80-1 跳びまくる、猫とツバメとモモンガ! 第四陣・前哨戦!
所用で遅れました……!!
アスカが拡声の魔道具を用い、明るく声をかけてくる。
『やーやー今日もいい天気だねー! で、降参しない?』
「しねーってばっ!」
『よろしい、バトルだはじめよう』
「おおおい?!」
あいさつの次に降伏勧告とか、まったくもってみもふたもない。
おかげでおれのとなり、赤リボンのイツカが間髪入れずにツッコミ返し、交渉フェーズは秒で終わってしまった。
ハヤトが『おい』とアスカを見、おれは無言でうさみみパンチ。
かくして『決戦』は始まってしまった。
まるで、いつものバトルのようなノリで。
月萌側の空と地上に展開しているのは、どう見たって前哨戦用の――もっと言えば、射撃手と、その守りだけを担う者たちからなる部隊。
そして、そのまんなかにどんと構えた、『白兎銀狼』onゴーちゃんだけ。
戦力を小出しに投入するのは愚策と言われるが、今回に関してはそうじゃない。
もしも本命部隊をここに置いていたら、おれたちはそこに総力を向けるだろう。
月萌側としては、それをさせないため。おれたちが戦力を逐次投入して消耗してしまうように、自分たちがまず、それを行ったというわけだ。
月萌側にはそれが可能となる条件もそろっている。だが、それについてはまあ後だ。
いまは第一射への対応に集中である。
ここ――『魔王軍』がわの最前線に立ち、月萌軍に相対しているのはいわゆる『アイドル軍団』の一部。
すなわち、おれとイツカ。『アオゾラミッツ』と『おこんがー!』。
プラス、『いま魔王軍でいちばんアイドルに近い』といわれるイケメン&美女バディ『トーラス』だ。
ぶっちゃけ絵面的に卑怯だが、このメンツで出ているのはそれだけが理由ではない。
『ってわけでー、ぶっこ抜くから覚悟ヨロシク☆彡』
アスカの声を受け、陸軍機と空軍機、その周辺に配された陸兵空兵がチャージを開始。
対して進み出たのはミツルだ。
真っ白く清らかなその姿は、いつもより大きく見える。
「なら俺は! この場のみんなの『大神意』を、洗い流すっ!!」
凛と通る声は、拡声機なしでも充分に、フィールド全域に響き渡る。
もちろん、それで止まったら軍人じゃない。進むチャージ。
ミツルも臆することなく白の杖を――愛用の杖『ホワイトウィング』をかざして祈る。
おなかいっぱいミルクポーションを飲んできたナツキのアシストにより、チャージはほぼ一瞬で完了する。
杖の先に膨れ上がるのは、白く清らかな光のタマゴ。
花開くようにはじければ、3Sの影響力すら洗い流す、聖なる鳥たちが飛び出した。
「『ホワイト・ミグレーション』!」
十羽、百羽、もしかしてそれ以上。
おびただしい数の光の鳥が、月萌軍たちを洗う!
途切れた精神支配に、戸惑うものは一握り、手元が震えたのはほんのわずか。
けれど、それで十分だ。
光の鳥に続いてやってくるのは、かすかな薄水色の影。
冷たい風のようなそれは、心の揺れに追い打ちをかけ、体の力を奪い、機械の動作を妨げるのだ。
果たして、あるものはがっくり膝をつき、あるものはぱたりと手を下ろし。
飛行を保てず不時着する空軍機、ぷすんと言って沈黙してしまう陸軍機。
そこまでいかずとも、チャージが遅れ、照準が狂わされた機は少なくない。
結果、一斉射撃のはずの攻撃は、バラバラのスカスカに。『魔王城』の守りを貫くことはかなわずに終わった。
『あー。『虚無』のチカラだね。
みつるんの背中に潜んで、『ホワミグ』にまぎらせて撃ってきた、と。
ここで使ってくるとか、正直一本とられたよ。
ってー、生きてるよねもちろん?』
それでも、射撃は射撃、ぼーっと正面に立っていたらイツカでもアウトだ。
全力で射線から退避。もちろん次につながる場所へだ。
おれはイツカの『0-G+』で、ミツルとソラはアオバのミラクルジャンプで、基地を挟んで右翼と左翼へ。
トラオはサリイさんを連れ、『瞬即塹壕』で地下へ。
モモカさんはミクさんともども、魔法弓のチカラを使って上空へ――ただし、その姿は五つある。
月萌陣営の動揺がおれの耳に届く。無理もない、実はモモカさんの『もももももももももんがー!!』は、『テラシャイ』とならび恐れられる攻撃なのだ。それが五発も来るとか、おれでも逃げを打つレベルの悪夢だ。
『フェイクよ! 本物はそこっ!』
だが、ひとつの声が恐慌を拭い去る。ルリ・ツヤマ女史だ。
とっさにインしてきたのだろう、ぱっと姿を現すが早いか『抜打狙撃』。手にしたビームライフルで上空の一点を狙い撃つ!
何もないはずのそこからはしかし、カシン、とはじき返される音がした。
姿を現したのは、斬撃で射撃を打ち返したらしき、抜刀姿の白イツカと、やつのえりくびつかんだ白リボンのおれ。そして、その後ろでチャージを進めるモモカさんだ。
ほとんどの砲門が慌てたようにそちらに向く中、冷静な声も飛ぶ。
『待て、前からも来るっ!!』
「そういうことだ!『コメット・ブラスト』ォ!!」
「オラオラオラァ! みんなでパーティーだァ!
どーせダメージねーんだろ? 遠慮しないでもってけドロボ――!!」
前からの攻撃。それはすなわち、基地上空に飛び出してきたレンがやけくそのようにぶん投げまくるテラフレアボムと、その爆炎を背負って覚醒技で突っ込んでくるトラオたちだ。
勝ち誇ったような叫びとともに斬りこむトラオ。かぶさるようにやってくるテラフレアボムの爆炎。
月萌側は『テラシャイ』を警戒して、『絶対爆破防御』を標準装備している。そのため、テラフレアボムのダメージはゼロ。余裕をもってトラオたちに集中攻撃を浴びせるが、ふたりはへっちゃらだ。
むしろ攻撃をかけてもかけても、とんでもない数値の回復によりかき消されていく――つまりは、無敵状態だ。
無敵のふたりは地上部隊のさなかを、からかうように飛び回る。不運な砲撃手をなぎ倒し、勇敢な盾職にぶちかまし、当たるを幸いかき回す。
『おいっ! そんなことよりモモンガ!! モモンガ来るぞぉぉぉ!!』
「モモンガ行きます!『もももももももももんがー!!』」
「退避――!!」
やがて恐怖の大王、もとい巨大モモンガ型光弾が落ちてくる。
月萌部隊は全速で散開するが、トラオたちにより対応が遅れ、逃げ切れなかったアバターたちが次々と姿を消した。
さすがに全滅とはいかないが、その損害は小さくない。地上部隊は八割、航空部隊は六割が失われている。
アスカがさすがにまじめな声で、撤退を命じた。
一方、『トーラス』とモモカさんは白リボンズのアシストで、無傷でこちらまで戻ってきた――が、ともにBPTPを使い果たした様子で、こちらも撤退だ。
そんなこんなで前哨戦は、痛み分けといっていい結果に終わった。
この情勢で書き続けていいのか……正直悩みました。
けれどこれ、世直ししたるぜ! 戦争なくすぜ! のおはなしでした。
いまは気持ちを強く持って、進むことにします。
どうか、よろしくお付き合いくださいませ。
次回、続き!
お楽しみに!!




