82-3 初錬成で賢者の石?! トンデモにゃんこ、あらたなトンデモ達成!
『いい、イツカとカナタは今日はもう、お仕事しちゃだめよ?
みんなへのご報告は仕方ないけれど、あとはシャスタたちに任せて、ね?』
ひつじ牧場からのかえり、おれたちはエアリーさんにそう釘を刺されていた。
それに甘えてあの後はただ、星降園のみんなと楽しく飲んで食べ、食器を下げるのを手伝って、ちびっ子たちとお風呂に入って、早めに就寝……という、ひたすらのんびりな時間を送ったのだが。
朝起きてもうひとりのおれたちと合流し、現状をチェックして驚いた。
我らが『魔王島』の沿岸部にはすでに、警備施設やアクアリゾートを設けるための基礎工事が施されていたのだ。
工期と島周辺の環境への負荷を勘案した結果、海上に向けての警備施設は水上、もしくは空中に浮遊するフロートを中心とし、基礎を設けたのは主に、海の家や港を建てるビーチの一部、そこより内陸側のいくばくかの面積に限定されていたが、実際どうしてなかなかの規模だ。
「うえええ?! マジに??」
「いや……なんで??
このメンツでそんな、建築バリバリできそうなやつってビルダーズくらいだよな?!」
ステラの市街地で復旧工事を手伝ったイツカには、それがどれだけのことかが身体感覚でわかるようだ。いつになくクレバーに、参加者一覧をチェックして首をかしげる。
昨日沿岸部の工事に参加していたのは、シャスタさま、ルーレアさま、クレイズさまと神獣たち。
くわえてクレハとチナツ、レン、レイジ、アッシュとトビーの『B&Gビルダーズ』。
なるほど、どうやらイツカたちは把握してなかったようだ。
「女神さまたちもクラフタースキル持ってるよ」
「マジ――?!」
「そうじゃなかったらごほうびアイテムあんなかっこいいのどんどん出してこれないって!」
するとイツカたちはそろってネコミミを折った。
「ちょっあんだけ強くてかっちょいいアイテムも作れてってうそだろー?!」
「俺なんかバトルしかできねーのにー!!」
「いやそこはさ、プレイヤー歴だっておれたちよりは長いわけだし」
「そうそう、プロとしてやってきてるわけだしさ」
相手はレディ、ここであまり長いを強調するのはよろしくないとわかっている。よっておれたちより『は』と言っといた。もうひとりのおれも気遣いを見せる。
「うー。俺もなんっか作ってみよっかなー……」
「うーん。悪くないかもね」
イツカの不完全な第四覚醒――『0-G*』。
現状は、闘気をリボンのような形で空間に残留させ、ある程度の操作をするといった技である。
闘気はハンターが必殺技を形作るベースとなる『チカラ』だ。これに個々のハンターが操作を加え、実際の必殺技が形を成す。
クラフター視点で言えば、これもまた、ひとつの『創造』といえる。
ならば、おれたちクラフターのわざも、熟達の一助となりうるかもしれない。
そんなわけで朝食後。
さっそく島に赴いて確かめてみれば、やっぱりだった。
四女神&五神獣でいちばんクラフトに堪能なターラさんが、うれしそうに語るには。
『よく気付いたねーカナタ!
そうだよ。ハンター・クラフター・プリースト。三つのクラスはすべて、根底でつながってるんだ。
ティアブラや学園の段階だと、兼業は熟達度が分散するって敬遠されがちだけど、ちゃんと両方のクラスでやることを関連付けられれば、成長はむしろ大きくなるんだ。
だからこそ、これまでの高天原学園では教えられてなかったんだけれどね』
笑いに混じった苦みからは、語られるまでもなく感じ取られた。
『高天原産Ωの年度別算出目標』を満たすため。
かつ、規格外の成長を遂げ、制御しがたい人材ができてくるのを避けるため。
効率的な成長法を秘匿し、学園生たちの成長を抑制する策がとられていたのは、それらが理由なのだ。
『それでも君たちはそれさえ飛び越えちゃったワケだ!
いやー愉快だねー! これはミソラっちたちに知らせてあげなきゃっ!』
しかしすぐ、ターラさんの笑いは前以上に陽気なものになる。
『まあね、たしかにふたつの分野を統合してくってのは難度も高い。かかる時間も読み切れないってネックもある。
だからまあ、そんなすぐに劇的な効果が出ることを期待しすぎず、気楽に試してみるのがいいよ!』
そうして、ターラさんが師匠、おれが助手として、イツカのクラフトチャレンジが始まったのだった。
『それじゃあとりあえず、基本的なとこから!
採取……はこれまでもうやってきてるからね。
錬成釜をつかって、基本的な回復ポーションでも作ってみようか』
「はーい!」
錬成釜を使っての回復ポーション作成。採集がこなせるようになったかけだしクラフターが、最初に教えられるものだ。
材料は、きれいな水と、癒しの草。
水の品質を見定めて、場合によってはろ過や蒸留。癒しの草もほかの草と間違えず、状態の良いのを丁寧に採取し、傷めないよう手早く丁寧に洗う。という過程があるのだが、今回そこはパスだ。
『まず、材料を錬成釜に入れ、火にかけます』
「はーい!」
『そうしたら専用のお玉を通じて、ゆっくり丁寧にパワーを注入していきます。
ぐーるぐるとゆっくり一定の速度でまぜて、全体に均一に力がゆきわたるのをイメージしてくださいねー』
「はーい!」
錬成釜をつかってのポーション作成は、感覚としてはほぼ『レンチン』に近い。
決められた分量と火加減、そして撹拌。
それさえきちんとできればあとは錬成釜がやってくれる。
とんでもないことでもないかぎり、まず失敗することはないものだが……
ドン。イツカたちの目の前の小さな釜からは、同時に爆音が鳴り響く。
これにはターラさんもあわてた。
『イツにゃん?! だいじょうぶ?!
なにこれ、こんなファンブルめずらし……えっ』
釜の底からあふれる虹色の輝き。まさかこれは。
『ちょっとまって……鑑定!
うそでしょ……鑑定!
…………まってまってこんなのあり……?』
おれたちも『超聴覚』で『聴いて』みて絶句した。
「ちょっマジ……?」
「イツカおまえどうなってんの……??」
ふたつの釜の底にころんと転がる、虹色の結晶。
小さな小さなものだが、まぎれもなくそれは究極錬金アイテムにランクするしろもの――『賢者の石』だった。
海上建築は年単位かかる……まあスキルでやっちゃうってテもあるけど、そこはおたがい無理せずにということでまとまりました。
次回、つづき!
どうぞ、お楽しみに!




