Bonus Track_80-1 シオンの献身(ただし極太)!~ミズキの場合~(1)
先週会った時に、シオンは言っていた。
『みんなが体張って戦ってるのにオレ、あんまなんにもしてあげられなかった。次はもっともっと力になりたい!』と。
第三陣でのシオンは、分析官として管制室に詰めていた。無人タンクの操作者たちを見つけ出すなど、充分に働いていたのだけれど、シオンとしてはご不満だったらしい。
その決意の結晶が、これか。
画面越しに炸裂したトンデモに、おれたちはしばしぼうぜんと口を開けていたのだった。
* * * * *
『対魔王戦』第四陣。
月萌とソリステラスの最高戦力たちが集い、『魔王軍』に挑む。
その実態は、仲間や恩師たちの激突だ。
しかも今回月萌軍は、最終決戦をうたっている。
こんなときに授業なんか、とても受けていられない。
そうでなくとも、数少ない教員――ノゾミ先生まで出陣させられているのだ。
高天原学園は終日休講に。俺たちはそこここで、携帯用端末や大型スクリーンに張り付いた。
アスカとイツカの、漫才みたいなやり取り。そこから前哨戦がはじまった。
月萌軍は空挺隊と陸戦隊を展開していたが、その数はけして多くない。
戦力の逐次投入は愚策とよく言われるが、ときにはそれが最良の策となることもある。
一言でいうなら、いまとられている月萌側の作戦は、ギリギリの辛勝を重ねさせての消耗戦――豊富な兵力を持つものならではの『強者の選択』だ。
その狙いは当たっているように見えた。
『テラシャイ』と並び恐れられる『もももももももももんがー!!』はここで撃たれ、術者のモモカさん、協同していた『トーラス』は、TPBPがほぼゼロの状態となり、ともに後退したのだ。
上空からは残り五組のモモカさんとミクさんが舞い降りてくるが、これはほぼフェイクである。
すぐに四組が掻き消え、つづいて残った一組の姿が変わる。
機械めいた白い翼を背中に装備した、ミクさんひとりに。
翼のデザインをみて一目でわかった。あれはイツカが使っていた『憤怒の制御翼』の改良版だ。
ミクさんはそれを装備して出陣。一斉砲撃の瞬間、『虚飾』の力でミクさんとモモカさんに姿を変えると『オコジョの群舞』で分身。翼の力で上空に舞い上がり、月萌軍の動揺を誘ったというわけだ。
分身はごく短時間でおわったため、彼女はまだ元気いっぱいだ。アオバたちのもとに舞い降りて、「さあいくわよ!」とやる気もいっぱいだ。
俺のとなりでミライがほーっと大きく息を吐いた。
わかっていても、心配になってしまうのだ。
「だいじょうぶだよ。きっと、だいじょうぶ。
みんなは、うまくやってくれる。必ずだよ」
「うん、……ありがと、ミズキ。
だいじょぶ。しんじてる。きっとうまく、やってくれる」
小さな肩を抱いて大丈夫だよとくりかえせば、心優しい相棒は安心させるような笑いを見せてくれた。
いじらしいその姿は、まめしばの子犬のようにかわいくて、俺はもういちどぎゅーっとしてしまう。
「おいまじかやべえ、なんだこの数!!」
「ちょっま、アンデッドウルフまでいる――!!」
そのとき、あちこちから声が上がった。
画面の向こうでは、撤退した前哨隊にかわり、先鋒隊がインしていた。
その構成は第三陣とあまり変わらず――ざっくりいうなら露払いの『ダンサーズ』に戦車隊、アシストを担う後方部隊といったものだったが、数が違った。
前にもましてあでやかな装いの『マリオン』が召喚したのは、百は超えるだろうスケルトンたちと、キングを擁したアンデッドウルフの群れふたつ。
それらすべての先頭に立つのは、壮麗な鎧のスケルトンフェンサー、否、スケルトンジェネラルにクラスアップした『スケさん』だ。
『ティアブラ』でいうならば、国家イベントなみの威容である。
『マリオン』のとなり、黒のドレスローブの『ダークソーサレス』が身の丈を超えるほどの杖を掲げると、アンデッド軍団を巨大な魔方陣が包み込んだ――暗黒強化の上位版、暗黒の加護だ。
勢いづくアンデッド軍団。アンデッドウルフたちが咆哮を上げ、スケルトンたちは一斉に剣を突き上げた。
そうして『スケさん』が走り出せば、不死の奔流が『魔王城』へと流れだす!
しかし、突撃開始の数秒後、その七割が光の玉となって消え去った。
キーンという聞き覚えのある音ののち、『魔王城』が極太レーザーを吐き出したのだ。
小規模な二階建て基地と同じくらいの直径の、もはやデタラメなでかさの光の柱は、進行方向にいたアンデッドたち、ほぼすべてを薙ぎ払った。
前回の『BPゼロ』ってのはうっかりミスではなかったのです!
次回、続き。答え合わせとそのさきと。
どうぞ、お楽しみに!




