Bonus Track_82-5B 愛しい回想、そして月の天使のおくりもの~イツカ(白リボン)の場合~
2022.05.09
誤字修正いたしました。
『0-G*』←『0-G*』
伏線とかじゃないのです凡ミスなのです……失礼いたしました。
もう一人の俺がきれいな銀色の枝を作った。
なんでも、セレネのことを考えてたとか。
俺の手元の釜にあったのは、これまでの例にもれず、エリクサー。
「月の女神、か……」
思い出されたのは、ルナのことだった。
カナタ――俺とおなじ、くぐつの体のほうのだ――は、隠していたが不安がってた。
自分はもしかして、にせもので。やがてはかなく、消えてしまうのではないかと。
いっぽう俺は、平気だった。
とりあえずいま俺は増えてて、また一人になる。けど、それに際しても記憶と意識は続いていく、そう聞いて、そう思っていたから。
それでも、ルナは『この俺』を、気遣ってくれた。
そのときに俺は思った。ひとりに戻ればルナを選ばない未来が来てしまうかもしれない、それは、絶対にいやだと。
だから俺は、カナタと、もう一人の俺たちと話し、ルナに気持ちを告げた。
決死の告白とバラの花束を差し出すと、ルナはしあわせいっぱいの顔で『はい!』といってくれた。
ルナは、めっちゃ可愛くて、すっごく綺麗だ。
星降町にいるころ、よくカナタがライムちゃんを目で追ってたけど、今となってはその気持ちがよくわかる。
背中の白い翼はハト装備だってわかってるけれど、それでも天使みたく見えるのだ。
もうずいぶん前みたいな感じがするが、日曜の歌合戦。
ステージ上につられた三日月のブランコから、ルカと二人で舞い降りてきたときには『マジ天使』と口から出かけた。
『イーツーにゃーん? なーにしあわせそーな顔してんのかなー?』
「にゃっ?!」
と、突然ほっぺたをプニッとされた。我に返るとターラがニマニマ、クレハがビミョーな顔になっている。
あわてて叫びかけて声を落とした。俺のとなりでは、もう一人の俺が考えにふけってる。こんだけ集中してるなら、テラかにゃんこでも降ってこない限り平気かと思ったが、一応静かにすることにする。
「いっいやっ、ほらルナって本名ハルナだったしやっぱ関係なかったなーっていうか」
『ニックネームの効果ってのは侮れないよ~。
いつも『ルナ』って呼んでるなら、ハルナっちはルナっちになる。
というか、そもそもルナっちの装備の『鳩』。これは月の女神に関連が深いとされてるものだからね。
もう一度やってごらんよ、ルナっちのこと思い浮かべて』
「え、マジに……?!」
あわててごまかしたつもりだったけど、まさかのストライク。
さっそく、水入れて草入れて火を調整してリトライだ。
ぐるぐるお玉を回しつつ、目を閉じればまずよみがえるのは、あの告白の日のことだった。
このさき、俺が18になって。
そのときもルナが俺のことを好きでいてくれたら、人の体をもらって。
そうして、結婚しよう。
そう、二人で決めた。
ルナはすごくすごく嬉しそうで、ああ、言ってよかったと、心底思った。
次に思い出されたのは、歌合戦のラスト、画面越しにマイクを向けてくれたときの笑顔。
ひとっかけらの不安も見えなかった。
俺のことを信じ切ってくれているのだ。
あの信頼に、こたえたい。強く強く、そう思った。
最後は、俺たちがイツカとカナタとして、高天原を発つと決めたときのこと。
ノゾミ兄ちゃんに頼んで『精神支配絶対防御』のお守りを渡しておいてもらって、カナタはルカと、俺はルナと、それぞれ会った。
そして、離れざるを得なかった間のことと、これからのことを話した。
歌う者同士、歌で思いを伝えあいたい。そんなこと言いながらも……
ホントいうと俺は、ルナさえいいといってくれるなら、一緒に連れてってしまいたかった。
けれど、ルナの意志は固かった。
『わたしも、イツカくんといけたらすごくうれしい。
でも、わたしにも、しなくちゃいけないことがある。
イツカくんたちが高天原の王様になってくれる日まで、ここに残らなきゃいけない人たちのこころを支えること。
学園のみんなや、ダンサーズのみんな。この町の人たち。
それに、るか。
それはきっと、わたしにしかできないことだから。
おねがい、イツカくん。わたし、イツカくんだけを待ってる。
だからまた、力を蓄えて、もどってきて。
女神様にもだれにもまけない、りっぱな正義の魔王になって、わたしを迎えにきて』
ルナはけなげに微笑んで、俺にそう言った。
わかったと、俺は言って、小指を絡めて約束した。
思い出すと、いまでも右の小指が熱くなる。
あれから、半月あまり。
めいっぱい、歌って踊って戦って。
俺はルナを迎えに行ける男になっているだろうか。
いや、足りない。まだ、もっと、強くならなきゃだ。
なぜって、高天原を陥落しても、終わりじゃない。
もう一度三女神の承認を得て、グランドマザーに会って、リベンジを果たす。
そうして初めて、俺とルナは幸せになれるから。
そのためにまず、俺の未完の第四覚醒――『0-G*』を完全なものにしたい。
そのとっかかりが知りたい。この錬成で!
願いを込めてぐるぐるとかき混ぜていれば、まぶたごしにわかるほどの強い光を感じた。
小さく目を開けると、釜の中から、直視できないほどの光が生まれていた。
これは。予感のままにさらにお玉を回せば、光はさらに強まって、天へと伸びた。
まるで、天と地をつなぐように。
やがて青い空から降ってきたのは、何枚もの光の羽。
そっと掌で受ければ、俺のために祈るルナの姿が思い浮かんだ。
「ルナだ。
ルナの祈りだ。
あの光の柱が連れてきたんだ!」
『すごい……
離れた時と場所で紡がれた祈りが、カタチをとって降り注ぐなんて!
こんなの、初めて見た。ほんとに君たちは……』
ターラがまくしたてる。一方で一周回って冷静になってしまったらしいクレハがつぶやく。
「これって、『天使のはしご<エンジェル・ラダー>』よな……」
「! それだ」
そのとき、それまで考え込んでいたもう一人の俺が目を開けた。
「『ラダー』だ。ラダーなんだ!!
種の中ぐるぐる力を蓄えて、芽吹いて育って。
空に伸びる木、その枝を伝って登って降りて!」
それを聞いたら俺もピンときた。
俺たちはふたりで、ひらめく連想をどんどんつなげていった。
「とどかなかった、この先へ、あと一歩をつなぐ、エクストラの足掛かり!」
「いつか、かなたのみらいへと――」
「つながる、つなげる、星のはしご」
そう、俺の第四覚醒。その、完全形は。
「「0-G、『エクストラーダ』だっ!!」」
つかんだ。やっと、つかんだ。
俺と俺はもう一度顔を見合わせて、パーンと両手を打ち合わせた。
今回、連想法という技法を使いました……そのつもりです^^;
ともあれ、イツカの第四覚醒の完成形が見えた今回でした。
次回はカナタサイドです。うまくいくといいのですが。
よろしくお付き合いくださいませ♪




