Bonus Track_80-5 やったね、それでも、どうか、~ハナナの場合~
どのスレッドを開いても、話題は第四陣のことばかり。
街角の大型ディスプレイでも、カフェ店内のテレビでも、特集番組が流されていた。
とくに熱っぽく紹介されていたのは、出陣する人たちのそうそうたる顔ぶれだ。
カルテットの四人。アスカ君、ハヤト君。
マルヤム、オフィリア、ケイジ君、ユキテル君。
ソリステラスの留学生たち。かれらにつきそう、ハルオミ君とハルキ君。
ルリさんをはじめとした、月萌軍の人たち。
そして、ノゾミ先生と、トウヤ・シロガネ。
わたしは思わず言ってしまった。
『これって……やりすぎじゃないの?』
『しいっ』
ルイがあわててわたしの口をふさぐ。あぶなかった。
ふたりで入ったカフェも、お祭りムードであふれてる。
そこでそんなことを言ったら、追い出されかねない。
わたしとルイはだまってランチを食べきり、外へ出た。
高天原の町はどこも、熱に浮かされたようだった。
ある意味、イツカ君とカナタ君が、女神ステラを救って凱旋したとき以上の盛り上がりよう。
でも、あのときふたりは、みんなの英雄で。
いまは、倒されるべき『魔王』だ。
仕方ないのだ。わたしたちこのセカイに生を受けたものは、『大女神』には逆らえない。
彼女の『大神意』が命じれば、一日前まで英雄だったふたりを、敵と『思って』しまう。そして、狩りたくなってしまう。
そうして月萌軍は、最強の布陣で二人を打ち倒そうといきまいて。
二人を敵と思いきれなくなってしまったわたしたちは、愛想笑いをはりつけ歩く。
さいわいなのは、幼稚園のこどもたち――まだティアブラキッズカウントの解禁がされていない子たちには、『大神意』の影響も小さいこと。
『ただの、リアル連動の大規模イベント』とのみ聞かされているこどもたちは、よりポップな演出に書き換えられた戦いを見て、どっちもがんばれ! とむじゃきに声援を送ってる。
『みんなすごい、かっこいいね!』『ボクたちもはやく、あんなふうにプレーしたいな!』と、つぶらなひとみを輝かせはしゃぐ子たちに、『ほんとうのこと』なんか言えやしない。一生懸命、笑顔をつくってあいずちをうった。
けれど、わかるひとにはわかってしまう。
園長先生はわたしとルイに、月曜火曜のお休みを命じてくれた。
『気になる子たちが出陣してるんでしょ?
大丈夫、きっときっと、無事に帰ってくるわ。
……そしたらそこが最大のチャンスよっ。うまくおやりなさいっ!』
そんなふうに、冗談めかせて。
『シエル・フローラ・アーク』は実用化レベルになった。コウ君の覚醒で。
さらにはシロウ君も覚醒して、その安定度は完璧なものになった。
水曜にはそう、アスカ君から教えてもらってた。
本番で披露するから、きっと見たって!
ウキウキとそういわれた時には、わたしたちも飛びあがったものだけれど、そのきもちは出陣者特集であっという間にしぼんでしまった。
そして今。画面の向こうでは、完成した『アーク』が飛んでいる。
桃花色の、どこか透き通るようなきれいな色は、晴れた空によく映えた。
舞い散る花びらをまとったその船体は、きっとふんわりいい香り。
素敵だった。まるで、妖精の女王様が乗る船のよう。
すごい。やったんだ。
コウ君たちはやったんだ。
見ているだけで、胸ときめいた。
けれど、あの船が着いたなら――
イツカ君とカナタ君は戦わなきゃならない。
あの船に乗った最強たちと。
かなうわけない。きっと、つかまってしまう。
もちろんノゾミ先生たちが、イツカ君やカナタ君、仲間たちを悪いようにさせるはずなんてないけれど、わたしたちは知っている。
高天原には、ふたりを嫌いな大人もいるってこと。
ふたりやアスカ君たちを陥れようとして、ことごとく失敗してきた『赤竜管理派』が、タダで引っ込むわけなんかない。
そらわたる、美しいふね。
やさしい人たちが作ってくれた、奇跡の箱舟。
そこに乗っているのは、お世話になった人たち、大好きな友達、そして、気になる男の子たち。
でも、でも。
かなうなら。
あのふねが、つかなければいい。
なにか、なにか、奇跡が起きて。
わたしたちの女神様は、こんな願いを聞くわけがない。
それでも、だれか。
どうか、どうか――
耐え切れずに手首のミサンガに触れたその時、そらとぶ船は雲散霧消した。
昨日投稿の『ぽんぽこ たぬきの おとどけものです!』とのギャップがでかすぎて脳が割れそうです。右と左とかに。うそです入ってません。(※ステマ)
まずはこの場を借りまして、皆様ありがとうございますっっ!!m(__)m
次回、何が起きたか(またこのパターン)!
どうぞ、お楽しみに!




