80-6 『ザ・プランオブミライ』のかたわらで
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もちろん地下別動隊――全員アンドロイドエージェントで構成された部隊も無事だ。
爆発そのものは本物だったけれど。
なぜおれとイツカ、エルメスさんとハルキが、ふいの大爆発に巻き込まれて無事だったのか。
種を明かせば簡単なこと。最初の爆音と、続いて部屋を満たした炎、それらがそもそもフェイクだったのだ。
本物の爆発が起きる二秒前のそれにまぎれて、本物のおれたちは地下の隠し部屋に跳んだ。
地下別動隊が持ち込んだ『本物の』テラフレアボムがその威力を及ぼした時、その部屋にはもう、誰もいなかったのである。
なぜ、そんなことができたのか。
蛇の道は蛇。『チェシャ』の協力で地下からの侵攻ルートを割り出し、そこにおれの根っこで網を張っておいたのだ。
そうして、やってきたエージェントを一網打尽。
やむなしとその場で自爆を試みた彼らだったが、レンの『爆神のお気に召すまま』がその本体を守り、爆炎と衝撃は、チアキの『優しき牧陽犬』に導かれて基地の構造部分に集中。『魔王城』の地下一階以上をハデに崩落させた。
問題ない。すでに基地のドアに設置したポータルは破棄してあった。
だから、部屋の中のものはすべて無事。
万一があってはいけないので、みんなにはあらかじめ、地下のかくし部屋に集まってもらっていたけれど。
なお、網の中で観念した様子のエージェントたちはその場でスカウト。おれたちの仲間に加わってもらった。
かくして、おれたちはついに『ザ・プランオブミライ』の総仕上げにかかったのだった。
『月晶宮』へのおれたちの侵入を阻むのは『セレネさんのホンキバリア』――第四覚醒者による結界だ。
それが設けられたのは、月萌領内に『魔王』がいるようになったためだ。
ということは、『魔王』が滅びれば、それは必要なくなる。
はたして、基地が崩落、消しようもないほどに燃え上がれば、バリアは解除。
おれたちは、セレネさんのもとへと跳んだ。
『謁見の間』の椅子の上には、いつものポーカーフェースを装うセレネさんが。
そのとなりには、顔色をうしなったライムがいた。
セレネさんの足元に、黒い子猫がすいと身を寄せる。
それをみたセレネさんは一瞬泣き出しそうな顔になったが、『……すこし外す』と子猫を抱き上げ席を立った。
イツカは二人で話したいと言っていたから、これでいい。
少しだけ心配だけれど、ここは信じてやらなきゃだ。
それよりもおれにはこの間に、しなけりゃならないことがある。
ラッキーというべきか、ライムはここにいてくれた。おれもなんとか、彼女と二人にならないといけない。
「……おいで」
と、やわらかく濡れた声がおれを呼ぶ。
ふりかえると、ライムがしゃがんで、おれに手を差し出している。
どうやって見つけたのかわからないが、そんなことはもうどうだっていい。
おれはたまらず、とびこんだ。
ライムはおれを控室に連れて行った。
二人だけになったそこで、おれは変身を解いた。
「……カナタさん! 生きて、……!!」
ライムはおれをぎゅっと、くるしいほどに抱きしめてくれた。
おれもしっかり抱き返す。
ああ、ゆめじゃない。現実なんだ。
やわらかなぬくもりが、なつかしい香りが、いっぱいのしあわせとなっておれを包む。
けれどライムは、すっと腕を解く。
「ごめんなさい、カナタさん。いまは、ともには行かれません」
「うん。わかってる。
みんなをおねがい。すぐ、迎えに来るから」
そう、わかってた。
ライムにもここでまもるべきものがある。
年下の親友たち、そして家族。
それを放り出しては行けないのだ。
だからおれは、差し出した。
わずかな自由時間を縫って作り上げた、やくそくのかたちを。
桜色した小箱のふたをひらいて見せれば、ライムは息をのんだ。
「これ、……ほんとうに?
ゆめではないの?」
「うん。
ライムがだいすきな、さくらをモチーフにつくりました。
裏には小さくエンブレムが彫ってあるから、ライムと、ライムが触れるひとのこころをまもっ」
それ以上は、ことばにできなかった。
する必要も、なかったのだけれど。
指輪はお仕事中はじゃまになるし、なにより今つけたなら目立ってしまう。だからもちろんペンダントチェーン付きだ。
しかしそのせいでおれはノックアウトされそうになった。
『カナタさんから、かけてください』とほほを染める様子は尊すぎ、『似合うかしら?』とはにかむ姿は天使すぎて。
ライムは『どうぞこれをお守りに』と、胸元のリボンをおれのうさ耳に結んでくれた。
最後にもう一度ハグをかわして、『またね』を言い合い。
イツカと合流して、基地の隠し部屋へと戻ったのだった。
次回、新章突入。
新生魔王軍旗揚げです!
どうぞ、お楽しみに!!




