82-5 カナぴょん、剣を覚えてみるってよ!(2)
「おお、ライカ殿!
ちょうどよかった。父母を通じ入手したものとはいえ、万一があっては困るのでな。貴殿に今一度、アプリの安全性をチェックしてもらおうと思っていたのだ」
エルメスさんはナイスタイミングと声を弾ませ、ふたりのライカ分体は、左右対称ポーズで親指を立てる。
『おういぇー♪』
『携帯用端末ちょいと出してみてー♪』
そうしてエルメスさんから、ブルーグリーンの携帯用端末を受け取ると『ちょいっとな』とつぶやく。
携帯用端末がピカンと輝いたかと思うとライカーずはニコニコと返却。
『ういうい、問題ナッシングだよん!』
『ほかにインスト希望者いるかもしんないから、ライカネットにコピらせてもらったよん。ありがとねーエルちゃん!』
「なんて処理速度だ……いや、お役に立てて何よりだ。
もし何なら、のちほどほかのスキルアプリも見てみてほしい。ひととおりの解説は私でもできるので」
『そんじゃのちほどよろしゅう♪』
『てわけでカナぴょんず、近う寄りたまえ♪』
ライカに歩み寄ると、頭に手が触れた。
『ほいっとな!』という一声とともに、ぴりっと体を何かが走り抜ける!
『おっしゃー、入ったよん♪』
『おめっとー! これでカナぴょんも一人前の剣士でーっす!』
『まずは保有スキル確認してみそ?』
「うん、えっと……あった」
「『ソードダンサー:熟練度0』、これでいいの?」
ひとりでもにぎやかなライカが今日は二人いる。それだけでにぎやか二乗である。
ともあれメニューを呼び出し、おれ自身の保有スキルを確認してみる。
一覧のなか、新着マークがついているものがあった。『ソードダンサー:熟練度0』。
なるほど、同じティアブラシステム内のものだけあって、所属が違ってもメニュー内での扱いは同じようだ。
『ういうい!』
『発動したら、さらに下位スキル展開されるから、一通りチェックしてみてー』
「わかった!」
展開したメニューは三列構造。
いちばん左は上からスタンドアロン、ホスト、フォロワーとなっている。
スタンドアロンが強調表示され、フォロワーがグレイアウトしている。
「エルメスさん、この『ホスト』と『フォロワー』ってのは?」
「ああ、拡大連携機能をこれで使うのです。隊列を組んで進行するさいには、『ホスト』となった者の指令で『フォロワー』登録した者たちが動くのです。
今回は、万一にも外部からの干渉で操られることのないよう、フォロワーモードをロックしてあります」
「了解です。とりあえずスタンドアロンのままでいいってことですね」
中央はフルオート、テスト、クルーズ、アクションオート、スマートリンク、マニュアルと縦に並んでいる。選択されているのはアクションオート。フルオートがグレイアウトしている。
「このフルオートがグレイアウトしているのもそれでですか?」
「ええ。アンロックもできますがやってみますか」
「お願いします!」
「わかりました。『ソードダンサー』、声紋認証オン。フルオートモード一回限りアンロック要請。要請者、エルメス」
エルメスさんが落ち着いた調子で唱えると、システムアナウンスと同じ声があたりに響く。
『声紋認証OK。権限者エルメスの要請により、『ソードダンサー』フルオートモード一回限りアンロックします。
ユーザー二名の熟練度ゼロ、コンディショングリーン、周囲に敵性存在が認められぬことにより、チュートリアルを開始します』
そこからおれたちは『テストモード』によって各種動作の型を行い、『クルーズモード』で索敵→対戦モード切替を体験。ついで『アクションオートモード』で互いに軽く手合わせを行った。
居合い、切り結び。
ときに体当たり、足払いも交えた本格的な動作セット。
イツカが得意とする、ジャンプ斬りおろしは含まれない。
あれは隙も必要動作エリアも大きいし、複数人数で連携するには不向きなものだから、含まれていなくても不思議はない。
逆に、それに対処するための回避動作はセットに含まれているあたり、至れり尽くせりだ。
最後に『スマートリンク』モードで、照準やタイミングの補助とパワーアシストのみをしての手合わせ。やはりアクションオートとは動きが違う。各動作間になめらかさがない。これはもうすこし練度のある人向けなのだろう。
ということは、この次。『マニュアル』モードはもっと『使いにくい』ものだろう。
それでもやっぱり試したい。こちらはやらない選択も可能だったが、やってみることにする。
それを伝えるとエルメスさんが少し考え、こんな提案をくれた。
「せっかくですので、ハルキさまと試合をなさってみますか?
ハルキさまが本職ですので、2on1がちょうどよいでしょう」
「ええっ? エルさん、俺そこまで強くないよ?」
「大丈夫ですよ。これも、鍛錬と思って」
「そ、それなら……
カナタさんたち、よろしくお願いしますっ!!」
エルメスさんに見守られ、ライカーずのやんやの声援をうけながら、おれたちとハルキくんは試合を開始。
十秒経たないうちにわかった。エルメスさんの見立ては正しいと。
念じれば各種アシストは起動する。けれど、それで行われる動作は型通りのもの。せいぜいが技のタイミングをずらすくらいの対応しかできず、高天原を卒業した剣士を下すには至らない。
この状態のおれが六人くらいいて、身軽なハルキくんの逃げ道をふさげばまだ何とかなりそうだけど。
そんなわけでおれふたりとハルキくんの試合は、ハルキくんに謝られつつもきりきり舞いさせられる結果に終わった。
「なんか、ごめんなさいカナタさん……」
「いいっていいって。面白かったよ」
「なかなかできない体験だよね。エルメスさんもありがとうございます」
ひととおり終わるとエルメスさんとライカーずは、おれたち三人にスポーツドリンクを手渡してくれた。
シミュレーションモードでは、傷も痛みも残らない。いうなれば、ミッドガルドで遊んだ後のような感じなのだ。
けれど、精神集中はする。のどが渇いたりおなかが減ったりはするのだ。
スポドリをぐっとひとくちのどに通せば、ほどよく冷えた甘さが体にしみとおる。
「いかがでした、使い心地は?」
「なんというか……ふしぎな感じです。
何度も型を学んで身に着けるべき動きが、すべて当たり前のようにできてて」
「技までちゃんと、使えるようになってるし。
あえていうと……アニメの変身ヒロインてこんな感じなのかなって」
「変身ヒロイン……いえっなんでも!!」
「きーさま? あとでその件すこーし話しましょうか?」
変身ヒロインときいて、ハルキくんのおめめがきらきらした。笑顔で突っ込むエルメスさん。
微笑ましい年の差カップルのやり取りに、胸がぽかぽかする。
けれど、ここはもうひとつ確かめたい。
もったいないけど質問だ。
「あの、いいところごめんなさい。
タクマもこれ、使ってるんですか? それと、シグルドさんも」
「ええ」
ここ数日IEが頻繁にフリーズします……orz
それはともかくあまりのんびりしているとほんとに新生魔王軍再始動が1000話になってしまう予感……((((;゜Д゜))))ガクガクブルブル
次回はイツにゃんの方いく予定です!
『プランオブミライ』の様子にも触れられるといいです。
どうぞ、お楽しみに!




