天敵はザリガニとお母さん
「お母さんただいまー!」
僕を捕まえて虫かごをグワングワンさせながら、少年が叫んだ。
その叫び声で目を覚ました僕はまだグワングワンする脳で現状把握をしてみる。
どうやらここは少年の自宅で玄関前。
少年のお母さんと思わしき女性が泥だらけになった少年を優しく咎めている。
僕も子供の頃はこうだったなぁ。なんて思い出す。
今時の子供は外で遊ばないなんて聞くけど、この子が例外なのか、大人の偏見なのか……と、まぁそんな事は置いといて。
少年は咎められていることを気にも止めずに僕をお母さんに見せびらかしている。
綺麗なお母さんで羨ましいなぁなんて考えるのはきっと僕の頭がまだマトモに回転していないから。
「今日はカエル掴まえたんだ! ザリガニのエサにしようと思って」
…………そして、今とてつもなく不吉な言葉が聞こえたような気がするのは僕の幻聴だと信じたい。
早速命のピンチですよ。
せっかく生まれ変わって、数百匹の同郷の死を乗り越えたのに。
外来種の糧になれと。所詮この世は弱肉強食と、そう言うことですか。
僕が魔王ならこの世界ぶっ壊してましたよ。良かったですねカエルで!
「んー……でもこのカエル、まだ小さいし可哀想じゃない?」
「えー、そしたらこのカエルどうしよう……」
脳内でぶちギレていた所に女神の囁き。
お母様グッジョブです。ザリガニに食われると言う最悪の未来は回避できました。
「そうねぇ、まだ小さいし、もう少し育ててから食べさせるなんてどうかしら?」
前言撤回。お母様サイコパスです。優しい微笑みがまた怖いです。
『食べないで! 僕人間だよ!』
悪いスライムじゃないよ!
的なノリで叫んでみても、言葉が通じることなどあり得るはずもなく、グワッグワッと悲しい鳴き声が響き渡る。
あと、どうでもいいけど悪いスライムじゃないよって言ってるスライムいたら普通に殺すよね。
悪者が僕悪者だよ! とか言わない理論だよね。
「建君、そのカエル喋ってるよ。人間だって」
不意にお母さんの後ろからひょっこりと顔を覗かせた少女が呟いた。
その少女の言葉にお母さん、建君……あ、多分僕を捕まえた少年の名前ね。
その二人がキョトンとした顔付きで少女を見つめている
「え、ええと……お姉ちゃん何を言ってるの?」
「鈴? えっとどうしちゃったの?」
少年や母親の言うこともわかるが、何より僕が一番驚いている。
ファンタジー展開来た! とかちょっぴりテンション上がってるのは秘密。