82-6 なつかしの回想と、月の天使の贈り物
エルメスさんは言った。タクマも、シグルドさんも、スキルアプリ『ソードダンサー』をインストールしていると。
「貴族や王族の場合、基本的にみなこれをインストールします。
もっとも本職は『熟練度:マスター』のうえにさらに鍛錬を積みます。そのため、ほとんどの場合『守ってくれる者たちの邪魔にならない立ち回りをする』ために使われるものなのですが」
「なるほど。
つまりタクマやマルキアたちは、ステラ領内でも別格の剣士、ということなんですね」
「ええ。
私からしてみれば、『ソードダンサー』も使わずにかれらと渡り合えるようにまでなられたイツカ殿たちは、奇跡の申し子のように思えます」
「うーん……ある意味イツカは奇跡ですね……」
「ちゃんとした訓練も受けず、ひたすら『突撃にゃんこ』で高天原までこれたとか……」
遠い目になるおれたち。ハルキくんはうんうんうなずいて言う。
「ほんとにイツカさんのバトル愛はすごいですからね!
ミッドガルドにいらっしゃる時間の八割くらいはバトルでしたし!」
「え、よくチェックしてたねハルキくん……」
「えへへっ。分析をしてくれたのは兄ですけど。
ちなみにカナタさんのイン時間の八割超はイツカさんやミライさんのために使われてました。だからあんなに連携がすごいんですね!」
「そこまで分析してたの?!」
「兄もカナタさんみたく、的確にパーティーメンバーを助けられるクラフターになるのが目標でしたから!」
「えっと、……だからハルオミは名『おやつがかり』だったんだねっ」
うう、こんなのもう、照れるしかない。照れ隠しに話をそらした。
かつてフユキが『暴食』の宿主であることに気づかず、『突然おなか減って変なこと言いだすイケメンクラフター』だったころ。
ハルオミは『異変』の兆候にだれより早く気づいて、フユキにおやつをあげていた。
気遣い細やかで芯が強く、いつもほんわか穏やかなハルオミは、『クラフターチームの安心感』だった。
『第四陣』で彼とナナさん、そしてユキさんは、おれたちの部屋の前で、最後の門番をしてくれていた。
通すべき人、そうでない人を見極め、時には身を挺して食い止める。
そんな、責任重大なポジションを任せることができたのは、エルメスさんと一緒にやってくるハルキくんのお兄さんだから、というのだけが理由じゃない。
的確な見る目、そして安定感のためだ。
もっともそのせいで3人は精神的に消耗してしまっていたので、明日まではお休みしてもらうことにしている。
「カナタ殿。まさかとは思うのですが、シグルドとの戦いに『ソードダンサー』をお使いになるつもりですか?」
「そうですね、……使いよう、かと」
フィル=シグルド=シルウィス。ステラ開戦派筆頭としての彼と対峙したころに、その戦いは研究した。
彼は基本的に召喚士だ。自身はあまり動かず、対処のほぼすべては召喚された雪狼が行う。
いちおう小剣は帯びているが、それを抜くことは皆無といっていい。
そもそも彼にそこまで肉薄できるのは、それこそタクマぐらいのものだ。
けれど『大神意』につかまった彼は、前以上の本気で、できうる限りのことをしていることだろう。
付け焼刃の剣技ごとき、素で蹴散らかされると考えなければならないが。
そのとき、視界のすみ。イツカたちがいる方向で、光の柱が天に伸びた。
「あれは?!」
「うわあ……なんでしょうね。すごくきれいです!」
光の柱がきえると入れ替わりに、白く輝く羽根が降ってきた。
おもわず『超聴覚』を向けると流れ込んできたのは、ルナの清らかな祈りの声。
『イツカくんが、無事でありますように。元気で、ケガなんかしないですみますように。笑ってもう一度、会えますように。
みんなみんな、無事でありますように。もう一度みんなと仲良く笑って、たのしくお茶できますように。
この戦いが一日も早く終わりますように。できるなら、だれも傷つかずにすみますように』
彼女はいまだ、『大神意』の影響下にあるはずだ。けれどこの声からはそんなもの感じ取れない。
どこまでも優しい奇跡の祈り。じーんとしながらも、いったいイツカたちが何をやらかしたのかが気になった。
「行ってみよう!」
おれたちはトレーニングを一時中断。イツカたちのもとへ走ったのだった。
まとまらなかった……orz
次回! 次回まとめます!! お楽しみに!!
なぜかここ数日アクセス数が激伸びして驚いてます……いったい何があった。
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