83-4-1 伝説の味と、小さな攻防! その1~白リボンのカナタの場合~
2022.05.18
サブタイの抜けなどを修正しました。
もうひとりのおれがステラにいたときには。→おれがステラにいたときには。
前半メシテロ(白米)です。
突撃レポーターずを送り出し、もう一度寝なおすと、いい匂いで目が覚めた。
このおだし感はソーヤだろう。そっとよりそうごはんの香りはコトハさんの。
はやくも幸せに浸っていたら、クーリオとライカの呼ぶ声がしてきた。
「はーい! みんな~ごはんよーごはんだよー!」
『ごはんごはんごはんだよ~ん!!』
「はーい!!」
待ってました。次々飛び出す野郎ども。
寝起きのおれは身だしなみを整えなおし、その後ろに続いた。
仮設の食堂で待っていた朝ごはんは、サンドブルと根菜のさっぱりシチュー、ほかほかの釜炊きごはん、そして島のハーブを入れたミニサラダ。デザートはもぎたてフルーツ(りんご?)だ。
お米と野菜類、調味料は持参のもの。フルーツはチナツが生やしたものだというが、そのほかは総じて島のもの。
アルムさんに教えてもらった水源は、うれしいことに健在だったと報告にあった。そのまま飲めて、ご飯もおいしく炊きあげられる水質なのもありがたい。
そのアルムさんは、現在やまもりのお茶碗を前に感動しまくっている。
『おおお……これが伝説の『GIN-SHARI』……なんと優しき、良き香り……!!
わしの生きていたころはまだ、オコメはステラでは高級舶来品での。王族や上級貴族しか口にできないものだったのじゃ……!!』
「お気に召したならよかったです。どんどん召し上がってくださいね」
『いただきますっ!!』
にっこり笑うコトハさん。朝日に映える天使の笑顔だ。フユキがわかりやすく見とれている。
アルムさんは『ははあっ』と言わんばかりに手を合わせ、ばくばくと食べ始める。
いやいや、アルムさんって幽霊のはずだけど。見る限り、普通におわんが持ち上がり、スプーンが動き、ご飯が減っていく。それでいいんだっけ。
おもわずじーっと観察していると、アルムさんはハッとしたようす。
『いかんいかん、ついつい夢中に。
レクチェたちの……妻たちの墓前に供えてやってもよいか』
「はい、もちろん。
おそなえ用のおむすび、おつくりしてあります。一緒にお供えしに行きましょうね」
『かたじけない……!!』
コトハさんの優しい答え。アルムさんが目頭をつまみ、食堂はじーんとした空気に包まれた。感激しやすい何人かは泣くのを我慢している。いや、あまり我慢してないのもいる。
そのひとり、ソーヤはあきらかにハンカチで目元をふいて、陽気に声を上げる。
「くっそー、いい話だ! あやうくシチューがしょっぱくなるとこだったぜ!
さあ野郎ども、まずは食うぞ! そしてみんなでお参りだ!」
「おーう!」
まるでどこぞの海賊船長のようにハッパをかければ、パッと明るくなる雰囲気。
さっそくいただきますと食べ始めれば、シチューもごはんもサラダも、安定のおいしさ。
どこか異国情緒の漂うごはんは、ペコペコのおなかにどんどん入っていった。
朝ごはんとお墓参りがおわり、ひと段落ついたころにエルマーとタクマから連絡が入った。いずれも今日の予定通りの人員を連れてこれるとのことだ。
エルマーは、六つの一族から二人ずつ。
タクマは職人さん三人、そしてステラ国内のスポンサーを連れてきてくれる予定。
そしてそれに先んじて、ユキさんナナさんハルオミもここに来る。
ちょうど、『到来の間』の扉が光った。おれにはわかる、ユキさんだ。
彼女は明るく扉をあけて「おはよう!」と手を振ってきた。
おはようを返すと、その後ろで移動用の陣が光を放つ。
光の粒子が巻き固まるように舞い、ふわっと現れたのは、手をつないだ七人。
タクマと、ステラの工房見学の時に会った職人さんたち三名。そしてなんとアイリーンさん、サクヤさん、シグルドさん。
とりあえずまずはご挨拶だ。
「ようこそいらっしゃいました!
えっと、確認させていただきたいのですが……タクマは戦力担当。職人さんたちは匠の技をご指導くださって、アイリーンさんはスポンサー……でいらっしゃるかと存じますが、サクヤさんとシグルドさんはどのような御用向きでしょう?」
ぶっちゃけこの二人は、一週間後に戦う相手だったりする。
敵、とは思ってないが、単純に味方と思える状況でもないのは確かだ。
微笑んで答えるのはアイリーンさんだ。
「驚かせてしまいましたかしら。サクヤはわたくしの助手。シグルド様は、この島にゆかりのある者の代表としてお邪魔したのですわ。
シグルド様のお母上は、クルーガー本家のご出身でいらっしゃいますから」
『失礼、ご婦人。
わしはフォルカ=アルム=クルーガー。この島のヌシ的存在じゃ。
シルウィスのような大貴族がなぜ、わしらのような小貴族と結ばれる?』
まず声を上げたのがアルムさんだった。ぴんときたのだろう。実際、そんな事実はなかった――すくなくとも、おれがステラにいたときには。
この島がおれたちに譲与される話が決まって即時、お父上の政略結婚なんかで強引に、近い姻戚関係を作ったか。
シグルドさんのやつめはさらっとすっとぼけた。
「愛です。」
『そうか……なら、致し方あるまい』
「愛なら仕方ないな!
まあまあ、ここで立ち話もなんだ。座れる場所にいこうじやないか」
アルムさんとイワさんはあっさり丸め込まれた。ええええ。
おもわずうろんな目でおとぼけ狼男を見ると、ほんのりとほほを染めてのたまわる。
「そんな目で見つめないでください『兄上』。
わたくしはいつでもあなたを敬愛申し上げている、それだけのことです」
後ろのほうでなんか盛り上がっている人々がいるようだ。解せない。
やつらはうれしそうにわさわさ移動しだした。仕方がないのでそれに続くと、やつはおれに並んでしれっと言う。
「『ステラ杯』の対戦であなたが私に勝てば、今度こそ私はあなたのモノ。ぎゃくに私が勝てばあなたは私のモノ。
いずれにせよ、その暁には私はここの住人です。近未来の住環境を少しでも心地よいものにするために、出資をするのは当然のこと。違いますか?」
一応筋の通ったことだが、若干の疑問もある。
「なるほど、それは理解いたしました。
ですが、そのときにサクヤさんのことはどうするおつもりなのですか?
『ステラ杯』が終われば、この島の沿岸はソリス、月萌が攻めてくる戦場となります。そこに婚約者を連れてくるのですか」
「婚約者だからこそともに参るのですわ、カナタさま」
答えたのはサクヤさん。シグルドさんの腕をとり、きっぱりと言い切る。
最初に会った時の内気さからは、想像もつかないほどまっすぐにおれを見て。
「それに、わたしもこの島、素敵だと思いますもの。
たとえばひと時のこととしても、ここに住まってみたい。そうしてこの潮風とともに歌ってみたい。今、サーヤはそう思っておりますわ」
しっとりとした黒髪を風になびかせ、微笑む姿は美しい。
なにより、そのきれいな声から嘘は感じなかった。
白イツカが陽気に声を上げる。
「そんじゃーさ。ステラ杯おわったら合同ライブでもすっか!」
「いいですわね!」
「そりゃいいや! やろうぜみんなで!」
わいわいと盛り上がりが生まれたところで、ユキさんがそっとおれをつついてきた。
「ごめん、カナタ君。
ナナとハルオミ君、まだ来てないのよね?」
「来てないけれど……」
ふたりはのんびり屋だが、時間には遅れない。というかむしろ早く来てまったりお茶しているレベルである。
小さく胸騒ぎがした。
一括ダウンロードのいりょくがすごすぎる件……( ゜Д゜)
もちろんいつもいらしていただく方にもいつも感謝なのです。
どちらさまも、ありがとうございます!!
次回、ついにきた『地味な妨害』?!
島整備とはじまる『みずおと第二話』練習の予定です。
どうぞお楽しみに!




