82-2-2 うれしい知らせ! パーティーご予約とタマキの覚醒!(2)
スキル『氷楔天輪』。
頭上に浮かんだ水の輪に、いろいろなものを取り込み、一時保存し、任意のタイミングで取り出し、使うことができる。
情報はもちろん、いくつかのスキルや現象、ステータス。
この中になんと、疲労度も含まれるという。
具体的には、スキルでできた水の輪でコウを包み、疲れを取り込む。
水の輪を氷結させて、保存。
ほかの人に氷輪をかぶせて解凍すると、氷輪は溶けて水となり、保存していた疲れともども降り注ぐという。
もちろん素直にかぶってくれるやつもいないが、そこは全力でぶん投げてぶち当てることでカバーするという。
もっと優しい使い方としては、水の輪に回復を使ってもらってそれを氷結保存。
氷輪を小さく割って口に入れれば、ひんやり涼しく漸次回復。研究のおともに最適である。
『タマっちはいっつもこぼしてたからね。コウたちはすごく疲れてる。自分が代わってやれたら、いや代わったら頭脳が鈍ってみんなを見てやれなくなるからいっそだれかに押っ付けられたらって』
「タマキらしいね。おれもできたらな」
「ほんとね。
コトハさんやミライたちの覚醒も、いっそそっちだったらよかったのにね」
コトハさんの『スイート・ミルキィ・レイン』、ミライとミズキの『ハッピー・ハッピー・スプリング』も疲労度を回復してくれる。だが、これを使えば術者が疲れる。いうなれば、疲労を自分が肩代わりするようなものなのだ。
『うんうん、性格って出るねー。いやおれなんかはそっちのがすきだけど☆』
「ほんとね!」
「……こええ」
「っていったい誰に押っ付けんだよ??」
ライカはうんうんうなずいてのたまわる。おれたちも納得しかない。
イツカたちはおののいている。
「そりゃー戦う相手とか、無茶ぶりしてくる奴らでしょ?」
「コウたちはこれからますます『無茶』しなくちゃならなくなる。『ハナイカダ』のふたりを守るためにも。
身を守る手段はどれだけあってもありすぎることはないよ」
「あー…………」
それを言うと、ようやく納得したようで、大きくため息をつく。
「……いそがなくっちゃな。高天原の陥落」
「だな。そしたらもう、『無茶』なんかさせずに済む」
『セレネちゃんとルナちゃんの水着姿も見れるしね!』
「ニャー!!」
決意の表情はいつになくかっこよかったけれど、ライカがまぜっかえしてかたなしだ。
それでも、軌道修正をしたのもライカだった。
『アスカもいってたけど、こっからが正念場だ。
やっと月萌領内から君たちが出た。赤竜管理派の上層部もホンキだしてくる。
『ステラ杯』が終わるまでは目立った妨害はないだろうけど、地味な妨害はむしろあるだろうね。
それをきりぬけて、『ステラ杯』に勝って……先陣を切ったステラ領が攻勢を弱めたら、入れ替わるようにして月萌とソリスがやってくる。
ソリスは個人主義者の集まりだ。一戦交えたら交渉で味方につけられる連中も多い。できるなら早めに彼らの力を得て、高天原との戦いを有利にしたいとこだね』
「そのためにも島の整備、急がないとね」
もうひとりのおれもいう。
そう、新生魔王軍の本格始動は来週から。裏を返せば、島の整備にかけられる期間は一週間。
基地の内装系はそのまま流用できるのでいいのだが、まずは島に残る館の調査――基礎をはじめとした構造や配管の傷み具合を見るのだ――が必要だ。
聞くところによれば、あの島は百年ほど前まで、ある貴族の避暑地として使われていたものらしい。
イコール、最低でも築百年。そして百年ほったらかしだ。
ぶっちゃけ全部ぶっ壊したほうが早いだろうけど、それではロマンに欠ける。動画の再生数的によろしくない。
つまりこの一週間は、休暇と言いつつかなりガチに働かねばならないということである。
もちろん戦いがはじまれば、施設の修理や装備のメンテがどんと増える、というかもうひとりのおれはどこぞのシグルドさんにご指名をいただいてるので、もう一度勝ちにいかねばならない。
おれはため息をつかずにいられなかった。
「カルテット、捕獲してこれないかねほんと……。」
「おにいちゃんたち! そろそろ準備オッケーだよ!」
そのとき、ドアがノックされ、かわいらしい声がおれたちを呼んだ。
ソナタだ。もちろんため息なんかはふっとんだ。
だいじょうぶだ。おれには彼女がいる。
この愛くるしい天使がいてくれれば、おれは100年だって戦える!
はーいと笑って返事して、おれたちはドアを開けたのだった。
水が情報を記録できる、という説には両論あり、調べるのに時間がかかりましたがまあ、スキルはロマンなのでいいやと採用です。
最近『第五人格』というゲームが気になり、そのなかの『終局天賦』という用語がかっちょいいと思いました。『氷楔天輪』はその面影が…………ないですね!
次回、女神様入島予定です!
どうぞ、お楽しみに!




