80-4 すべてを捨てて! イズミ、全力のスピードスター!
カメラ越し、トウヤさんの目がまっすぐおれたちをみた。
『よく見ておけ』そう言っているのだ。
次の瞬間、三人は風になった。
* * * * *
『『クロックアップ』に『時止め』。さらには『効果すり抜け』。
互いのキャパシティを利用しあっているとはいえ、第一覚醒でこれとは、末恐ろしいほどだ。
よって敵となるならばここで、摘み取らねばならん。覚悟はいいな』
『摘み取られる覚悟など、おれたちはしない。
おれたちがするのは、『憧れ』を超えてしまう覚悟だけだ』
『イズミ嬉しいそうっす、トウヤさんにここまで言ってもらえてってもふ!』
トウヤさんがいつもの不愛想顔で言えば、イズミもどんとかまえて言い返す。
前は自信なさげな時もあったけど、いまはそんなのどこへやら。
ニノに今のシックなタキシード風装備をあつらえてもらい、ユニゾン・代理演算を利用した『クロックアップ』ができるようになってからは、ほれぼれするほど堂々と立つようになった。
もっともそのニノはイズミのツンを暴露して、黒い大きなおみみのうさみみパンチをくらっている。嬉しそうだ。おれもちょびっとうらやましい。
『全くよい度胸をしているな、お前たち。
いいだろう。遠慮なく超えるがいい。そうして俺の、目標となれ。
勝負だ』
トウヤさんは小さくほほえみ、首元の第一ボタンに手を触れた。
いつかのように、軍服風の上着が消え去り、ノースリーブの白シャツ姿に。
イズミも腰の懐中時計に手を触れて、黒のモフリキッドアーマー姿に。
『『クロックアップ』!』
『『月兎跳波』!』
ニノとイズミのふたりと、トウヤさんのそれぞれを、銀色がかった青紫のオーラ――『超高速化』のエフェクトだ――が包み込む。
トウヤさんのイチゴ色の目がカメラ越し、一瞬まっすぐおれたちを見て。
一閃。画像が途切れる。カメラが斬られたようだ。
おそらく、それを据え付けていた塔屋部分ごと。
はたしてカメラを切り替えれば、塔屋が腰の高さですぱりと横一線に斬られており、三人の姿は消えていた。
意識を凝らす。いた。
イズミは一陣の影として床面を滑り駆け抜けていた。
トウヤさんは、白の光となって上空に。オレンジのしっぽをなびかせたニノは、切り裂かれた塔屋のうえにふわりと降り立つ。
『『抜打狙撃』!』
ニノがトウヤさんに銃撃を仕掛けた。続けて一、二、三発。
虚空を蹴って跳び、銃弾を次々かわし、トウヤさんはニノに迫る。
ぎらり、『月閃』の刃が鋭い光を宿す。
あのエフェクトは『次元斬』――『月萌杯』でも見た、空間ごと切り裂く一撃だ。
なるほど時空ごとぶった切ってしまえば、スキル効果もへったくれもない。たとえ『フリーフォックスフライング』が発動されたとしても、問答無用でニノを仕留めることができるというわけだ。
ニノは動かない。必殺の一撃が迫る!
しかし、トウヤさんの腕は外側にはじき返された。
そしてそのひたいには、ニノの銃口がぴたりと向けられた。
『チェックメイト。……で、オナシャス』
『本当に、大した度胸だ。
認めよう。お前たちの勝ちだ。
……見事だ』
トウヤさんの足元からぴょんぴょん、とニノの体をのぼってきたのは、黒い、手のひらほどの野うさぎの子供。
そのつぶらな瞳は金青のオッドアイ。うさ変化したイズミだ。
イズミを肩にニノは銃を下ろし、トウヤさんも納刀する。
『やはり、心通じたバディに一人ではかなわんな。
次はアカネと来させてもらおう』
『ありがとうございますっ!』
互いに一礼をかわし、ふたりとひとりは左右に別れた。
イズミとニノは基地内へ。トウヤさんは、ひらりとフォルドの背に飛び乗る。
『あ、あの……トウヤさん? いま……』
『三人とも消えてましたけど、一体……?』
待ち受ける月萌軍人たちから文句は出なかった。言いようがなかったのだ。
なぜって、彼らにこの勝負は、見えていなかったのだから。
むりもない。トウヤさんが仕掛けてから、ニノがチェックメイトを言うまでは、一秒かかっていなかった。
いや、『ホルスの目』をもつツヤマさんにだけは、かろうじてわかったみたいだ。
うつむいて、ポツンともらすのが、澄ました耳に聴こえてきた。
『いくら速度を上げるためといったって。
武装もなにもない、子うさぎになって。
さらには、体当たりなんて……無茶としか言いようがない作戦です。
子供たちにそんなことまでさせるなんて、わたしたちは……。』
そう、彼女も見えているのだ。
うさイズミを両手で抱いて、ゆうゆうと基地内に入ったニノは、外から見えないところまで来るやばたんと横ざまに壁にもたれ、そのままずるずるくずおれた。
イズミも、子うさぎの姿のまま、戻る気配がない。それどころか耳も手足もへたんと垂らし、ぐったりと動かない。
『あいつらはもう、子供じゃない』
トウヤさんにも『聴こえて』いるだろう。
けれどそれにはふれぬまま、ツヤマさんの肩に優しく手を置いた。
『自らを賭ける覚悟をもった、一人前の男たちだ。
俺たちが目指すのは、その覚悟を持ちつつも、そうした『無茶』を極力させない組織作りだ。
この戦い、しっかりと見るぞ。そして今後に備えるのだ』
『……はい!』
そう、あのふたりにもわかっている。
ニノが震える指でポーションを取り出し、そっとイズミにかけてやると、きらめく光のしずくを受けて、ふるりとその耳が持ち上がったのが。
ルリ・ツヤマさんの瑠璃色の瞳が、ふたたびきらきらとかがやいた。
トウヤ「決してうさぎの魅力にやられたわけじゃないからな。」
ウサウサカワイイ。
次回、白のイツカナVSタクマ&エルマー!
そんだけでもう基地があぶない予感!
どうぞ、お楽しみに!!




