10-2 ウサうさネコかみな休日!(2)
そのとき、イツカがばっと『イツカブレード』に覆いかぶさった。
頭の耳をへたんとさせて、一生懸命におれを見上げる。
母性本能……はあるわけないから父性本能か……をくすぐる姿に、おれは思わずやつの頭を撫でて、甘やかすように聞いてしまう。
「どうしたのイツカ? 新しい剣、ほしくないの?」
「ほしくない!
だってこいつはさ、八歳のころからずっと一緒で。
そりゃ、ぶん投げたり背中かいたりもしたけど、こいつは……」
「ねえ、イツカ? いまなんか、おかしな言葉が混じってた気がするんだけど?」
おれも長時間の作業で、疲れているのかもしれない。だからまず、確認をとってみる。
「あっ、えっいや気のせい! 気のせいだからっ!!
……えっと、そう、カナタずっと修復作業で疲れてんだって。
そんなさ、お前の作ったものでテーブルの向こう側にあるしょうゆ引き寄せたりとか」
うん、気のせいじゃなかったようだ。おれはやつの首根っこを捕まえた。
「よーしイツカ、まずはお前を作り直そうか?」
「ぎゃー!!
だからそれくらい俺の毎日に馴染んだ相棒ってことで!! もう他の剣なんか欲しくもないっていうかっ!!
だから別のを作るんじゃなくてせめて打ち直しとかで!! なんとかならないですかせんせーっ!!」
やつはなんと『下げておいて上げる』という高等テクニックを使ってきた。
子供だ子供だと思っていたが、どうやらやつも、知らないところで成長していたようだ。
ちょっぴり寂しい気もするが、ここはその気概をほめてやることにしよう。
首根っこをとらえた手を放し、猫耳の間を撫でてやる。
さいわい、テクニックとしてはてんで未熟で、下手したら逆効果のままお陀仏というしろものなんだし。
「もう、どこから覚えてきたのそんなの?
いいんだよ、イツカはずっと素直なまんまのイツカで。
でもわかった。イツカがそんなにまで言ってくれるなら、おれ全力でがんばるから。
やっぱりこいつをお前にあげてよかったよ、イツカ」
「え、あ、はい……オネガイシマス……」
「おおう、急転直下のデレっぷり♪」
「なんか言った?」
「いんや~? なかよくってうらやましいなーって。ごちそーさまでーす♪♪」
アスカはなぜかホクホク顔で、ハヤトはなぜか顔が赤い。
まあいいか、いまはイツカブレードだ。
イツカは心底ほっとしたような顔をしている。そんな顔をされては全力しかないだろう。おれはデスクに向かい、据え付けの端末を起動させた。
「ちょっと待ってて。これの三倍程度に耐えられて、同じくらいの振り心地になるよう、合金デザインからやってみるから!
あ、ライジングブレードも念の為、ちゃんと見てもらってね。おれがやってみたいのはやまやまだけど、すこしこっちで時間がかかりそうだから」
「りょかーい。そのレベルになるとおれだけじゃ心もとないし、シオっちに頼んでみるー」
アスカは携帯用端末でシオンに通話。シオンはすぐに出たようで、楽しそうに話を進めている。
「なーハヤト、俺たちどーしよ……?」
「時間が空いちまったな……下手な練習刀借りたら折りそうだし、どうするか……」
「サブのナイフでやってみっか?」
「ナイフ、折れないだろうな……?」
「っ!!」
一方でわんこにゃんこは仲睦まじく相談中。
だが、ナイフを折るかもという可能性に気づいた二頭、もとい二人は青い顔でそーっとこっちを見た。
仕方のないやつらだ。おれは手を止めて言ってやった。
「真面目にやって、折れたなら怒ったりしないよ。
それならそれで、より手にあったものを仕立てる。それがおれたちの仕事だからね。
そもそも二人とも、ナイフの熟練度はそこまでじゃないでしょ?
四ツ星や五ツ星はもっと強いんだし、むしろ折るぐらいの勢いで練習しときなよ。
だれか、ナイフうまい人と手合わせお願いしたりしてさ」
するとアスカも言う。
「おーそうそう。徒手格闘もできるにこしたことないし、やることはいっぱいあるよん。つか宿題やった?」
二人は顔を見合わせた。
そして同時にこう言ってきた。
「後で一緒にやってくれないか……?」
だが結局、イツカが宿題をやることはなかった。
おれが望んだ、軽く粘りのある、頑丈な剣を作るには、どうしてもひとつ、特殊な素材を調達しにいかなければならなかったからだ。
アスカの情報によれば、それはミッドガルドのある地域で採取できるという。
さっそく『武具調達のためのクエスト届』を提出しておれたち――『ミライツカナタ』は、久しぶりにミッドガルドの地に降り立つことになったのだった。
ミッドガルドでのおれたちは『生きながら神の国に召された世界的英雄』だ。へたに顔を出して歩けば、大騒ぎになってしまう。
それゆえ、フードつきのクロークで正体を隠して、教えられた場所に赴いた。
ノルンの町。レアメタルを数多く産出する『ノルン鉱山』のふもとに栄える鉱山町だ。
おれたちはそこで『ホワイトスパイダーウェブ』という鉱石の採取許可をもらうため、町長のもとへ向かおうとしたのだが……
なんと、町に入る前、門の真ん前で事件は起こった。いや、すでに起きていた。
狼、わんこ好きな方はご存じかと思いますが、なんと!
遺伝子的に狼に一番近い犬種は『柴犬』だそうです……
シベリアンハスキーとかアラスカンマラミュートじゃないんかーい!(驚)




