9-8 決闘、黒猫VS銀狼!(2)
「では問題でーす。どっちがアタリでしょーうか?」
おれはニッコリ笑って、アスカとハヤトになぞかけをした。
同時に両手でふたつのオーブを取り出すと、ハヤトの前後にむけ、山なり軌道で緩やかに投げる。
「っく!!」
ハヤトはかけられた問いに惑わされず、とっさに横っ飛びでふたつのオーブから距離を取った。アスカはそんなハヤトに『神聖強化』。賢明な判断だ。
「そう、こたえは『両方』です!
っというわけで、『本日のスペシャルグレネード』、ドン!」
すかさず両手で『抜打狙擲』。ゆったりと落ちていく二つの『引力のオーブ』に、ある特殊なボムを投げつけた。
ピンク色をしたそのボムには、攻撃力はほとんどない。それどころか、その爆風を受けたものはすべて『強化』される。
そう、その正体は、強化パウダーいりの小型カプセルを炸薬の中に混ぜ込んだ、いうなれば『強化のプチグレネード』だ。
『神聖強化』や『強化』は、プレイヤーの能力を引き上げるだけでなく、武具や道具の『性能』を高めることにも使用できる。
いい例が、アカネさんの『ロリポップ・シャワー』。おもにボムに神聖強化を多重掛けしまくって降らせることで、わかっていても防御不能な威力をたたき出す必殺技だ。
いうなればおれは、それにならった作戦をとったのだ。
中空で小さな爆発をおこしたふたつのプチグレネードは、ピンク色をした『強化』のマジックパウダーをぽふんとオーブに吹きかけ、その性能を強化。
オーブは地上に落ちて割れ、その場で『引力』のチカラを開放。周囲のあらゆるものを、通常の1.5倍程度の強さで引き付けはじめた。
不意をつかれたハヤトは、引きずられてバランスを崩す。
そこへ、黒いしっぽで姿勢を制御しながらイツカが飛び込んでくる。
『斥力のオーブ』で吹き上げられ、闘技場の天井を蹴ったときにはすでに、パワーチャージは済んでいた。
イツカの全身は金色の輝きに包まれ、イツカブレードの刀身に走るラインも赤く赤く燃えている。
「いっくぞぉぉぉ!!『ムーンサルト・バスター』ぁぁぁ!!」
「神聖強化!! かっとばせっ!!」
アスカがハヤトをさらに強化。ハヤトは咆哮を上げながら立ち上がり、『引力』のチカラのまんなかへと駆け込む。
そして、あっという間にパワーチャージを終え、こちらもまた必殺技の構えに入る。
しかし、打ち出しはしない。白銀の輝きを身に宿して、イツカを待っている。
そう、ハヤトは、ふたりの剣が交わる瞬間にそれを解き放とうというのだ。
イツカもそれを悟ったのだろう。タイミングを合わせるかのように、ハヤトの剣の軌道めがけて突っ込んでいった。
直感した。これで、決まる。
もはやおれたちにできることは、二人の激突を見守ることだけだ。
さあ、ふたりが剣を後ろに引いた。
ハヤトの声が響き渡った。
「――『グランドスラム』ッ!!」
かたや、白兎のプリーストの祈りで守られた銀狼。
かたや、青兎のクラフターのアイテムに導かれた黒猫。
二人のつむぐ、白銀と黄金の輝きが交差したとき、それは起きた。
ギン、という金属音ひとつ。
黒く冷え固まった溶岩の地面に、カン、カラン、と転げる固い音ふたつ。
二人の剣は、交差した部分から折れ、剣先があいついでフィールドに落ちる。
そしてイツカは、頭からハヤトに突っ込んでいた。
ゴッ、という鈍い音とともに、胸元で受け止める形となってしまったハヤトもろとも、地面に転がる。
一秒、二秒、三秒。
イツカが何とか身を起こそうとしたが、バランスを崩しごろっとわきに転げると、また動かなくなってしまう。
ついでハヤトが上体をおこし、げほ、げほげほ、とせき込む。
しばし呼吸を整えると、イツカを見下ろす。
イツカは起き上がろうともがいているが、うまくいかない。
おもに頭がふらふらしているためだ。脳震盪だろう。
さらには左腕が脱臼したのか、肩から動かない。
そして、右手は……
ハヤトはその手を、尊いものを扱う手つきでそっと包むと、うめきながらも高く掲げた。
ざわつく場内を、ハヤトの声が渡っていく。
「俺は……剣士としてこいつに……勝負を挑んだ。
その結果、俺は剣を手放したが……こいつはこうして、離さない。
その時点で、こいつは俺の、勝者となった!!」
そう、イツカの右手には、しっかりと握られたイツカブレードがきらめいていたのだ。
「ゆえに! 俺はっ! イツカへのアイドルバトラー引退の要求を、取り下げる!!
俺の、負けだ!! 異論は……認めねえッ!!」
まるっきり勝利宣言としか聞こえないような、晴れやかな敗北宣言に、割れんばかりの拍手と歓声が巻き起こる。
俺とアスカは『砦』を飛び出し、二人の友を回復してやりにいくのだった。
闘技場でのことは、もちろんティアブラの中だけのこと。
ログアウトすれば剣士二人は、疲労はしていたものの痛みも残さず、お互い実にいい顔をしていた。
アスカもニコニコしているし、おれもなかなかにいい気分だ。
もちろん疲れてはいた。けれど、今までにないほどいろいろなアイテムを試せたという事が、満足感と充実感とをもたらしてくれる。
しばし余韻に浸っていれば、シオンとソウヤのクラフターコンビが適温の蒸しタオルを渡してくれた。
「はーい、みんなおつかれー! すごかったよー!!」
「お疲れ! つーかてめーらかっこよすぎて全俺が惚れたわ!! まとめてモフらせて!!」
「よ~し。じゃあまずは全ソーやんがモフられようか~」
「よしゃー! ソーヤのうさ耳のフサフサ一度モフってみたかったんだよな~!」
「キャアアア! ふたりはむりだからー! せめてひとりずつにしてー!!」
アスカとイツカ、そしてソウヤが休憩用テーブルの周りをぐるぐる走って追っかけっこを始めた。
「……おい」
「こら三人とも!
全おれに撃たれるよ? 輪ゴムで」
楽しそうだが、ログインブースはそんなに広くないので危ない。
おれはハヤトとともにわるがき三人を軽くたしなめる。
やつらは瞬時に立ち止まってホールドアップした。よし。
……と、ここでおれは、プリースト二人の姿がないのに気が付いた。
「あれ? ねえ、ミライとミズキは?」
「ふたりなら、部屋でお風呂と生姜焼き用意してくれてるよ!
オレたちは蒸しタオルがかりで、お手伝いしてって」
「そっか、ありがとねふたりも。
おれも向こう手伝いに行くよ。
みんなは一休みして、ゆっくり来て」
シオンの答えに立ち上がり、ログインブースのドアを開けば、そこにはミズキが立っていた。
「……そういうと思って。
もう終わったよ。カナタもくつろいで」
「ありがとうミズキ。
ごめんね、すっかりやらせちゃって」
「ううん。
この一週間四人は特に大変そうだったし、俺たちにできることをしたかっただけだよ」
優しい顔立ちに浮かぶのは、たおやかな癒しの笑顔。
綺麗な声、穏やかな口調で紡ぐ言葉も、耳に心にここちよい。
うん、疲れが半分飛んでった。
「ふああーミズきゅんの優しさには癒されるな~。さすがはプリースト~」
「お前もだろ!」
アスカがミズキにひゃっはーいと飛び着いてスリスリ。ハヤトのツッコミが飛んだ。
「えー? おれの将来の夢は『はかいそう』だよー?」
「すでに破壊神だろーが!!」
「……たしかに」
ハヤトのその言葉に、全おれたちがうなずいた。
* * * * *
この日の決闘への投げ銭は、またしても記録的な数字をマークした。
おかげでソナタの手術費用ははやくも四割ほど貯まり、おれたちはいよいよ、新たな一歩を踏み出すこととなった。
記者会見で和解の握手を交わすという、劇的な機会に恵まれたイツカとハヤトは、その場でチーム連合の旗揚げを宣言したのだ。
その名も『ウサうさネコかみ(仮)』。
お互いの、そして他のチームのメンバーの良いところを見つけて伸ばしあう。ときにはそれを輝かせるような企画バトルを実施し、ともに強くなるのが活動目的だ。
連合最初の加入者はもちろん『うさもふ三銃士』。
そして最初の大きな目標となったのは、零星生徒の全員一ツ星昇格だった。
第二部完ッ! とつけたいかんじです……まだはやい?
ともあれやっと新タイトル回収です。
な、なんとまたブックマークいただけました。ありがとうございます。めっちゃ励みになります!!




