理不尽 一
どうやら、少しウトウトしていたみたいだった。
雷の音で、ハッと目を覚ます。
昔の夢を見ていた気がした。まだ人間だった頃、作業員の頃の夢だ。
日当一万五千円。求人にはそう書かれていた。
だけど、いざ働いてみると内容は完全なブラック。日当も一万円貰えるのが良い方だった。
仕事が終われば、上司によるダメ出しで小一時間サービス残業。
ストレスが重なり、眠れなくて、寝酒を飲むようになった。
鈴ちゃんやビーさんは僕の事をいい人とか、頭が良いなんて褒めてくれるけど
人間だった頃の僕は、常に怒られてばかりの気弱なタイプ。
寝酒が増えて、軽い二日酔いみたいな状態で仕事に行くことも増えた。
思い返せば、僕が事故死した時もそんな感じだったのだろう。
殆ど眠れずに仕事に出て、ボーッとしてしまっていた。
こんなこと、二人に言ったら幻滅されそうだなぁ。なんて下らない事を考えてしまう。
人は皆、何かしらの悩みを抱えて生きている。ツラいのは僕だけじゃない。
言い聞かせ、慣れて上の立場になれば少しは会社も給料も変わると必死だった。
結局、上の立場になる前に死んじゃう辺り、僕らしいのかも知れない。
ふぅ。と小さく溜め息をついた。
外の雨はずいぶんと強くなってきていて、今頃樹海についているであろう鈴ちゃんが少し心配になる。
前世の頃の僕って、こんなに他人を心配したりしただろうか。
他人のために何かをしようとしたことがあっただろうか。
日々、自分のことだけで精一杯だった気がする。
なんとはなしに、ビーさんの方に目を向けてみた。
やる気のない表情で、テレビをボケーっと眺めている。
『ビーさんはテレビ好きなの?』
ひょいっと、窓から飛び降りて、ビーさんの隣へと移動し、問いかけてみる。
『人間が描くストーリーは、希望があるからねー』
いつもの口調でドラマを見ながらビーさんが返す。
『僕達にも、きっとこれから希望があるよ』
だが、僕のその言葉は、臨時のニュースによってかき消されることになる。
そして、そのニュースの内容に……僕は改めてこの世界の理不尽さに、怒りを覚えるのだった。
「山梨県を通る自動車道にて、土砂崩れが発生。乗用車一台が巻き込まれた模様」
そのテロップに、僕はあわててテレビのリモコンに移動し、チャンネルボタンをデタラメに押していく。
ビーさんも流石に察したのだろう。何とも言えない表情で、次々と切り替わるテレビの画面を静かに見つめていた。
まさか、まさかだよね……?
今まで散々不条理だったじゃないか。散々理不尽だったじゃないか。
ここに来て、ようやく希望が見えたのに……。
やがてとあるチャンネルで僕の動きは止まる。リアルタイムで、その事故を中継しているニュース番組だ。
土砂に埋まっている訳ではない。ただ、乗用車が巻き込まれ、木々と共に流されて横転していた。
既にレスキュー隊も到着しているようだが、土砂が邪魔で、上手く救出が出来ていない様子が見てとれる。
『違う、違う車だよね?』
僕の言葉に、ビーさんは返さない。
ただ、静かにその映像を眺めて……やがて口にした。
『やっぱり、理不尽』




