃え尽きるのには意外と時間がかからなかった。

 時々爆音のような音が聞こえてきたことを考えると、何かしら火薬のような物質でもあったのかもしれない。

 全てが焼け野原となってしまった今では、考えても無駄なことではあるが。


「あの松ぼっくり、何個か拾っとけばよかったかな……」


 もしかしたら、その火薬のような物質があの松ぼっくりだったのかもしれない。

 そうだとしたら、似たようなことに今後も使える可能性があった。

 何にせよ、後の祭りだろう。


「……それよりも」


 焼け野原のど真ん中に建つ、ひとつの建造物。

 ドームというか……王冠のような形で、上の開いた部分が大きく外側に反っている。

 高さは、10階建てのビルくらいだろうか。

 まあまあ高い。


 森林がドーナツのように円状に広がり、ドーナツの穴の部分が遺跡の本体。

 ドーナツの外側が、遺跡の跡地。

 そんな感じだったのだろう。


 一周、石造りの壁に沿ってぐるりと回る。

 すると、建造物には一つの入り口があることが分かった。


 重厚そうな、石の扉だ。

 彫刻が施されており、神秘的なものを感じる。


「…………」


 少し迷い、ひんやりとした石の扉に手を当て、力を込める。

 見た感じ取っ手もなく内開きの扉っぽかったので、そういう開け方をしたら重い音を立てつつも普通に開いた。


「ここがゴールか……——っ!?」


 中を見て、状況を認識し、まずいと思った時にはもう遅い。

 謎の引力に引っ張られ、俺は強制的に建造物の中へ。


「はぁっ!?」


 前のめりになりつつも転倒は避けようとする。

 だが、鞭がしなるような音を耳にして、反射的にそのまま前に転がった。


――バシィン‼


 石畳の地面が砕け、破片が飛ぶ。

 鞭にしてはバカげた威力だ。


「……何だこいつ」


 攻撃を仕掛けてきたのは、この建造物の中で待ち受けていた一匹の化け物だった。


 三十メートルにも及ぶのではないかという、植物の体。

 とりわけ目を引くのは、その大樹の体に生えた大きな眼球だろう。

 枝の代わりに蔓のような触手を何本も生やし、不規則に動かしている。

 今俺を攻撃したのはあの触手か。


 流石に、この化け物相手に殴り合いを挑む気にはなれない。

 

 銃を取り出して構える前に、触手が何本か怪しく揺らめいた。

 同じ場所に留まり続けるのは危険だと判断し、走り回りながら化け物のデカい図体を観察する。


 その判断は正しかったようで、触手が俺を捕まえようとしているのか、迫ってきていた。

 

「はっや……‼」


 とはいえ、全力疾走すれば追いつかれるほどではない。

 ギリギリ俺の方が早かった。


 追いかけまわされながら、大樹に生える眼球に銃口を向ける。

 全力疾走中だから狙いはブレブレだが、あれだけ的が大きければ問題はない。


 ためらわず弾を発射する。

 

 しかし、


「ちっ……ダメか……!」


 高低差のせいで、届かない。

 銃の射程が、眼球の位置にまで達していなかったのだ。


 仕方ないので、現在進行形で俺を追いかけている触手の方に向けて弾丸を撃つ。

 迫ってきている触手は全部で5本。

 本体に対して比較的細く、随分としなやかそうだ。

 

 がむしゃらに放たれた弾丸は何発か木の触手に命中するが、効果は薄い。

 やや弾かれるように迫る勢いを失うだけだ。

 こんな反撃を続けても、意味はないだろう。


「どうしろってんだ‼」


 叫びながら、化け物を倒す方法を考える。

 倒す、というかそもそもダメージを与えることが可能なのかどうか。


 弱点は、多分あのデカい一つ目だろう。

 しかし、大樹の身体の上の方にあるため手が届かない。


「うおぉぉっ!?」


 考える間も十分なく、触手が前の方からも迫ってきた。

 挟み撃ちから逃れるように大きく横っ飛びをすると、巨人が手を叩いたような音がその直後に鳴る。


 転がった体を起こし、前に目を向けたところで。

 建造物の壁沿いに、階段がらせん状に続いているのが目に入った。


(あれを登れば……けど!)


 どういうわけか、階段を登り詰めた先は大樹の化け物の後ろ側。

 眼球の真反対だ。

 眼球と同じ高さには達することができるが、攻撃を直接加えることはできない。


 しかし、化け物の身体に飛び移ることは出来そうだった。


「やるしかない!」


 前からと後ろからとで合流した触手が、蛇のような動きで迫る。

 瞬きも終えぬ間に決断し、俺は階段へと駆け出した。



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