10-1 ウサうさネコかみな休日!(1)
それは、その翌日の昼下がり。
昨日から行っていた、折れたイツカブレード、摩耗したモフリキッドアーマーとマルチフットパッドシューズの修復と調整が、ようやく終わったあとのこと。
「むー、やっぱカナぴょんのクッキーはうんまいなー。
ごめんねーつかれてるとこおしかけてー」
「何言ってんの。
アスカだって理事の件とか連合立ち上げで疲れてるのに、おいしいダージリン持ってきてくれたじゃん?」
イツカがうれしそうに飛び出していくと、入れ替わりにアスカが遊びに来てくれた。
丁度いいので、しばしブレイクタイムとしゃれこむことにしたのである。
「てへっ。
まーね、いずれやんなきゃなことと思って準備してたからさ。
レインをおれの手駒にできたのは半分予想外だったけど」
「うん、そのあたりもびっくりなんだよね……。」
昨日の件で判明したのだが、アスカはレイン理事と親戚同士。
つまり、かなりいいとこのお坊ちゃまだったのだ。
あのあと、アスカは言っていた。
『ほんっとレインの奴、ちょっとイケメンでモテるからって美少年へのおさわり多くてさぁ……そのうちだれかに弱み握られると思ってたらおれにやるんだもん。もうアホかと。
『今度こういうことが判明したらお灸をすえる』ってまえまえから言ってあったしさ、遠慮なくやっちった。
もちろん主な動機は『ドラゴン』への迫害に加担したことだよ?
タカシロも一枚岩じゃなくってね。『ドラゴン』は危険な存在なのだから管理すべきってグループと、おなじ人間なんだから差別すべきじゃないってグループとに割れてるんだ。
理事会には現状管理側が多数でね。ほんとみんなに迷惑かけてる。
ま、おれとかも迷惑かけられてる側っちゃ側なんだけどね。……
そんなかわいそーなうさぎちゃんたちのお話は、いずれ親密度イベントで聞かせるから。聞きたければ甘ーいお菓子をぷりーずねん☆』
なんて言いつつも自らお菓子をもらいに来る白うさぎちゃんは、明るい笑顔でお茶のおかわりを注いでくれる。
「まーそれはいーとしてさー。今度はおれらもガチでやりたいねー」
「そうだねー。今回はイツカとハヤトメインだから、ちょっと抑えたりもしたし。
おれも神聖魔法もっと覚えたいって思ったよ。やっぱ直で即支援できるのは強いからさ」
「それをいうなら、おれはあの手数の多さにびびったわー。
おれももっとちゃんとクラフトべんきょーすべきなのかなー……」
「むしろするべきじゃん? アスカすごいもん。センスもそうだし魔力も……」
そのとき廊下の方から、聞き覚えのありすぎる声と足音が近づいてくるのに気が付いた。
すぐにガチャッと玄関のドアが開く。
つづいて居間のドアが開き、イツカがばたばたとびこんできた。
「わああカナター!! どうしようー!!
また、折れちゃった……どうしよう……」
「心が?」
「剣が!!」
かなりガチに涙目で、わたわたとおれにすがってくる。
そこに、ばつの悪そうな顔でハヤトもやってきた。
「あーその……悪い……
さっそく二人で手合わせしてたらその、『イツカブレード』が折れちまって……」
「えっ?!」
おれは驚いて立ち上がった。
「おかしいな、完全に修復したはずなんだけど……
ハヤトの『ライジングブレード』は?」
「俺の方は今回持ちこたえたんだが……」
「見せて! 両方!! あとバトル動画!!」
すぐにリビングから勉強部屋に移動。
作業机に二人の剣を出してもらい、まずは手合わせの様子をチェックすることにした。
闘技場の利用ログにアクセス。壁面のスクリーンに投影して、短い動画を閲覧したのだった。
画面の中のイツカは絶好調で、終始軽口を飛ばしまくっていた。
笑顔でぴょんぴょん跳び回り、じゃれつくように斬りかかる。
やはり先週までのイツカは疲れがたまっていたのだ。そう思わされる元気ぶりだ。
対するハヤトも、真面目に受けつつ目がキラキラ。ふさふさしっぽもはたはたしてる。
もはや完全に『あそんでー! と突撃してくる子猫をうれしそうに相手する大型犬』動画の人間版である。
「……これどう思う、アスカ」
「やばい。もふい。妬けちゃう」
「たしかに……」
そう、これがたとえば、ミズキとソウヤの手合わせとかだったら、単に微笑ましいだけなのだ。
誰よりも近いはずの自分のバディが、他のやつとここまで楽しそうにしているのをみると、人間たるものどうしても、胸のお餅が焼けてくる。
それはアスカもおれも、同じであるようだった。
「おい?」
「なあ、なんか今おかしな言葉が混じってなかったか?」
「うん、気のせいだよ」
「そーそ。おれたちはなーんも間違ったこといってないから。ねーカナぴょん!」
もっとも当の本人たちはわかってないようなので、適当にはぐらかすことにする。
それより大事なことが、いまは目の前にあるのだし。
「それはともかくとして。
おれさ、クラフトはあくまで我流でかじっただけだかんね?
だからあくまでその程度のもんとして聞いてもらいたいんだけど……
……これはやばい気がする」
「っていうと?」
「二人のチカラにイツカブレードが耐えられてない、って感じ。
もっともなまじな剣でこんなガチのグランドスラム受けようとしたら、折れるどころか粉々だろうけどさ」
「マジかー……」
ハヤトの愛剣『ライジングブレード』は、一見して無事。
けれど、イツカブレードはすっぱりと、まるで切断されたかのように折れていた。
動画を見てもわかる。二人の太刀筋が、どれだけ磨き抜かれたものであるのかが。
ハヤトは基本をしっかりと固めた正統派の剣士、イツカは完全我流の跳び猫。
対照的な二人なのに、たどり着いた境地はこんなにも近いことに、改めて驚きを覚える。
いや、感動に浸るのは後だ。
「まー、ほかの子とやるんならまだこれでもいいんだけどさー。
ずばり、そろそろ替え時ってことだろうね。新しい、もっと堅牢な素材で……」
「やだっ!」
少し短いかもですが、ちょっときりが悪いので二話に分けました。
次回『ミライツカナタ』がミッドガルドに帰還! ……予定です。お楽しみに!




