雨
『雨は嫌いだー』
ニュースの音を聞きながら、画面は見る気が無いのだろう。
ビーさんはとぐろを巻いたまま、呟いた。
『僕はこの体になってから雨は好きになったかな』
悲しきかな。カエルの本能。雨が降ると変にテンションが上がってしまう。
そんな下らない話をしていると、バタンと外で大きな音が聞こえた。
恐らく車で外出するのだろう。そのあと、車のエンジン音が聞こえ、遠ざかっていった。
『それにしても、よく樹海にヒントがあるなんて辿り着いたよねー』
ビーさんがとぐろを巻きながら、呟く。
『鈴ちゃんとビーさんのお陰だよ。僕だけならそこまで辿り着けなかっただろうし』
お世辞抜きでそう思う。そもそも、二人に出会うまで前世の記憶をリセットしようなんて考えもしなかった。
『あたしはわりと今の生活に満足してるから、記憶消したいなんて本気で考えなかったしなー』
ビーさんのそれはきっと本音なんだろうな。なんて思いつつ僕は水槽から抜け出すと窓越しに外を見上げた。
「本日は傘を持って出掛けるようにしましょう」
耳に入るのは相変わらず天気のニュース。
外は分厚い雲がかかっていて、いつ降りだしてもおかしくないような空気だ。
『エルちゃんはカエルの姿、嫌なのー?』
気付くと、どうやらビーさんも水槽を抜け出していて僕のとなりで空を見上げていた。
『うーん……別に僕個人の考えだと正直どっちでもいいって感じなんだけれどさ』
なんとなしにビーさんの頭に飛び乗ると、ビーさんは少し可笑しそうに笑って返してきた。
『エルちゃんはオオカミ娘ちゃん思いなのねー。オオカミ娘ちゃん、エルちゃんの発言から凄い気合い入れて色々調べてたからー』
『僕の考えた結論も、確信って程のモノでは無いよ。それでもこれだけ理不尽と不条理続きの世界だからね、少しくらい希望があっても良いって思うんだ』
ポンポンとビーサンの頭を叩きながら、言葉を続ける。
『それはきっと、ビーさんにも言えることだと思うんだよね』
『んー?』
ピンと来ないようで、不思議そうな顔でビーさんは僕を見上げる。
『生まれ変わりが存在するのなら、僕達はまた人間に生まれなきゃ行けなかったんだって、なんとなく思うんだよね』
例え前世の記憶が無くなった状態でも。例え前世でどんな死に方を選んでしまっていたとしても。
人間は人間として生まれ変わり、生きていくべきなんだと、意味もなく思ってしまう。
『まー、前世の記憶が無いにしても人間に生まれ変わって今度こそ勝ち組の人生歩むんだーなんて思ってたしねー』
なんとなく納得したかのようにビーさんが応える。
『ーー雨、降ってきたね』
そして、ポツリと続けた。
それは、今までのビーさんの雰囲気ではない、とても悲しそうな、懐かしそうな、何とも言えない声色だった。




