オオカミ娘も大変なのです
「ちょっぴり真面目な話してもいいかしら?」
その表情は先程までの無邪気なお母さんとはうってかわって真剣で
ビーさんも僕も思わずお母さんを見て固まってしまっていた。
ビーさんも固まるって中々だと思う。ラスボスお母さん説あるよこれ。
ーーと、そんな現実逃避すらお母さんはさせてくれなかった。
「残念だけど、私にはキミ達の声は聞くことが出来ないから一方的になっちゃうんだけどね」
普通なら自分の娘がヘビやらカエルの声が聞こえるなんて、そんな事を言っても
笑い飛ばすか、小さな子供にありがちな妄想と流すのだろうけれど……
お母さんの口調は至って真剣そのもの。
まぁ、その理由はお母さんの口から説明されたけど
「あの子ね、昔から心を開かない子なの。お母さんだもの。自分の子が本心で話してないって事くらいわかるのよ」
天然な雰囲気の人だけれども、その辺りは流石は母と言った所なのだろう。
少し寂しげに、お母さんは僕達に語り始める。鈴ちゃんの私生活の事を。
「だから学校でも友達なんて呼べる子居なくて一人ぼっちでね」
確かにあの性格じゃ……となんとなく納得してしまったが、
思えば彼女は前世の記憶を人間として引き継いでしまっているんだ。
しかも、彼女から見れば人間は仲間達を絶滅に追いやった種族。
彼女が何を考えて日々の生活をしているのか。
僕が想像する以上に、それはツラい世界なのかも知れない。
僕達みたいに人間から動物になってしまうのも
色々と大変な事はある。だけど、生きるのが精一杯だから正直、悩んだりする事とは無縁だった。
天敵に襲われにくい場所で寝るのとかは悩んだことはあるけど、その程度な訳で。
でも、きっと人間として転生してしまった鈴ちゃんのツラさはそれ以上だろう。
人間の世界にはコミュニティが常に存在する。
友人関係、家族関係、上下関係。
野生動物でも動物によってはある程度のコミュニケーションはあるみたいだけれど
人間のソレとは比較にならないだろう。
だからこそ、食物連鎖の頂点に立てている訳だし。
「私にはキミ達の声も、鈴の本当の声も聞こえない。だからもし鈴と本当に話せるお友達なら、鈴と仲良くしてあげて欲しいなってお願い」
そして、もし出来るなら、鈴がもっと明るく社交的な子にして欲しいなんて思っちゃうかな。
そう付け足して、お母さんはまた笑顔に戻る。
「なーんて、私まで鈴みたいに話しかけちゃった」
お母さん自身、僕達が鈴ちゃんと話せると言う現実には半信半疑なのだろう。
自分が馬鹿らしくなったのか、クスクスと笑うと、僕を改めてつまみ上げて
元の水槽へと戻した。
ーー心なしか、さっきよりも優しい手付きで。
その後はさっきまでの事は無かったことにするかのように、また機嫌良く謎の歌を口ずさみながら
僕達のエサやり、部屋の掃除と手際よく終えて、部屋を出ていった。




