Bonus Track_80-2 弱者の選択と愛するきもち~ルリ・ツヤマの場合~
やらかし修正いたしました!!
2022.03.28、29
わたしもは←わたしは、ルゥ←スゥ
高天原学園を卒業し、αとなったものの覚醒必殺技は、小火器を凌駕することも少なくない。
それでも、戦車に正面から身一つで挑めるような者は限られる――そのように作られたのが、戦車であり、戦闘機なのだから。
同時にそれらは、覚醒が攻撃技でない者の手にも、それなりの攻撃力を与えてくれる。
戦いの場において、必要なラインを描く一助を担わせてくれる。
つまり戦車隊を向かわせることは、相手が『魔王』とその仲間であっても、充分に有効性をもつ選択肢といえた。
露払いとして走ってくれた不死の軍団のおかげで、『魔王城』までの地面の安全は担保された。
万一の対応を担う工兵たちとともに、弱き者たちの鎧にして武器たる砦は進む。
立ちはだかるのは今回も、人の身を超えた強きもの――シークレットガーデンの神獣たち。チナツとクレハ操る召喚獣だった。
猪神獣のヴァラがいない。探し物を得意とする彼女は、管制に回ったようだ。
ならば、見抜いているだろう。
しかし、警告が発された様子はない。
大猿と巨虎はずしりずしりと歩を進め、巨鳥と竜は圧を放った。
なんで、なんで警告しないのだろう。
あの戦車には『召喚奪取』の陣がひそかに描いてある。
もちろん、神獣にも充分に効く強度のものだ。
つまりかれらが戦車に触れれば、その時点でそのコントロールは月萌軍の――あの陣により指定された術者のものになる。
神獣――正確にはそのアバターを操る者たち――は全員、『ティアブラ』運営本社の協力員だ。それも、第三覚醒を果たした腕利きたち。
だが、それはこちらの術者も同じ。
むしろ召喚士としてのキャリアはチナツ・クレハより長い。
つまり一度奪取されてしまえば、奪取しかえすことはもちろん、送還しての再召喚もかれらにはできない。
チナツとクレハにはまだ、ヴァラがいる。女神クレイズもいる。防戦はできなくないが、不利は否めない。
女神クレイズの強さは、五神獣一体一体よりは勝るが、一人で三名を圧倒できるほどではないのだ。
指揮車を一台あとに残し、しずしずと進む四台の戦車。
大猿の手が触れるまで、あと5m。
なぜ、誰も声を上げない。
だめだ、私が声を上げてはならない。なぜって私には責務がある。
すでに負ってしまったモノがある。
聞こえないのをいいことに、嘲笑する者たちがいる。
勝ったつもりで笑う者たちがいる。
気づいて、誰か、早く。
3m、2m、1m。
バチン。
大猿の手が戦車に触れた。
『召喚奪取』が発動した。
大猿はくるりとまわって――戦車をポーンと投げてきた。
『ふんふーん、『召喚奪取』かぁ。考えたねぇ』
『もーターラってば! 笑ってる場合じゃないよっ?』
若い女性の声で大猿が楽しそうに笑うと、巨虎が才気煥発な少女の声でつっこむ。
まるで猫が遊ぶ時のように、目の前の戦車を前足で『ころん』とやりながら。
『ふえ? そうなの~?』
『こらこら。ルゥもわからないまま手を出しちゃいけませんよ?』
ほんわかした少女の声と共に、巨鳥が自分の目の前の戦車を軽くつついて転がすと、青の竜は青年の声で苦笑しながらしっぽで自分の分を転がす。
戦車があっさりと転がされたのは、彼らに触れさせるためにそうしたのだからいい。
問題は、戦車に――つまりその車体に秘められた『召喚奪取』の陣にふれたかれらが、平気の平左だということだ。
『な、なぜ……?!』
思わず声が漏れた。ばかな、そんな。陣に欠陥があったのか?! 疑問や怒号や笑い声が入り乱れる。
『それは我が解説しようか』
すると、ひょこり。地面から生えてきた女神クレイズが、指揮車をひょいところがした。
もちろんこれは、『アーススイム』を使い地下から出てきたということだが、問題はなぜ、彼女も平気なのかである。
彼女はチナツ、そしてクレハと召喚契約を結んでいる。つまりここに現れるとしたら、召喚獣であるはずなのだ。
なのに『召喚奪取』が効果を及ぼさない。異常としか言いようがなかった
『嘆かわしい。じつになげかわしいの。
まずひとつ。おのれらは『召喚奪取』の本質が分かっておらん。
支配・使役されている召喚獣にこれをかければ、当該召喚獣のコントロールを召喚士から奪うことができる。
だがこれを、召喚士を守るバディにかければどうなる?』
突如、女神の緑の指先が私を指した。
「あ、はい、ええと……何も起きません」
『そういうことよ。
われらはチナツとクレハに支配も使役もされてはおらん。
みな自らの意志と誇りをもって、呼ぶ声に応じ手を貸したのだ。
『召喚奪取』如きが何するものぞ。
我が真の嘆きもそこにある。
我らをむすぶ絆が、その程度のものと思われておったことよ。
――我らはみな、チナツとクレハをこころより愛しておる!
その気持ち、なめるでないぞっ!!』
ビシッと決めポーズを披露する女神と神獣たち。
『負けた……』とつぶやく者、膝からくずおれる者たちが相次ぐ。
それを救ったのは、若き軍師の明るい笑い声だった。
『あっはは、確かにそうだ!
いや~、おれとしたことがなまったかな~。
ま、こーなったらしゃーないね。おれたちもそろそろ腰を上げるか!
気を付けてね~、上と正面一緒に来るよん☆彡』
この案を出したのは、彼ではない。反対もしなかったけれど。
しかしこのひとことで、彼は示してくれたのだ。判断ミスの責は、自らにあると。
彼も本心から友を狙っているわけではないに決まっている。なのに、そうである者たちをすらいま、その言葉で救ったのだ。
たとえ彼自身、そのつもりでなかったのかもしれなくとも。
小さくこぼれた『ありがとう』に、うさぎの軍師はニッコリ笑顔を返してくれた。
わたしは思った。このひとのもとならばまだ、頑張れる。
もしもこのひとがあちらに行くならば、そのときわたしに手を差し出すなら、わたしはそれを拒むまい、と。
『従業員と思ってケンカ売ったら役員だった件』……ちがうか……
次回。ついに本命登場。予定です!
どうぞ、お楽しみに!!




