Bonus Track_79-6 来るはずの、ない未来~ルリ・ツヤマの場合~
「以上が、当日の手はずとなります。
……ご不明な点など、ございましょうか」
緊張とともに説明が終われば、流れるような青緑の髪も美しい貴人は、優雅な所作で首を左右した。
「ありがとうございます。わたくしは大丈夫です。
タクマ、エルマー、お前たちは?」
話を振られた二人は対照的だ。
黒衣に金色の瞳の少年は、ものおじした様子もなくさっくり。
「えっと、つまりオレたちはハルキたちといっしょに大将戦を戦ってくりゃいーんだろ?」
一方もうひとり、少女にも見える少年は、黒のクロークの中、かすかにうなずいただけで顔も上げずに縮こまっている。
こんな子を前線に出したりしていいのだろうか、そんな気持ちにすらなる様子だ――彼が巨大な地神龍の化身であり、この中のだれよりも強い、ということは知っていても。
「はい、その認識でよろしくお願いいたします」
「っしゃ! んじゃ、ほかになきゃオレたちはこれで!」
「あっ、はい、ありがとうございました!」
そんなわけで、タクマ少年が嵐のように彼を連れ出してくれた時には、ほっとした空気が漂った。
「……すみません、タクマが」
「いいえ、だいじょうぶ、です」
エルメス殿下が苦笑交じりに詫びてくれたのを、だからわたしたちは同じ分量の苦笑をまぶした微笑みで返し、同じタイミングでコーヒーをすすったのだった。
エルメス殿下はお忙しい。
両国和平の懸け橋として、学業の傍ら、精力的に公務をこなしておられる。
『対魔王軍戦・第四陣』についての説明はだから、殿下のご都合に合わせて開催された。
すなわち、水曜日の夕刻だ。
これまで作戦説明は参加者=作戦の確定した日曜の午前に行われていたが、その時間帯、殿下は会食のご予定である。
それでも、問題はなかった。
主たる役割を担う者たちはすでに決まっている。それ以外の志願者が作戦を変えうることはない。そして彼らが『魔王』の手に渡ることもない――作戦終了と同時に、ほかの『捕虜』ともども、月萌に戻る。
そういうことに、なっているから。
『魔王軍』は、消えてなくなるのだ。月萌とソリステラス、双方の最高峰の手によって。
そして両国の絆は、前線でともに守りあい、戦った殿下とその婚約者の婚儀によってゆるぎなきものとなる。
これで問題はないはずだ。大女神の指定した『世界の敵』は討ち取られ、われらは課せられたミッションを果たし、世界は平和を許されるはずなのだ。
……と、楽観的な者たちは吹いて回っている。
けれど正直なところ、そんな展望は見えなかった。
さらなるパワーアップを果たした『フォルド』と、『シエル・フローラ・アーク』。
ソリステラスの使者三人と、その婚約者たち。
そして、月萌剣士の双璧をなすものたち――すなわち魔王の師と、月萌軍の最高司令。
それら最高の切り札で、確実に魔王城を陥落し――
そのあるじたちを、分体も含め、確実に討ち果たすこと。
そう念を押しあって、私たちは解散した。
そんな未来はこない。心のどこかで私は、そう確信していたけれど。
ノゾミ先生とトウヤさんが一緒に来るとかまじでどうしろと。
「俺が」「いや俺が」って未来しか見えない...( = =) トオイメ
次回、週末とその先に向けて、おおいそがしの魔王城の予定です!
どうぞ、お楽しみに!!




