Bonus Track_83-1 しあわせの条件、もしくは、ある日の日記~シロウの場合~
昨日のうちに、月萌軍からの知らせが来た。
『シエル・フローラ・アーク』は当面使われないことになった、と。
理由は、第四陣で明らかになった脆弱性のため。
まさか『シュートザムーン』を無効化できる覚醒技が直前で生えてくるなんて、誰が考えただろう。
ともあれこの状況が何とかならない限り、『シエフロ』を乗用艦とはできない。
それでも、『セント・フローラ・アーク』はまだ有用だ。
俺たち『カルテット』は一週間後の出動までを、休息と研鑽、卒業にまつわるあれこれに当てるようにと申しつかった。
『魔王軍』に捕らえられることを避けるため、前線には出ない。あくまで洋上の母艦内から、出撃艦に『セント・フローラ・アーク』をかけるのみだ。危険はない、といっていい。
そのことを伝えても、ハナナさんとルイさんは俺たちを心配してくれた。謝ってさえくれた。
いいのだ。俺たちがしたくてしているのだ。
友が望まぬ場所に行かずに済んで、笑っていてくれれば、それで俺たちは満足なのだ。
けれど、二人にはどこか引け目があるように感じられた。
どうしたものか。
『まあそのへんは俺たちでみんなに相談しておきますから。二人は心配せず、ワークスに集中なさい』とタマキが言ってくれた。
自慢ではないが、俺はそうした機微に聡くはない。ありがたく、勧めに従うことにした。
騎士団内の意見は一致をみている。作るならばまず、ロアンの覚醒のためのウィッカーワークスを、と。
彼が覚醒できない原因は、半端ない親切さと強さを持ち合わせてしまったことにある。
困っている人を見ると手を差し伸べる。面倒だなどと思いもしない。
調子のいい奴、口のうまいやつに利用されても、サラッと勝って、困ることがない。利用されたという意識すらない。
ミッドガルド時代からそのフォローをしてきたというミキヤのおかげで、心底困るようなことにはなっていないのだが、逆に覚醒できるほど追いつめられることもないまま、万年三ツ星に甘んじてしまっている。
そのミキヤも結局人が良く、気づけばロアンやほかのやつの世話を焼いてしまうため、自分の覚醒トレーニングが後回しに。覚醒がかなったのは昨日、イツカナたちのバトルに触発されてのことという。
高天原学園には見えない天井がある。三ツ星以下の在籍可能年齢は十九歳が上限なのだ。
四ツ星にならないまま二十歳になれば、卒試パスまでの学外休学を求められる。
バイトしながらの卒試準備は厳しく、ドロップアウトも多いと聞く。
現在、ロアンは十九歳と半年。ぎりぎりのラインだ。
本人は大丈夫ですよ~なんて言っているが、いまだ覚醒の予兆もない。
『騎士団』ができるまでは、こんな風に、誰かの心配などする余裕もなかった。
苦しそうにしていたクラスメイトが、気づけば消えている。けれどそれを深く考える間もなく、日常が押し寄せてくる。
そんな日々に、いつしかマヒしかけていた。
誰かを案じる気持ち。ひととしての感情。
それを取り戻してくれた騎士団のためにも、もう仲間を、誰かを捨て置きたくなどないのだ。
退院して学園に戻って、すぐに準備にかかった。
俺も使い切りとはいえ呪符を作り、使うことが少なくなかった。おかげで、すこしなら陣の構築の手伝いもできるようになってきていた。
この先、もっと学び、研究し、コウとともにウィッカーワークスを作ってゆきたい。そんな気持ちが日に日に強まっているのを感じる。
この戦いが終わったら、仲間たちの成長のためのワークスを作ることに専念したい。
コウのつくるワークスは、そしてそれを作り上げるコウは、俺の知る何よりも美しい。
そのそばにあれるなら俺はおそらく、一生幸せでいられると思う。
結局日記回になってしもうた。
会話率さんたぶんヒトケタ。
次回はまた魔王島開拓記にもどります♪
どうぞ、お楽しみに!




