Bonus Track_79-7 いまここだけは、平和の祭り~ライムの場合~
はやく、一刻も早く、平和が訪れますように。
オンラインマルチサイト歌合戦。
複数の会場をオンラインでつなぎ、順にステージを披露しあう形式のイベントです。
ルカさんルナさん、そしてもちろんわたくしも、できるなら星降町に行きたかったのですが、こればかりは仕方がありません。
先日のライブも、セレネさんが一緒にいらっしゃるということで、かなり無理を言ってゆくことができたにすぎないのですから。
それでも、それでよかったのかもしれません。
ルカさんとルナさん、そして姉レモンの、熱のこもったパフォーマンスを舞台袖から見守りつつも……
わたしの目は、どうやっても一か所に吸い寄せられてしまうのです。
ステージ上に設けられた、大型スクリーン。そのなかで手拍子を送る、うさぎの国の王子さま。
空色のたれみみに赤いリボンをむすんだ、愛しいただひとりのひとのもとに。
もしいま、あのひとがここにあらわれ、わたしに手を差し出したなら。
きっとそのままふらふらと、ついていってしまうにちがいないのです。
自分もつらく切ないのに、役目を果たすと――
ここに残らなければならない仲間のために、自分もとがんばっている、けなげな年下の親友たちを裏切って。
きっと、あのひとはそんな無体なことはしない。
わかっていても、もしかしてを思ってしまうのです。
ルカさんとルナさんの新曲は、そんなわたしの心をも代わりに歌ってくれているようで、いつしかそっと声を合わせていました。
この声はマイクに乗りません。だからきこえることはない。
けれどせめて、この想いだけでも。
今はそばにはいれないけれど、どうか届いて。
歌よ、風となれ翼となれ。
愛していると、どうか伝えて。
歌よ、風となれ絆となれ。
愛していると、どうか伝えて。
涙をこらえ、口ずさんでいたわたしの耳に、なぜかあのひとの声が聞こえてきました。
みれば、ステージの上。三人の優しい歌姫が、大画面越しにマイクを向けています。
いまは『敵』のはずのライバルに、一緒に歌おうと。
一緒に歌えば、みんな友達。今日は目いっぱいに響かせるよ、と姉がみんなに呼びかけます。
ひとり。またひとり。ふたつの会場を埋め尽くした、月萌のみんなが歌い始めます。
それだけではありません。
この様子を海の向こうで見ている、ソリステラスのひとたちも。
なんどもなんども、サビの部分を繰り返し、愛しているよと歌い続けます。
ああ、続いてくれればいいのに。
この尊い時間が、いつまでも。
敵も味方もなく、皆が歌声を合わせ、こころをあわせる、奇跡のようなこの時が。
もちろんわかっています。
会場の外では武器を手に、機をうかがう者たちも。
心の底に憎しみをたぎらせる人たちも、なおいるのです。
だからこれはほんのひとかけらの、ちいさなちいさな平和にすぎない。
それでも、いまここにあるこれが、いつか世界に広がることを願って、わたしも懸命に声を合わせるのでした。
次回。
日曜夜の楽しいひと時。『魔王軍』月萌最後の夜となるのか?
そして運命の朝が来る……という予定です。
どうぞ、お楽しみに!




