お母様再び
何の気なしに部屋に飾られた時計を見てみると既に時刻はお昼を回っていた。
ビーさんの一人トーク恐るべし。鈴ちゃんが学校へ行ってから四時間近く話していたことになる。
そう思うとなんだか急に疲れてきて、僕も水を飲もうと設置されている池へと向かう。
『水、泥だらけなんだけど』
多分ビーさんが水槽で暴れたせいだ。足元を見てみると
思い切りビーさんが這い回った跡まで残っている。
少しビーさんを責め立てるような一人言を言ってみたが
ビーさんの方を見ると、彼女は満足したご様子で眠っておられました。
鈴ちゃんが帰ってきたら水と土改めて綺麗にして貰おう。
まぁ泥水でも特に飲めないと言う訳でもない。
気分的にはそりゃ綺麗な水を飲みたいけれど。
仕方無く泥水を飲み、少し一服。休憩と運動がてら備え付けられていた木に登ったり降りたりして遊んでいると、ガチャリと扉の開く音が聞こえた。
鈴ちゃんが帰ってくる時間にはまだ早いと思い、そちらに目をやると……
お母様がいらっしゃいました。
少し身構えてしまったのをお許しください。
「話せるカエルさんとヘビさんーは仲良しー」
謎の歌を歌いながらふんふんと機嫌良さげに部屋のお掃除。
どうやら、ただ掃除をして回っているだけのようで一安心。
「でもお母さんにも建君にもお父さんにも聞こえないー不思議な声ー」
かと思えば、歌いながら僕達の水槽へ近付いてきた。
どうしよう変な汗かきそう。汗かかない体質だけど
「本当に話せるのかしら」
そう言って屈みながら僕とビーさんの水槽の位置へ顔を近付けて、ニコニコと手を振っている。
昨日も思ったけど、やっぱり綺麗なお母さんだ。
昨日の件が無ければ素直にそう感じられるのだけれども……。
「やっほー、カエルさん、ヘビさーん、ご飯の時間ですよー」
あ、そう言うことか。きっと日課なのだろう。
そう言って、お母さんはビーさんの水槽に手慣れた手付きでエサを入れた後、僕の水槽にも小さな虫を入れようとして、その手を止めた。
「あららー?」
そして首を傾げる。
あ、そうか明らかにビーさんに水槽内散らかされてるから気になっちゃったのか。
「あらあらー?」
何度も首を傾げては僕の水槽とビーさんの水槽を見比べる。
明らかにヘビの痕跡な上に僕が食べられていないことを不思議がっている様子だ。
「本当に仲良しさんなのかしら?」
そう言って僕をひょいとつまみあげると、ビーさんの水槽へと移し変える。
『おわっ』
思わず声が出た。
あの、お母様。これ、僕とビーさんだから何も起こらないけど
その行為、とんでもなく鬼畜な事ってわかってやってらっしゃいますか?
『んー……エルちゃん、寝込みを襲うのはどうかと思うよー』
ビーさんはビーさんで相変わらず、僕が水槽に来たことだけに反応して、お母さんから貰った食料に口を運ぼうとしている。
寝起きかよ。良く寝るな、流石ニート。
「ごめんねーカエルさん。キミの水槽一度掃除するからそこで我慢しててね」
お母さんは僕が聞こえていると本当に思っているのか、そう言って土を均してから、池の部分を取り外して
また歌を口ずさみながら部屋から出ていった。
『ビーさんが色々荒らしたからだよ』
少し咎めるように僕はビーさんの頭の上に移動して呟く。
『だってー』
『ビーさん、僕の水槽出禁』
正直そこまで本気で怒っている訳でもないので、冗談で僕も返した。
だがビーさんからしたら、
その発言が本気に聞こえたらしく、いきなりウネウネしだして嫌だ嫌だーと抗議をし始めたのでちょっとビックリした。
会話をする分なら別に水槽越しでも普通に出来るんだけど……
そんな居心地いいのかな僕の水槽。
そして、そんな僕以上に驚いていたのが、改めて水槽を設置していたお母さんだった。
「ホントに仲良しさんだー!」
はしゃいだ様子で携帯をこちらに向けていた。
暴れる……と言っても水槽内をうねうねしてるだけだけど。
そんなビーさんの頭に乗ってる僕。
確かに野生ではこんな光景は有り得ないだろう。
ムービーか写真でも撮っているみたいだ。
ビーさんが暴れていたせいで、帰って来た気配に全く気付けなかった。
……いや、お母さんの性格だと、なんかわざとこっそり入ってきて
こっそり眺めていたとかありそうな気もするけど。
ある程度撮影を終えてから満足した様子で携帯をポケットにしまうと
お母さんは少しだけ表情を変えて、僕達の水槽を見つめていた。




