Bonus Track_81-3 太陽のようなわんこ天使はきょうも笑って、おれたちをみんなほこほこにする〜ミズキの場合~
画面の中、『魔王城』は大きく炎を上げた。
みんなで一緒に作った小さな基地が、短い間とはいえ暮らした場所が、見る見るうちに燃え尽きる。
となりでミライは、ふるえていた。
これはあくまで、ヴァルハラフィールドでのこと。リアルのあの場所に紐づいているとはいえ、厳密に言えば『ゲームの中のこと』なのだ。
それでも。
「ごめんね。ごめんね、基地さん。
こんなふうにさせちゃって。ごめんなさい……!」
ミライは小さな声でわびていた。
泣かないように、必死に我慢する顔を見たら、ぎゅっとしてやらずにはいられなかった。
あの基地は、どんな形でにせよ、取り壊される運命だった。
そのことは、ミライもわかっている。
それでも、ミライにはたまらないのだ。
作戦のための犠牲、という形になってしまったことが。
もっと優しい形での最期を、迎えさせてやれなかったことが。
だからおれは、精いっぱいに伝えた。
「だいじょうぶ、大丈夫だよ。
あの基地はまた、新しい場所に作り直してもらえる。
そうして、俺たちを待っててくれる。
そうしたらまた、大事にしてあげよう。
建物のためにも涙を流せるなんて、ミライはほんとうに優しいね。
その気持ちはきっと、伝わってるよ」
するとミライは、目もとをごしごし。健気な笑顔で言ってくれた。
「ありがと。
そうだね、そうだよね。
おれたちはまたきっと『魔王城』に会える。
そのときは、めいっぱいご恩返ししなくちゃね!」
その尊さまぶしさに、騎士団集会所の俺たちはみんな、逆に泣けてきてしまったのである。
もちろん平気なわけじゃないけれど、俺はどこか、わりきっていた。
将来は国防を担うためと、ミッドガルドで幾度も戦争イベントに参加してきたためか。
こんな風に――まるでちいさな子供のような、純粋な涙を流せる少年がいることに、正直なところ驚いていた。
この子に比べたら、俺なんかぜんぜん薄情ものだ。
けれど、ならば、薄情なりの強さをもって、この優しさをまもろう。
そんなことを決意した俺だけど。
「ほんとにありがと、ミズキ。
ミズキがつよくて優しいことばをくれるから、おれたち、いつも元気になれる。
だからね、つぎはミズキのばん。
ミズキがいいって言うまで、おれたちでもふもふぎゅーっしてあげる!」
そんな俺にかけられた言葉は、そんなのまるっとぬっこぬこにするほどの、優しくて、優しくて、優しいものだったのである。
その後、セナとアキトにカフェテリアで合流。その話をしたとき、ミライはちょっぴり恥ずかしそうだった。
「がまんしたけど、けっきょく泣いちゃった。
おれもう16なのにね……ちょっとはずかしい。
むしろソナタちゃんが泣いちゃったりしたら、どんっと受け止めてあげなきゃなのにね」
「いや、あれはしょうがないって」
けれど、アキトは明るく優しく言ってくれた。
「俺たちは、あの基地いけなかったけどさ。あれ見たら泣けてきたよ。
うさねこのみんなも泣いてるやついたし」
「俺たちも、見てるから。
動画とかで、みんなが一生懸命作って。そこでいろいろしてきたの。
俺もちょっぴり泣いた」
いつも冷静なセナも、照れながら打ち明けてくれる。
「ほんとにー?!
ありがと。みんな、優しいね!」
「……ミライといるから、かな」
そして聞かせてくれたのは、セナ自身の変化。
「俺ってさ。自分で言うのもアレだけど、性格きついほうなんだ。
なれなれしくされたり、変な目で見られるとバシッてすぐやっちゃって。……
でもミライによしよしされるのはどれだけでもうれしいんだ。なんか、優しくなれちゃうんだ。
みんなもそうなんだと思う。ミライといたり話したり、よしよししてもらうと、なんかどんどん優しくなっちゃうんだ。それでだと思う」
「ふわああああ……!!」
きれいな海色の瞳で微笑んで伝える、あったかなことばに、ミライはぱぁっと赤くなる。
「そ、そ、そうなの?
おれ的には、みんなが優しいから、おれも優しくしたくなっちゃうんだけど……」
「うあー! ミライかわいいっ! かわいい――!!」
ついにアキトが臨界点を超えた。テーブル回り込んできてミライをむぎゅっ。
セナも立ち上がる。
「あっ、ずるいぞアキト! 俺も!!」
「ごめんセナは後でぎゅーするからっ!」
「いや俺はしなくていーからそこをどけ。」
「オウフ」
「もー! ほらふたりっともぎゅーだから! ミズキも!」
遠慮のないやり取りをするふたりを、ミライは笑って抱えて俺を呼ぶ。
もちろん俺も、謹んで参加だ。
「あー! 俺もぎゅーしてくださいー!」
「ミライせんぱい俺も!」
「こっちみてくださーい!!」
「ミーたんあいしてるー!!」
こうなるとカフェテリアはもうおおさわぎ。
さいごにノゾミ先生がとんでくるまでがワンセットだ。
しかし今日はそこに『新生魔王軍旗揚げ』の速報や動画が入ってきて、そのままさらなるお祭り騒ぎに突入したのだけれど。
戦いはここからが本番だ。けして楽観ばかりはしていられない。
それでも、今この場はこんなにあたたかい。
きっとそれは、大いにミライのおかげなのだ。
太陽のようなわんこ天使はきょうも笑って、おれたちをまとめてほこほこにしてくれるのだった。
これが……ミライ無双……ッ!!
次回、おっさんのつぶやき・続き。
どうぞ、お楽しみに!




