Bonus Track_81-1-2 ラグランジュ・ポイント~リュウジ・タカシロの場合~(2)
一か月前の、月萌・ソリステラス間代表者会議。そこで『銀河姫』が提唱したプランは、御大から聞いたものと相違なかった。
月萌・ソリステラスがひと区切りとする『第四陣』。
『魔王軍』は、それを契機として現基地を破棄。公海上のいずこかに、拠点を移築する運びとする、と。
我らにとっても、それは好機に他ならなかった。
『魔王軍』がいつまでも月萌領内に居座れば、ソリステラスによる介入は避けられない。
また、内部に鬱積した不満が、余計な事件を引き起こしかねない。
だから、勝利を享受することにしたのだ。
それが与えられたものであることは、下の者たちに伏せたままで。
――つまりは、暗黙の出来レースであった、ということだ。
私は酒杯を飲み干した。
そして、大きく笑った。
しかし、この戦いは我らの勝利だ。
邪魔者は城を失った。この国より去った。
今はこのすがすがしい戦果を祝おう。大いに飲み、食い、勝利をうたおうと、立ち上がり弁をふるった。
歓声に包まれた会場。
ゆっくりと楽しんでくれと言い残し、私はそこを出た。
もう、引き伸ばせない。
あの子らは、正義の魔王を選んでくれはしなかった。
闇にまみれた男の犬となることを、命を懸けて選んでしまったのだ。
昨晩のこと。『いらないんなら、もらっちゃうよ?』と御大は笑った。
つまり、最終通告。この勝利を口実として手を差し伸べなければ、あの若者たちは逃れようもなく闇にとらわれることとなる――私や父と同じように。
さあ、行かねばならない。闇にまみれた手を差し伸べねばならない。
彼らの今をラグランジュ・ポイントとするために。
その航路に、帰還不能点を来させぬために。
忸怩たる思いをかみしめながら、部下たちのまつ病院へと足を運んだ。
小さな、小さな抵抗として、車は出さず、重く重く歩を踏みしめて。
大丈夫、失言は残してある。
正義の魔王を邪魔者といった。
我らの権勢が衰え行けば、それは埋伏した罠として牙をむき、私をイケニエのウサギに変える。
そして私に続く者たちは、解放されるのだ。
この重い、重い闇の道行きから。
健気な妻と、娘たち。突き放さねばならなかった、哀れな息子。
ついてきてくれた同志。真実を預かってくれた友。
そして、はじめての恋を知った、あの女性も。
病院を出て、見上げた空は、涙が出るほど青かった。
「よう!」
そのときふいに、背中をバンとはたかれた。
でっかい、温かい手で。
振り返るとそこには無二の友の、太陽のような笑顔があった。
「イワオ。
祝勝会は?」
「何言ってる。ワシも長居無用組だろうよ。
付き合えよ」
「……一杯だけだぞ」
そうして私たち、否俺たちは歩き出した。
飲もう。そして、くだらないことも話そう。
いまだけ、ほんの少しの間だけ、ただのさえないおっさん連れとして。
リュウジ氏についてはもう少し引っ張る予定でしたが、まあここが出しどころかと。
少しずつ、風呂敷をたたんでゆきます。
はい、PV右肩下がりです。
っが、久々に見たらブクマが30くらい増えてました?!
ぎゃあああ。ありがとうございますっ!! 五度見ぐらいしました!! ありがとうございます!!
勢いつけてまいりますっ!!
次回。祝勝会にいたたまれないハジメさんたち若き政治家たちが、ユー家の茶房に集まります。
そこへやってくるお客さんは……
どうぞ、お楽しみに!




