83-2 整備・ざ・魔王島!~なまはげ、爆弾発言、エアリーさん~
「おーい、勇者と魔王と聖女どのー!
どうじゃ、この海の家! 明るい南国パラダイスふうにちょっぴりわびさびをトッピングしてみたぞ!」
うまうまのおべんとうタイムをおえて立ち上がると、ちょうどクレイズさまがやってきた。
ぱっと明るい色使いの海の家のそば、上機嫌で手を振っておいでになるけれど。
ちょっと距離があるので、おれは手をメガホンにして問いかけた。
「明るい南国パラダイスふうはわかりますけど! どのへんがわびさびなんですかー?!」
「ほれみよ! この海の家のマスコット、『なまはげくん』じゃ!」
「そこっ?!」
いや、いやいや。
資料によれば『なまはげ』は南の島の生き物じゃない。それが、モダンな『海の家』の入り口近くに鎮座している。小学校低学年の子供くらいあるでっかいソフトクリームの模型といっしょに――しかも、なんだか涼し気な色使いを身にまとって。
どうしてこうなった。っていうか、なんでなまはげ。
笑顔で困惑していると、クレイズさまが「あっ」と声を上げた。
「どうやらシークレットガーデンに『ちゃれんじゃあ』たちが来るようじゃ! すまんが神獣たちと抜けるぞっ!」
そうしてウッキウキで姿を消した。
『魔王島』開拓に協力してくれている、四女神と五神獣――というか、そのナカノヒトたち――は、ミッドガルド隠しダンジョンのボスキャラだ。
本業はそちら、挑戦者が来れば、行かないわけにいかないのだ。
「すばらしいバイタリティです。
建築に、戦いにとびまわり、しかも笑顔を絶やさない。
だからこそ、バーチャル世界のとはいえ、女神が務まるのですね。
私も、もっと精進しなければ」
エルメスさんが感嘆のため息を漏らし、白イツカとハルキくんが素直にほめる。
「何言ってんだよ。エルメスだってあれからステラを回って、いろいろハナシつけてきてくれたんだ。十分すげーって!」
「ほんとだよ。俺もエルさんについてけるよう、がんばらないと!」
おれもうなずく。エルメスさんはありがとうと笑って、こういってくれた。
「ひとつには、慣れもあるのです。
女神様やあなた方は、慣れないこの地でも自然に笑っておられる。それがすばらしいのです。
それはもちろん、きーさまもです。
大丈夫です。人を愛し愛され、底力のあるあなたなら、きっと笑ってこなせるようになります」
「エルさん……はい!」
ほほえましいふたりがラブラブモードに入ったので、おれたちはあたたかく見守ることにした。
そのまま、館方面へ歩を進める。
この島に立つ家は、古いステラ風の建築様式にのっとり、石造り。それが幸いしてだろう、意外と状態がいい。
館探索隊からの中間報告も、大きな異常なし、である。
しかし、事件は現場で起きた。
具体的には、公開露天風呂の候補地で。
おりしも、トラオがイメージスケッチを描いているところ。
スケッチブックをうしろからのぞきこみ、アルムさんが言ったのだ。
『おーおー、露天風呂かー。
よいのう……満点の星空の下、妻とふたりで入ったっけなあ』
「のろけかよ!」
『なに、トラオはまだ婚約者どのと入ってないのか』
「ね・え・よッ!!」
トラオは真っ赤になって叫んでいる。どうやら本当のようだ。
おれたちのなかで一番『進んでる』のはルシード、同着一位はトラオと推測されていたのだが、なるほど、そうだったのか。
もちろん、ここは聞かなかったことにしようとうなずきあい、そっとその場を離れようとしたところ、さらなるバクダンが放り込まれた。
どこからかひょいとあらわれたリンカさんが、衝撃の発言をなさったのだ!
「あら、子供のころはみんなで入ったじゃない」
「よけーなこというんじゃねええええ! 出てけお前ら!!」
もちろんおれたちは全速力で撤退した。
おれの第四覚醒 (仮)は露天風呂をつくるにもきっといい助けになるはずだったけれど、いまは刺激しないほうがいいだろう。というか、トラオがイメージを固め、スケッチだけでも描き上げないと手伝うのも難しい。
そんなわけでいったん、エアリーさんとチアキが来ている農園に向かった。
「あー、みんなー」
農場跡地にいたのはチアキ一人だ。楽しそうにやっているのは、じゃまになった石やら枝を拾い集め、運び出す作業。
その進捗、なんと八割越え。ハルキくんが驚愕する。
「えっ……ええっ?!
チアキさんたち午後からいらしたんですよね?! 早くないですか?!」
「あ、半分はエアリーお姉ちゃんが!
そのあと、僕のとこも半分やってくれたの。
お姉ちゃんはいま、森に土を取りに行ってるよ!」
「だ、大丈夫なんでしょうか、おひとりで……
それはエアリーさんは、おれたちよりもお強いですけど」
「だいじょうぶ……とは思うけど、いちおう聴いてみるよ」
エアリーさんはいつもふわふわしているけれど、その正体はミッドガルド最強の女神である。よって戦力に不安はないが、ハルキくんも心配そうだ。地面に耳を潜らせ、無事かを探ってみることにした。
結果、まったくご無事である。
ただ、現在地はけっこう森の奥。そこから土を持ってくるのは、少し手間がかかりそうだ。
よし、いまこそ、おれたちの出番である。携帯用端末からコールをかけ、お手伝いを申し出た。
なまはげのインパクト……ッ!!
一話に収めたかったけど長かった。
次回、星見酒まで行く予定! どうぞ、お楽しみに!!




