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第二十二話


 八雲さんと別れた後、無事帰宅。

 夕飯の時間まではネットで情報収集、飯食った後はDMOにログイン。


 基本的なゲーム用語も大体覚えたので積極的に使っていこう。


 そんなわけで遺跡ナウだが、一度スキルツリーを確認する。


プレイヤー名:マッキー

>>スキルツリー詳細

【ピストル】

《プロセス0》

《獲得済み》

威力増強(基礎)、照準補助(ドット、スコープ)

特殊射撃(強射、遠距離、反射、貫通、静音)


《未獲得》

なし


《プロセス移行シフト条件》

SP×30、ランク1迷宮主の欲望


 

 ワンナイトオールすればスキルポイントも結構溜まるもので、プロセス0のスキルは全部取ることができた。

 ピストルのスキルツリーに関しては水晶の薔薇の花が満開になっている。

 綺麗だなーと感心しつつ、問題になるのがプロセス移行の条件だ。


 ランク1迷宮主の欲望。

 順当に考えればダンジョンのボスを倒したときに手に入るアイテムなのだろうが、思い出してみてほしい。

 俺が今いるダンジョンは確かランク2だったはず。

 あの巨大百足が迷宮主だと仮定して、百足を倒したとしてもプロセス移行はできないのではという懸念が思い浮かぶ。


「ま、それは実際に倒してから考えるべき問題か」


 皮算用をする暇があったら、試行錯誤の試行回数を増やす方がいい。

 魔導書を持っているのがナギサさんで、彼女は今ログインしていないみたいなので、解読方法を試すことができない。

 

 俺も魔導書を探そうとしたのだがSP稼ぎのついでに遺跡を探し回ってもなかったんだよなぁ。

 見つけることができたナギサさんは幸運に違いない。


 ダンジョンの第二階層である百足の居た青白い樹海に行くには、もう一度遺跡を囲む森を突破して、大樹の化け物が居たドーム状の建物に到達する必要がある。

 

 ところで、あの大樹の化け物について葉月が色々と考察をしていた。

 曰く、大樹の化け物との戦闘は俗に言う「負けイベント」らしく、大人しく植物の蔓に捕まって食われるのがイベントの進行条件とのこと。

 

 それを聞いてふむふむと大人しくその場では頷いていたが。

 俺はまた一つ思いついてしまったのだ。


 あの化け物、今にでも借り返せんじゃね?、と。


 最初に遺跡を攻略した時、森林部の方は図らずも山火事によって突破することができてしまったが、原因が分かった。

 

 まず、森林部にはモンスターが存在しない。

 正確には、積極的に襲ってくるモンスターはいない。

 

 いるのはボマーツーマーという植物型モンスター一種類のみ。

 先日の山火事の犯人はこいつで、あの松ぼっくりはボマーツーマ―の松かさだったらしい。

 衝撃を与えると爆発炎上するという自爆型のモンスターだ。

 松ぼっくりはニトロぼっくりという割とそのまんまなアイテム名で、初期ダンジョンを攻略していない現段階ではモンスターの素材と同じようにインベントリへの収納は不可能。

 

 ただし、物理的に持ち運ぶことは十分可能なようで、わざわざ銃の火薬と合わせて爆薬を作る等回りくどいことをしなくても適当にそこらへんに落ちている松ぼっくりを銃で撃ちぬいていれば、森林を焦土にすることができていたようだ。

 

 ただの初見殺しの場所というわけでもなく、松ぼっくりを踏まないように移動しつつ、探索してアイテムを探す場所なのではないか、というのが葉月の推測だった。


 しかし俺が思うに、もう一つ、この森林には存在意義がある。

 大樹の化け物を倒す手段がこの森なのではないかと俺は踏んだ。

 

「……攻略サイトにも、書いてあったからな」


 大作と称されている他のVRゲームの攻略情報を見た際に印象深かった心構え。

 それを早速実践に移そうと、俺は行動を開始した。

 


 … … … … …



 ボマーツーマ―は他の普通の木に紛れ、プレイヤーが触れた瞬間爆発するという性質を持つ。

 ニトロぼっくりについても、触れるだけであれば爆発しないが、銃撃などの強い衝撃によって爆発する。

 多分踏んだりするのもアウトだろう。


 ニトログリセリンも真っ青な敏感肌を持つモンスターだが、森林内は他のモンスターも爆死するのは嫌なのか生き物の気配はしない。

 ボマーツーマ―に触れないように気を付けさえすれば、いくらでも作業し放題だ。

 見た目も結構わかりやすく、他の木と違って色が真っ黒で、時折独りでに動いているから見わけは簡単。

 

「てか、一回どのくらいの衝撃で爆発するのか試しといたほうがいいか」


 森が炎上すると後々困るので、適当にニトロぼっくりを拾って森の外へ。

 

 まず、地面に落としたらどうなるか。

 ポロっと手元から落としてみる。


 トスっと音を立てて地面に着地するも、何も起きない。

 落とすのは問題ないか。


「じゃ、踏んでみよ」


 瞬間、轟音。

 キーンと耳鳴りの感覚に、視界が白くそまる。

 衝撃が身を襲い、慣れない浮遊感が衝撃の後に来る。


 意識が遮断されるほどの情報量に、状況把握できる状態に回復するまで、かなりの時間を要した。


「ほとんど痛みだろこれ……」


 俺の体重はニトロぼっくりが真価を発揮するのに十分だったらしく、爆発によって俺は吹き飛ばされたようだ。

 

 思考ははっきりしてきたとはいえ体中、痺れているような感覚が酷い。

 まともに動けない上、いまだに目がチカチカしている。


 敵が来たら不味い――と思ったときには既に時遅く、聞き覚えのある濁声。

 

(マッドモンキーか……死んだかも)


 爆発時点で死ぬかと予想していたが、思ったよりも俺の肉体は耐久力に優れていたらしい。

 一個だけだったら、全身麻痺&意識混濁で済むということか。

 

 死を受け入れる態勢に入り、心の中で南無三と祈る。

 猿にとどめを刺されリスポーンするのを待っていたのだが、なかなかその時は訪れない。


 違和感を覚えると同時、戦闘音がする。

 俺と猿ではない第三者の気配を感じた。


「大きな音がしたから来てみれば……どういう状況ですか、これ」

「助かった……」


 チカチカとバグってる視界で声のした方向を見ると、多数のマッドモンキー相手に大立ち回りを演じているナギサさんの姿が。

 ナイスタイミング過ぎる。

 

 飛びかかられてはぶん殴り、掴まれては振りほどいてからぶん殴り、何もされなくてもぶん殴り、ナギサさんは慣れた様子で杖でマッドモンキーを撲殺していく。

 なんかこのゲーム始めてから殴打以外の有効な攻撃手段をまともに見ていない気がするな。

 チュートリアルの時もぶん殴ってたし。

 

 それにしても、動きがいい。

 ナギサさんの動きはとてもゲーム初心者とは思えないものだ。

 俺よりも長くプレイしているのだろうし、この遺跡にいるモンスターの対処はお茶の子さいさいになっているのかもな。


「ふぅ……あまり迷惑なことはしないでくださいね、マッキーさん」

「善処します」


 驚くべきことに、彼女は一人で爆発音につられてやってきたマッドモンキーを撃退して見せた。

 呆れた様子で、こちらに近づいてくる。


 左手に力を込めると、発光しだす手の甲の紋章は赤色。

 紋章の色はそのときの残りHPを表しており、青、黄、赤になるにつれて危険域に達するのを意味しているらしい。


 赤色体力になると体の感覚が鈍くなってくる。

 現に、今の状態でモンスターと戦うとなるとしんどい気がする。

 黄色体力までは自動的に回復するらしいので、しばらく放置しておこう。


「それで、何をしていらしたんです?」

「実験。森に落ちてるニトロぼっくりが攻略に使えないかと思って」

「ああ……でも、インベントリに入れることはできないみたいですよ。手で抱えて持つにも十個も持てませんし」


 彼女自身も試したことがあるのか、そう言われてしまう。

 それでも問題はない。

 大事なのはインベントリに入らないだけで、手に持って使えるという点だ。

 

「試したいことが結構ある。ナギサさんも手伝ってほしい」

「はあ……何をすればいいんでしょう」

「そうだな……ひとまずは魔導書を解読しちゃおうか」

「え?」


 魔導書の解読方法。

 チュートリアルにおいて、プレイヤーが強くなるための要素として魔法が挙げられたのにも関わらず、魔導書を手に入れても役に立たない。

 その点に違和感を感じていた。


 魔導書を解読できるようになる条件について俺が立てていた仮説はいくつかある。


仮説①何かフラグを立てるかイベントをこなすこと

仮説②特殊なアイテムを使うこと

仮説③リアルと絡んだ謎解き

仮説④そもそも魔導書のシステムが未実装


 八雲さんのおかげで仮設④の可能性は薄いことが判明したので、実質三つの可能性。

 今から試すのは仮説②だ。


「魔導書、貸してもらってもいいかな」

「本当に、できるんですか?」

「これで解読できたら、いろいろなプレイヤーが怒りそうだけど」


 俺はインベントリからあるアイテム……解毒薬・・・を取り出し、黒い魔導書に中身の青い液体を振りかけた。


「ちょっ! 何してるんですか!?」

「どうどう。ほら……見てみな」

「見ろって何を……――っ!」


 ナギサさんの顔が驚愕に染まる。

 それもそのはず、意味不明の言語が書かれていた黒の魔導書のページには俺たちが容易に読める日本語が浮かび上がっていた。


《マハリーツクの魔導書》

ランク:3

解読済み:2/10

①:呪蟻じゅぎ呼び

②:蟲喰み

説明:かつて栄えていた西の国の魔法使いは、とある理由から禁術に手を出した。呪術に近いそれを理解することはまさしく毒であり、毒を制すのは毒である。

 長くを生きる、魔法の原初を築き上げた者たちは魔導書を読む者の視覚を侵す毒を塗った。

 ページを進めるには、より強い解毒が必要だろう。



 まずは一歩前進だな。



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