83-4-2 伝説の味と、小さな攻防! その2! ~白リボンのカナタの場合~
『うい、ここはまかせといて』
いつの間にかスッと寄ってきた黒服――もとい、ねこみみメイド服が言ってくれた。
たよれる男、ライカである。
ライカはそそっとエルメスさん、ハルキくんに寄っていき、さりげなくもみんなに聞こえるように言う。
『ちょいごめんおふたりさ~ん。
ナナっちとオミたんからなんか連絡来てな~い?』
「え? いえ、特には……」
「私のほうにもです。
おかしいですね、お二人とももういらしていてよいころのはずですのに」
「ちょっとコールしてみましょうか」
「ええ。そうですね、ここは私が」
エルメスさんはこれが妨害工作によるものと確信したのだろう。ささっと携帯用端末を取り出した。
『はい、エルメスでんか!』
待つこと数コール。帰ってきたのは、『たすかった』という雰囲気のナナさんの声。
なるほど、うるさがたが出発直前の二人を捕まえ、延々となんやらかんやらしゃべり倒して、足止めを食らわせていたらしい。
『上長の話よりもコールが大事かね』という嫌味がちらっと聞こえたが、エルメスさんが『すまない、もう一度言ってくれますか』とあちらまでよく通る声で言えば、言い訳が遠ざかっていく。
それから五秒経たないうちに転送陣が光り、リュックを背負った二人がほっとした顔で現れた。
一連の会話はこの場のみんなに聞こえており、二人の窮状に同情が集まっていた。
ごめんなさいとありがとうとよかったねを交わしていれば、ソリス組も到着。
斜面を下ったところにあるビーチのはじ、直したばかりの船着き場に、海面から頭半分だけ見える巨大な黒龍と三艘の小船、一羽の鳥が近づくのが見えた。
先頭を切る黒龍はいったん頭を砂浜に潜らせるが、そこからすいっと白いTシャツの少年が飛び出してくる。
彼はそして、ふりふりと大きく手を振ってくる。
「みんなー! きたよー!」
「エルマーかあああ!!」
いくつもの驚きの声が上がる。おれも一瞬誰かと思ってしまったが、それはエルマーだった。
いつもの黒クロークをぬぎすて、真新しい白T。いっそう明るくなった笑顔によく通る声と、もうまぶしいばかりである。
つられるように手を振り返せば、つづく顔ぶれも、懐かしいものばかり。
そのなかでまっさきに飛びだしてきたのは、クローネさん。
ソリス領最後の夜のディナークルーズで、おれとタラップを上った灰うさぎ少女。クローリンさんの娘さんのひとりだ。
緑のドレスがよく似合っていた可憐な彼女が、ズボンスタイルでぴょん、と船から飛び降りてくるのは、なんともギャップかわいい。正直うれしくなってしまう。
「クローネさん! おひさしぶりです!」
「えへへっ。おひさしぶりです!
まさかカナタさんたちと畑をやれる時が来るなんて。はたらきますよー!」
「へいへーい! あたしもいるわよー! ぴょーん!」
続いて降りてくるのはクローネさんの妹、黒うさ少女のクロートーさん。
やっぱりズボンスタイルでぴょーんしてきてブイサイン。こちらもうん、かわいい。
参加者はエルマーがまとめて送ってくれてたから、二人がいることは知っていた。
けれど、やっぱりかわいい。二人ともとんでもなく可愛い。
これで畑のことは任せなさいなんだから、素晴らしいとしか言いようない。
おれは内心で、神とクローリンさんにひざまずいて感謝したのだった。
そんなこんなで、船を降りる人、空から舞い降りる人、ぷはっと海から上がってくる人たちがつづき、12人のソリスの匠たちが上陸完了。
イツカたちが明るくもてきぱきと、ソリス、ステラの匠たちを招いた。
「っしゃあ! 今日来るメンツはそろったな!
ようこそみんな!」
「そんじゃあ、エンブレムくばるぜ! 隣のやつに回してくれな!
カナターエンブレムーわたしてー」
おれとおれはイツカのとなりに行くと、あらかじめつくっておいた魔王軍エンブレムを取り出し、ひとつずつ回していった。
ステラからのスポンサー勢三人は、もちろん数には入らない。
なぜなら、ソリステラス内での放送関係をまとめているアイリーンさんは、まだ中立でいなければならない。サクヤさんとシグルドさんは、開戦派を代表するという立場から、やはりこれを受け取れないのだ。
……いや、ひとりだけおかしいのがいた。
スポンサーズの一人、片眼鏡の銀髪イケメンは、誘う笑いで左手をみせびらかす。
「カナタ殿。今なら簡単に咬めますけれど、どうします?」
「おれに飼われたいなら、ちゃんとわんこになってから来てくださいね?」
もちろん即却下。それをしてしまったらおしまいだ。
今持ちかけられているのは『フィルの薬指の誓い』、そのための決闘――大精霊『天狼フィル』の名のもとに、左手の薬指を咬んで決闘をする。勝者は敗者の主となる。この誓いを蔑ろにすれば命を失う。そんな古の儀式――を出来レースで片づけちゃってもいいんだよ、という大胆すぎるお誘いだ。
これを用いれば『大神意』を逃れることもできるだろう。今ここで彼を従えてしまえば、『ステラ杯』に出るなと命令もできる。
けれどおれは、人間がほかの人間を所有し、隷属させる制度をなくすために戦ってきた。そのおれがこれに頼ってしまったら、もはや求心力もへったくれもありゃしないのだ。
「それでこそ、わが『兄上』。
楽しみにしてますよ、あなたとまた、闘れる日を」
もっとも、それはわかってのことだったよう。
油断ならないおしかけ弟(10歳ちかく年上)は、無駄なくらいの色気を漂わせてのたまった。
後からチェックしたらこの時の動画の再生数は、ケタ一つ違うレベルではねていた。
うん、解せない。解せないがスポンサー・シグルド、仕事自体はいいものをやってくれたようであった。
案の定「みずおと」練習までとどかねえという……ごめんなさいm(__)m
いちおう第二話のストーリーはできてるのですといういいわけ。
次回、頑張りますっ! おたのしみにっ!




