Bonus Track_80-3 本気でこなす、出来レースを~アスカの場合~
2022.03.30
それが尽きれば←それポイントが尽きれば
僕たちが高天原に入る、数か月前のこと。
注目の一組が、学園闘技場に現れた。
ハルバード使いのヤマネコ装備少年と、剣士のオコジョ装備少女のバディ『オコネコ!』だ。
自分より大きなモンスター相手にも一歩も引かず、助け合って勇ましく戦う。
勝っても負けても、威張ったり負け惜しみを放ったりすることなく、さわやかに気さくにふるまう。
そんな二人のことを、誰もが好きになっていった。
見た目もスッキリかわいらしく、『しろくろウィングス』につづくアイドルユニットになるのでは、とすら噂されたものだった。
残念なことに、バディは一か月で解散してしまったのだけれど。
* * * * *
月萌とソリステラス、双方の代表――『勇者一行』が『二人の魔王』と戦えば、結果はどうであれ、両国の連帯はゆるぎなきものになる。
けれどそれを目前にしてなお、細かな調整は必要だった。
有利すぎても不利すぎても、どこからか物言いがつく。
いまは適度な戦況を、各担当が実行できる可能な範囲で見せなきゃならない。
たとえば、これだ。
『ゴーちゃん』とその頭に乗ったおれたちの前には、巨虎の姿のスゥさんと、水の巨鳥をまとったソラが立ちはだかり、ミツルがそのアシストとして滞空。
足元には、アオバとミクさん、南国美女の姿をとった猿神獣ターラさんがこちらを見上げている。
ただ単に戦力だけで言えば、五分以内にカタがつく。
なぜか。一番の強敵である神獣たちに『時間制限』があるためだ。
神獣たちがここで戦うためには、チナツとクレハのTPBPが必要だ。それが尽きれば、還らなければならない――たとえ愛と自由意志があったとしても、そこは曲げられない。
つまり、攻撃の主たる的とせず、避けてあしらい続ければ神獣たちは『勝手に』撤退していく。
そうしながら、ソラとアオバたちを攻撃、撃破。
基地正面のフユキとコトハさんのバディ、基地上空の青龍シャシャも同様に対応。
守りをほっぽり出せない白のイツカナが『フォルド』と張り合っている間に、ロック鳥のルゥさんを『ゴーちゃん』がどかしてしまえば、『シエル・フローラ・アーク』は基地に乗り付けることができる。
あとは流し去るように進むという目算だ。
だが、それをしてしまえばこちらが『悪』になる。
『勇者の仲間』にふさわしくない戦い方を、すくなくとも軍師の僕自らが行ってはならないのだ。
もっとも心優しい『ゴーちゃん』には、そんなけちらかすような戦い方は無理なんだけど。
だから僕は、ハヤトとともに『ゴーちゃん』から降りる。
あえて互角近くにそろえた戦力で、本気で戦い――
カッコよく、散ってみせるために。
けれどそれは、ラッキーなことでもあった。
なぜなら、僕たちの相手は、あのころの僕ですら好きになった、まぼろしのバディだったのだから。
「あーっ! これってよく考えたら『オコネコ!』再結成ってカンジ?!
ごめん『ゴーちゃん』そっちたのんだ! いこうハーちゃん!」
だから、こんな頭ライトな歓声も、まるで自然に出てきてくれて。
『あれー? もしかしてお姉さん、お邪魔かな? 見てたほうがいい?』
「いえセクシーキュートで優しいターラお姉さんもぜひっとハーちゃんが言っております!」
「おい。」
人の姿に戻ったターラさんと、フツーにこんな掛け合いもできて。
「そういやこの組み合わせでバトるの初めてかもな!」
「ごめんねハヤト君、女子相手だとやりづらいなら、あたしはサポートに回るけど」
「いや。全力で頼む。お前たちは強いから、俺も本気で行く」
「言ったわね♪」
「それじゃあふたりで、全力で行く!」
そんなさわやかなやり取りで、戦場の毒気を払しょくできて。
「っしゃー! どっちが勝っても恨みっこなしねん☆彡
てわけでさっそくテラフレア~」
「だからそれはやめろおおおお!!」
こんなふうに能天気に始めることができたのだった。
どちらかが辛勝し、双方が撤退するための、本気でこなす出来レースを。
初手でハヤトと声を合わせ、第二覚醒『メビウスリンク』を発動。パワーアップ形態に移行した。
そのとき視界の端、基地の屋上でキラリ、光るものがあった。
白リボンのイツカが、イツカブレードを空に向けている。狙うは『フォルド』。
その腕には、最新モデルの腕輪型装備――第三陣までで学園生たちがもたらした、月萌軍製のきれいなバクダン――が輝いていた。
なるほど、そういう作戦でくるか。
数日間の居候、いまは後続部隊で時を待つ『野良アンドロイド』はそれを見て、どうするのだろうか。
そう思った次の瞬間、ナナメ上の事態が起きた。
「そぉ――っれぇっ!!」
基地の屋上に走り出してきたソーヤが『抜打狙擲』で何かをぶん投げた。
後続部隊めがけて、なんかを詰めた布袋がくるくる回って飛んでいく。
もちろん迎撃・撃墜されたのだが、飛び出してきたのはそんなん意味ないレベルの大爆発。
人と機材へのダメージはゼロだが、地面は見事なクレーターに。一部の車両や人員が転がり落ちた。
ターン経過で撤退する強敵とかすっごくシミュレーションゲーム……!!
例によって説明二倍削ってます。しゃーあんめぇ。
次回、何が起きたのか。
銀子さん視点でお送りします(予定)! お楽しみに!!




