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第十七話


 俺が百足に胴体を切り離されてダンジョンの入り口に戻された後、白銀さんはもう一匹いるという大百足に襲われ同じようにデスペナルティで戻ってきたらしい。

 

「もう、思い出したくない光景でしたね……沼からどんどん小さい百足が湧き出てきて、私に纏わりついてはかじってくるという襲撃方法だったので……そこまで虫が苦手でなかったのが不幸中の幸いでしたが」


 思い出して怖気が走ったのか、体を両腕で抱きしめて震えながら彼女は説明してくれた。


「それはエグイ……てか、百足が湧き出るって」

「大きい百足は特に攻撃してきたりはしなかったので、女王蜂……のような存在なのかもしれません。沼地から出てきた小型百足は、働き蟻の役割でしょうか。一匹一匹はこの杖で潰せるくらいの大きさです」


 彼女の小さい身長と同じくらいの杖を白銀さんは振って見せる。

 

 つまり、洞窟の樹海には、


①100m級の超巨大百足

②沼地に潜む10m級の大百足

③②と一緒に出てくる小型百足


 が生息しているということになるのか。

 

 処理が困るのは、やはり①と②。

 大百足の方をまず何とかしないと、先には進めなさそうだ。


 そのためにも、白銀さんにスキルを獲得してもらって強くなってもらう必要がある。

 インベントリのアイテムのことも知らないかもだから、説明しておこう。

 そう考えて俺は彼女に大山さんと話したことを伝えた。


 しかし、


「スキルとアイテムのことなら知ってますよ。チュートリアルで説明されましたし、スキルについてはほとんどとりました」

「……マジ?」

「マジです。SPのことも知っていたのでしばらくこの遺跡でモンスターを倒して溜めていましたから」


 最初のゲーム説明に格差があるのはいかがなものか。

 今度メルメルさんに会うことがあれば、絶対文句言ってやる。

 

「……そのうえで、太刀打ちできない敵なんですよ。あの百足は」


 確かに、既に彼女がスキルを獲得済みであるとすると、話はより難しくなってくる。

 今のところ強くなるための手段はスキルの獲得に依存せざるを得ない。

 強い武器を手に入れられる目途などないし、チュートリアルの際に少しだけ言及された魔法についても、詳細が不明すぎる。

 であれば、地道にSPを溜めてスキルをたくさん獲得して再挑戦、みたいな感じでいくしかないと思ったが。

 伸びしろが俺にしかないとなると、余り期待はできないかもしれない。


「そうか……ちなみにアイテムの内容とスキルの内容はどんな感じかな」

「少し待ってください。今お見せします。『メニュー』」


 表示されたホログラム画面を彼女が操作して、こちらに見せてくる。


「インベントリの中身は、ほとんど俺と一緒みたいだな」


 白銀さんのインベントリの中には、初心者パックを開封して得たのであろうアイテムが一覧に載っていた。

 唯一、指南書だけが種類が違う。

 俺のは『銃の指南書』で、彼女は『杖の指南書』。

 最初に選んだ武器の指南書が初心者パックでもらえるようだ。

 

「スキルの方はこんな感じです」


 美しい水晶のスキルツリー。

 こちらもデザインは一緒かと思ったが、花の種類が違った。

 俺と同じ薔薇ではなく、コスモスっぽい花だ。

 枝から、黄色い水晶の花びらを咲かせている。

 

 そんな彼女のスキルツリーの見た目に気を払いつつも、花びらから表示されるスキル情報に目を通した。

 

「……何だこれ」


 彼女の言う通り、スキルツリーの花びらはほとんどが濃い黄色になっており、スキル獲得済みであることを示していた。

 十枚の内、八枚が輝きを放っている。

 二枚だけが薄い色のままだ。


 俺が疑問に思ったのは、その構成。

 俺のものと大分違っている。

 スキル系統名は杖【長杖】で、10個のスキル内容は次のような感じだ。


杖【長杖】


①打撃強化(弱)

②打撃強化(中)

③打撃強化(強)

④杖の重量軽減

⑤杖の頑強度向上

⑥杖の魔法強化可能

⑦魔力増強(弱)

⑧魔力増強(中)

⑨魔力増強(強)

⑩詠唱短縮


 取得しているのは①から⑧までのスキル。

 全部が能力強化系らしきスキルだった。

 

「魔力増強のスキルなどはSPに余裕があったのでとりましたけど……肝心の魔法が使えないので今は役立たずのスキルですね」

「魔法についてはチュートリアルでどの程度まで説明を?」

「そうですね……魔法を扱うためには『魔導書』というものが必要ということと、その解読が必要になる、とチュートリアルでは聞きました」

「解読?」

「はい……まあ、実際に見てもらったほうが早いでしょうか」

「持ってるのか」

「遺跡の中で見つけました」


 再びメニュー画面を白銀さんがいじり出すとスキルツリーが消え、代わりに出てきたのは光の粒子。

 パァッとそれらが彼女の手元に徐々に集まって、一冊の本となった。


「ファンタジーだなぁ」

「綺麗ですよね」


 ニコリともせずにボソッとコメントを返してくれる白銀さん。

 今のところ笑った顔を見たことがない。

 ……何か色々抱えてそうな女の子だな。

 

 白銀さんから本に視線を移す。

 遺跡に落ちていたというだけあって、それなりに汚れている。

 厚さは人差し指と親指を平行にしたときくらいの厚さで、結構分厚い。

 黒いハードカバーの表紙に、日本語以外の何らかの言語で表題が書かれていた。

 白銀さんがページをめくると、そのまま破れてしまいそうになるくらい紙はボロボロだ。

 中身も、ぱっと見意味不明の文字列。

 確かに、これを読むとなったら『解読する』という行為が必要になりそうだ。


「ローマ字でもないし、アラビア文字……に近いのか? 読ませる気ないだろこれ」

「外国語は得意なほうでしょうか? 横山さんは」

「ヨーロッパ系の言語ならリアルの方で調べれば何とかなりそうだけど、それ以外だと馴染みがなさ過ぎて無理かもしれん。そもそも、これが本当に魔導書なのか?」


 彼女自身断言している風ではあったが、内容もタイトルも分からないのにどうして魔導書だとわかるのか。

 

「これを遺跡で拾ったとき、そのまま光の粒になって消えてしまって……どこに行ったのかとメニューを探してみたら『魔法』の項目の『魔導書』っていう部分に『黒の魔導書』、というアイテムがありましたので。取り出してみたらこの本が出てきました」

「なるほど……」


 試しに俺自身もメニューを見てみる。

 今更ながらよく確認してみると、メニューの項目は9項目。

 

 上から順に、


①ステータス

②装備

③インベントリ

④スキル

⑤魔法

⑥ダンジョン

⑦コミュニケーション

⑧設定

⑨ゲーム終了


 という項目が並んでいた。


 ⑤をタッチして詳細を見てみると、


①魔導書

②魔導紙

③詠唱

④魔法武器


 の四つの項目。

 それぞれ念のため見てみるが、魔導書も何も持っていないせいかこれ以上何も表示されない。


 魔法以外のメニュー項目も、白銀さんと別れてから確認……というよりもうリアルに戻った後で葉月に聞いた方が早いか。

 魔導書のことについても、葉月に聞いてみよう。


「やはり、手詰まりな気はします。この遺跡はもうあらかた探索し終えましたし、洞窟の方は探索しようにも百足が襲ってきてそれどころではなくなるので……」

「ゆっくり考えよう。今日中に攻略できなければ死ぬってわけでもないし」

「……そうですね」


 今この場でできることは俺の銃スキルの強化。

 それと、百足に妨害されるのを承知で洞窟の探索を進めるかだ。


 デスペナルティがこの遺跡に戻されるだけで済むのなら、ほとんどデメリットは存在しないからな。


「……」

「……」


 ……とはいえ。

 実のところ、一番やりたいことは白銀さんとの対話だった。


 ぱっと見で凛とした、と表現できそうな面持ちは、少し良く見ればそれがただ空虚を移した表情だとわかってしまう。

 ゲームを純粋に楽しんでいる様子でもなく、むしろ何かの義務感からこの場にいるような印象さえ感じられた。


 同じダンジョンで協力が避けられない以上はなるべく友好的な関係を築きたいが、今のところ対話に積極的じゃなさそうだ。


「そういえば、この遺跡。倒したモンスターたちって復活したりするんだろうか」

「どうでしょう……一応、SPを溜めるためにしばらくモンスターを倒し続けていましたが、いなくなる気配はありませんでしたね」

「どこから湧いて出てくるのか気になるけど、それなら好都合か」


 SP稼ぎは狩りの対象となるモンスターさえいれば、俺もこなせる。

 それに、白銀さんが既に遺跡を探索してくれたとはいえ、見逃している場所もあるかもしれない。

 SP稼ぎと一緒に再探索するのが吉だろう。


「今後の方針としては、まずは横山さんのSP稼ぎをして最大限強くなっていただいたうえで、また洞窟の方に再挑戦、という形になるでしょうか」

「……そうだね。まだゲームを始めたばかりで慣れていないことも多いし、色々試してもみたい」


 大山さんに教えられて取ったスキルがどれくらい効果あるのかとか、検証してみたいしな。


「それと、一応ゲームの中じゃマッキーって名前にしてるから、そう呼んでもらえると助かる」

「かしこまりました。私の方はそのままナギサで登録してるので、今後も同じようにお呼びください」


 本名で登録していることに、なんでわざわざ、と少し感じる。

 まあ、本名明かしたくらいじゃそこまで大したリスクはないだろうけど。

 マッキーって名前もよく考えたら本名に毛が生えたみたいな名前だし。


「……今日のところは一旦ログアウトしようと思いますね。もう、夕食の時間なので」


 白銀さんが自分の左手の平を見ながら言う。

 彼女の左手には、青い輝きを伴った時計のような模様が浮かんでいた。

 手の平の時計は、六時半の時刻を知らせている。


 俺も同じように手の平を開いて、力を込めてみたりすると、彼女と同じ時刻を指した時計が黄色の輝きとともに浮かび上がった。

 手の甲には銃の紋章が力を込めなくても常時刻まれているが、この時計の模様は意識しないと浮かび上がらないらしい。


「数字、リアルのとは文字が違うんだな。12進法なのは一緒だけど」

「ローマ数字でもアラビア数字でもないですし、このゲームの世界固有の文字ですかね」


 まだダンジョンの外から出ていないので、このゲームの世界観などは分かりかねる。

 俺が持っている銃とか、衣服のデザインを見る限り、洋風な世界ではありそうだ。

 

「では、お疲れ様でした。失礼します」

「ああ。お疲れ」


 メニューを操作したまま、彼女の身体が青い光の粒に変わっていく。

 物が消えたり、現れたりする演出は全部光の粒子で表現しているようだ。


 相変わらず凝った演出に感心しながら、一人残される。


「……ふむ」


 六時半となると、母さんが夕食を作ってるころだ。

 俺もそろそろゲームを中断するべきだろう。

 白銀さんを見習って、俺もログアウトの操作を進めた。


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