一人と二匹の確信
「エル君、どうしたの? 難しい顔して」
ふと、鈴ちゃんの声で我に返った。
横の水槽ではビーさんがぐったりとしていた。
どうやらある程度はしゃいで、落ち着いたようだ。
『表情筋なんて、カエルにはないよ』
誤魔化すように鈴ちゃんに返すも、流石に誤魔化しきれる自信はない。
数日間、ずっと一緒に悩んできたのだ。鈴ちゃんはともかく
感情が顔に出ない僕達でも、それは感覚として伝わってしまう。
『いや、冗談。悪魔とか妖怪とかその手の類いなら、どんなのが居たかなぁってちょっと考えてただけだよ』
そう誤魔化しつつ、また思考を巡らせる。
鈴ちゃんも上手い具合に誤魔化されてくれたみたいで、少し考えてから口を開いた。
「人間に悪戯する妖怪は多いよね。記憶の操作とか、そこまではちょっとわからないけど私達、あ……オオカミの方ね。その私達の間でも、人間に次いで気を付けていたのがそう言うモノノケの類いだったよ」
少し懐かしそうに、遠くをみるような瞳で鈴ちゃんはそう言った。
鈴ちゃんの言葉に、それが神様よりも一層現実味を帯びてきた気がして僕は問う。
『僕はそう言う知識一切無いし、人間だった頃もそう言うの信じないタイプだったんだけれど、オオカミの間って言うくらいだし、妖怪って実在したの?』
人間に次いで気を付けていたのが妖怪の類い。という言い方はまるで本当に実在していたかのような口振りだ。
鈴ちゃんは笑って頷くと、答えた。
「実在したよ。人間のおとぎ話なんかで有名なのだと、キツネとかタヌキなんかも多分そう言う扱いなんじゃないかな?」
キツネやタヌキは人を化かすと、確かに聞いたことはある。
「あとは私にある知識だと、不思議なことにカエルは田んぼの神様。ヘビは山の神様。私達オオカミも、とある地方によっては神様として扱われてるみたいだね」
『あ、正確にはカエルもヘビもオオカミも神様の使いって扱いみたいだけどねー』
ビーさんのそれは初耳だった。
確かに、言われてみれば神社でヘビやカエル、フクロウなんかは金運上昇グッズとして並べられていた覚えがある。
そしてふとまた一つ。パズルが合わさるような感覚。
鈴ちゃんが発した言葉とビーさんの言葉は、かなり真実に近いものではないだろうか?
『ちょ、ちょっと鈴ちゃん、ビーさん! それって僕達の共通点だよ!』
思わず叫んでしまった。
そして思わず叫ぶほどに興奮していた自分に自分で驚いていた。
僕達の共通点。前世の記憶を引き継いでいること。
死因と転生先が何らかの形で繋がっていること。
そこまでは僕だけで辿り着いた理論だった。
だけど今二人が語った言葉は新発見。
僕一人の知恵では絶対に出てこなかった発想。
ーー僕達は、神様の使いとしての扱いを人間界で受けている。
『んー、共通点って言えば共通点だけどー』
「また話が神様に戻っちゃうかな?」
二人が返す。その通りなのだが……わからない。
これは正直僕の知識ではわからないけれど、
ほぼ確信に近いものを感じて、僕はビーさんに聞いてみることにした。
『ビーさん、神様が妖怪になったりしないの?』
ここまで絞れれば、僕達を意図的にこうしたモノの正体が突き止められる。
オカルトの類いにビーさんが詳しいことは先の会話でわかっている。
これで一気に話が進むかもしれない。
『んー、結構そう言うケースの妖怪も多いって聞くよー。有名なのだと河童なんかは、元々水の神様が信仰心が薄れて妖怪に落ちてしまったーとか』
書物とか土地の歴史によって色々と違いはあるみたいだけど。とビーさんは続けた。
興奮気味に僕が詰め寄ってもさほどの威圧感は無いのだろう。いつもの口調でビーさんは答えてくれた。
別に悲しくないから大丈夫。元々天敵に詰め寄る時点でおかしいし。
いや、問題はそこじゃない。むしろ答えがそこにはあった。
「エル君、ビーちゃん……」
鈴ちゃんもビーさんの言葉に目を丸くして、それ以上先の言葉が出てこないみたいだ。
でも、言いたいことは伝わってくる。
『んー?』
ビーさんだけピンと来てないのは、まぁビーさんらしいと言うかなんと言うかだけれど。
それでもビーさんの株がここに来て急上昇している。
彼女が妖怪の類いだと言わなければ話はここまで発展しなかった。
そして、更には妖怪は神様が堕ちてしまったモノだとも気付けなかった筈だ。
鈴ちゃんは妖怪は実在したと証言している。
この辺りも色々と神様と妖怪の繋がりを考えると納得の出来る節がある。
鈴ちゃんの時代には、まだ山も多く、そう言ったモノに畏怖する人間達も多かった筈だ。
それが時代が進むにつれて、ある程度の不思議な現象が科学で解明されるようになって……人間は信仰心を少しずつ失っていった。
そして、人間は神の使いとして信仰される生き物に転生。
神の使いとして崇められていたオオカミは信仰を忘れた人間に転生。
それは多分、以前僕が推理したもの以上の説得力を持っている気がした。
何故僕達だったのか。そこだけが未だ解けない疑問ではあるけれど……。
『鈴ちゃん、多分……そう多分だけど、その妖怪を特定するよりも早い方法わかったかも』
「奇遇。私も多分わかっちゃった」
ちょっと可笑しそうに、鈴ちゃんは笑っていた。
そう、可笑しいくらいにそれは身近だった。
僕はまだ確信と言う程ではない。ただ
この小さな島国で、全てに当てはまる場所はきっと一つだけだ。
自殺が多い事で有名で、たまたま僕はその近くで作業中に死んた。
そして、過去、そこにはオオカミの楽園があった。
田んぼも決して少ない場所でもなく、山もある。
そして今現在。その場所は神に対する信仰が無いに等しい。
「ビーちゃん、自殺した場所、聞いてなかったけど、聞いても大丈夫?」
鈴ちゃんはもう確信を得ているかのように、
『鈴ちゃんこそ、オオカミの頃、何処に住んでたの?』
僕もそれに釣られるように。
『あー! わかったー! じゃあエルちゃん何処で事故死したのさー!』
そして僕達の笑みで、ようやくビーさんもその答えに辿り着いたようだった。
ーー答えは、富士の樹海。
僕が近辺で事故死。ビーさんが最後の場所として選んだ所。
そして、鈴ちゃんがオオカミの頃に生活をしていた場所。
樹海の何処かに、答えがある。
僕達三人、全員がそう確信していた。
殆どコメディな感じが無くなってきてしまったのをお許しください……




