Bonus Track_80-8 超えてはならない壁! ゴーちゃん、限界突破する?! ~マリオさんの場合~
わかってる。ウチらは、勝っちゃいけないのだ。
巨虎フォームのスゥちゃんと、ソラっちの水の巨鳥。
さらにみつるんまで加わったら、ゴーちゃん一人じゃ勝ち目はない。
つまりこれは、退くべき戦いなのだ――いつものように。
このセカイの花形と、土の下の住人。
αの軍人と、基本Ωの『モンつか』。
社会的立場は対極の両者だが、そのおしごとはよく似ている。
ティアブラシステムを利用して、アバターに意識を載せて、戦う。
違うのは、求められる強さ。
軍人たちは、青天井。
対して『モンつか』には、ハッキリとした天井がある。
アバターはもちろん、お仕着せのモンスター。レベルアップや成長は基本、しない。
アバターとのユニゾンレベルにもキャップが設けられており、どれだけなじんだとしても、イコール自分の体のように、とはならない。
だから、ゴーレムを操作して、こんなことはできないはずなのだ。
まるで人間のように両手をぶんぶんふりまわし、ぐるぐるパンチをしようとする。なんてことは。
わかってる。ウチらは、勝っちゃいけない。
勝つべきは、『魔王軍』なのだ。
感情をわきに置き、冷静に考えればわかる。おかしいのだ。
イツにゃんもカナぴょんも、なんにも悪いことはしてない。
ゴーちゃんもつねづね言っていた。
おかしいと。かわいそうと。
イツにゃんは恋敵で、いまは『敵』なのに、それでも。
やさしい、やさしすぎるゴーちゃん。
ほんとうに、不器用で、あったかで。
争うくらいなら自分が譲ってしまうような、バトルの相手が無事だったことにひそかにほっとしてるような、そんなゴーちゃん。
――けれどいまはなにかが違った。
「まけられない……俺はまだ負けられない!! 負けられないんだ!!
みんな、がんばってる!! 俺も、俺もやるんだ!! やらなきゃなんだ!!」
叫びながら、ぶんぶん『ゴーちゃん』の両手を振り回す。
画面の向こう、あーちゃんハヤトきゅんまで驚いてゴーちゃんをみてる。
『お、おい?!』
『まず距離とろう! 離れるよ!! フォルドさんたちも高度上げて!!』
ターラ姐さんと『オコネコ!』とともに、避難するように距離をとる。
気圧されてるのは、スゥちゃんたちものようだ。
ソラっちがみつるんをかばいつつ言う。
『ミツル、離れて! 危ないから!!
これ。『ホワミグ』で何とかできそうか?』
『いや。
これは、このひとの意志に基づくものだ。
3Sでも、『大神意』でもない』
『了解。つまり正面から行くしかないってことか!』
スゥちゃんも賛成を示しつつ確認をとった。
『賛成一票!
ねえシオちゃんヴァラちゃん、何が起きてるかわかるっ?』
『ここは私が。
アバター『ゴーちゃん』に設けられたユニゾンキャップが、無効化されているようです。
現在の彼は我々神獣と同程度のポテンシャルを発揮しうる状態。原因は、不明です』
戦場に流れた知的セクシーボイスは驚くべきことを告げていた。
ササキさんがインターホンを手に取った。
「そんな、……
社長、どうしましょう。……はい、かしこまりました。
技術チームのほうではもうストップを試みているそうです。
スケさん、マリオさん。わたしたちも呼びかけて、ゴーちゃんさんを止めましょう。
ユニゾンレベルが上がればアバターの活力が増す代わり、精神力と生命力の消耗も大きくなります。
万一、限界を超えて消耗しきってしまえば、……」
ログインルームが、恐ろしいばかりの沈黙に包まれた。
その静けさをぶち破ったのは、『ゴーちゃん』が振り下ろしたこぶしによる轟音。
アダマンタイトの鉄槌が、フィールドにもうひとつクレーターを作っていた。
「……ゴーちゃんさん!!」
「だめだよ、ストップ!!」
「あかんて、落ち着いて!!」
ログイン中の人間に危害を加えたとなれば、軽くて無期懲役。よって、手は触れられない。
ウチらは三人で必死に声をかけた。
けれど、画面の中の『ゴーちゃん』は暴れ続け、ゴーちゃんはつぶやき続ける。
「やれる、俺はもっと、やれる……やらなくちゃ……
ドラオさんはかっこいい。
スケさんはすごいことやった。
ササキさんは全力くれた。
マリオさんはすっごく、すごかった。
俺も、俺ももっと、……もっと……つよく、つよくっ!!」
けれど、こぶしの一発ごとに。一言をつぶやくごとに。
急速に、ゴーちゃんの顔色が悪くなっていく。
「……わかった」
もう、やるしかない。
立ち上がった。ログインチェアのヘッドセット部分に手をかけた。
「ちょっ! だめですよ?!」
「ええんや!
ゴーちゃんがどうかなるくらいなら、無期でもなんでも食らったるっ!!」
迷ったとこを見せればササキさんに、へたすればスケさんにも累が及ぶ。あえて乱暴に、二人を振りほどき、ヘッドセットを引っ剥がす!
それでも、ゴーちゃんは止まらなかった。
ぶつぶつとつぶやきながら、『ゴーちゃん』を操り続けてる。
まるで、魂が画面の向こうに行ってしまっているかのように。
「そん、な、……」
だれかの泣きそうな声が聞こえた。
だめだ。諦めたらだめだ。また、繰り返しになってしまう。
だから、ゴーちゃんをぎゅうっと抱きしめた。
「繰り返させるかああ!!
発動! スキル! 『慰撫』ッ!!
ゴーちゃんにできるならウチにもできるんや!!
でてこいスキルッ!! ゴーちゃんを落ち着かせろっ!!
ウチの気合!! すきなだけくれてやるわぁっ!!!」
常識で考えたらそんなことできるわけもない。
いかに前世はモンスターだった可能性があるといったって、今はただの人間。
いくらティアブラネット敷設域にいるといったって、装備もアバターもない状態で、スキルが使えるわけもない。
けれど、できると思ったのだ。できろと思ったのだ。
はたして、体の中から何かが抜けてった。
ゴーちゃんの体がふわんと光ったと思うと、画面の向こうが静かになった。
「マリオさん……?」
腕の中から、どこか眠たげな、やわらかい声がきこえたのを最後に、意識は沈んでいった。
やっとこのセカイの軍人ズがどう闘ってるか(の一端)が、まとめて具体的に語られたような気がします。
基本、ティアブラシステム利用して、アバター介してバトってます。生身で戦うようなのは少数です。
それについてはまた、いずれ。
次回、『魔王城』内部の仕事人たちががんばります。
決着まで、あとすこし。
この章でなんとかしたい(願望)
どうぞ、お楽しみに!!




