79-3 圧倒的キャリア! 緑のきつね、離れ業を披露する!
その日の昼まえ、エルカさんから連絡があった。
もちろんおれたちあてでなく、研究所員あてにだけれど、もちろんそこにはおれたちも加わった。
そうして聞かされたのは、コウの覚醒と、それによる『シエル・フローラ・アーク』の大幅パワーアップ。そして、ミライとミズキの覚醒というビッグニュースだった。
「っしゃ――!!」
「やったー!! やった――!!」
「きょーは宴だイエーイ!!」
イツカとチアキ、クーリオはぴょんぴょんと無邪気に喜んでいるが、ほかのおれたちはそうもできなかった。
エルカさんにお礼を述べつつも、微妙な顔になってしまう。
「なんだよ、うれしくないのかよカナター? ミライたち覚醒できたんだぜ?」
「そりゃ、うれしいよ?
三人ともがんばってるの知ってたし。
クラフターとしても、新しい研究結果がでたってのにはわくわくしてる。
けれどそれが、ミライとミズキ、カルテットたちのその後に、そして第四陣にもたらす影響を考えると、手放しで喜んでもいられないっていうかさ……」
すでに、かれらは残留の意向を固めている。カルテットは『ハナイカダ』たちを守るため。ミライとミズキは、彼らをはじめとした仲間たちを守るために、学園に残るのだ。
けれど――
「コウは第一人者として突っ走り続けなければならない。
研究所内に敵がおり、無条件で頼ることのできない今は、それがコウにとっての最良の選択だからだ。
それをいいことに、軍はどんどん要求水準を上げ、コウはそれにこたえつづけることになる。
ミライとミズキの回復技によるアシストが加わったとはいえ、楽観視はできない」
フユキがクールにテキパキまとめるとなりで、コトハさんも気づかわし気にうなずいている。
「やつらは一発撃ち落としてこっちに拉致るにしても、今度は『ハナイカダ』がなあ……」
「さすがにまた出陣ってなると気の毒だからさ、二人も子供たちも……」
「あとぶっちゃけ、シエフロがここまでマジくるってーと」
「そのへんはぶっちゃけヤバみしかないっていうかマジヤバイかなって」
レンががしがしと頭をかいて物騒なことを言う。
まあ、正直できればそうしたいところだが、『カルテット』も拒否するだろう。
ソウジもふーっとため息をついて気づかわし気、トビーとアッシュはふたりでぶっちゃけ。
無邪気な三人はしょぼんとうつむいた。
「うう……僕、考えがたりなかったみたい。ごめんねみんな」
「俺も。ついうれしくなっちまって。悪い」
「あうう……スマッセン……」
『いや、悪くはないさ。
仲間のしあわせを素直に思う、そのカタチが違っただけだ。
みんな違って、みんないい、そういうことさ』
けれどエルカさんは、優しくいってくれる。
オルカさんのご出産はまだ先だけれど、なんかもうすっかりお父さんって感じでほっこりしてしまう。
「ふぉぉしょちょ~!! いっしょーついてくますー!!」
へこまないクーリオがうるうると両手を組み合わせると、その場は笑いに包まれた。
『ところで、カナタ君。
以前、ソラ君づてに君に渡した『縮地』の護符。まだあるかい?』
「はい、まだ何枚か。
あの、まだ解析とかはほとんどできてないんですけど」
『むしろその忙しさで解析に着手してたことが驚きだよ。
ありがとう、素晴らしいよ』
「あ、いえ……」
自他ともに認めるひねくれもののおれだけど、ふいうちでほめられて、普通に照れてしまう。
まったく、この人は油断できない。いやそれはいいんだ。
「ええっと、それで。その護符に、なにか……」
『もしよかったら、アップデートするよ。
やってみるかい?』
「えっ?! そんなことできるんですかっ?!」
いたずらっぽく笑うエルカさん。これは食いつかずにいられない。
おれは身を乗り出した。
『ああ、かんたんなことさ。
今通信しているこの携帯用端末に、護符を向けてごらん。
動画を撮影させるような感じでね』
「こう、ですか?」
おれは例のエルカさん製護符を取り出し、言われたとおりに護符を向けてみた。
画面の向こう、エルカさんが指先に銀色の光を宿らせて何かを描く。
すると、画面のこちら側の護符が呼応するようにそのラインを変えていく。
所要時間十数秒。縮地の護符はリニューアルされていたのだった。
「すっげ――!!」
「マジか!」
「こんなことってできるんだー!!」
「さっすが『プラチナムーン』ー!!」
画面の向こう、トンデモチートのきつね装備紳士はまんざらでもない様子でにっこり。
『ふふふ。
相手方次第によっては、『プラチナムーン』などでなくともできるかもしれない。
ひとつの可能性として、覚えておいてくれたまえ。
それじゃあまた!』
しかしほんとうの驚きは、通話が切れた後にやってきた。
護符の表面に数秒だけ、もやのように文字が浮かび上がったのだ。
――月萌軍製の武具の直前アップデートは、通信系の不具合を装って拒否するようにしておくこと――
と。
アウレアさんとルーファス君は哨戒中。
シオちゃんとソーヤ君、イズミ君とニノ君、チナツ君とクレハ君は『みずおと』第二話予告編の準備で高天原に行ってます。
うっかりすると誰か漏れそうでこあいです。エクセルさんありがとう。
次回、月萌留学最後の一週間を満喫するタクマ&エルマーの予定です!
どうぞ、お楽しみに!




