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<ウサうさネコかみ>もふけも装備のおれたちは妹たちを助けるためにVR学園闘技場で成り上がります!~ティアブラ・オンライン~  作者: 日向 るきあ
Stage_79 『魔王軍』最後の一週間? 第四陣に向けて!!(2)

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Bonus Track_79-1 ケイジ・フジサワは迷わない~アスカの場合~

「そこでしたら、あの角を曲がって右に曲がり、三つ目の角を左です」

「おれたちで半分持ちますよ、すこし距離ありますから」

「ありがと、助かるわ!」


 わんこ装備の例にもれず、ケイジとユキテルは方向感覚が鋭い。

 だだっ広いタカシロ本家の間取りを、あっという間に覚えてしまった。

 道を聞かれればテキパキ教え、さらに荷物が多いときには一緒に運んで行ってあげるという紳士ぶり。

 コワモテ傭兵団長の面影なんかどこへやら。人当たりの良さが全開になった二人は、明るく元気で礼儀正しく、親切な好青年たちだ。


 おかげで彼らはすっかり頼られる存在になった。

 二人と歩くためにわざわざ大荷物をはこぼうとする女子や男子がいるのは確実に気のせいじゃない。

 みんなの笑顔に囲まれて、二人も毎日楽しそうだ。


 それでも、この扱いは冷遇といっていい。

 新人研修を終えて一週間。かれらはいまだに、一介のフットマンでしかない。


 ということは、やっぱり。

 あいつはいまだに僕たちに対して疑念を捨てていないのだ。


 僕たちの仲間である二人を身辺に近寄らせないことで、自らの秘密を守る。

 僕が友である二人を哀れんで、自らの衛士としたなら、かれらに僕の身辺をさぐらせる。

 もしも僕がそれを避けるために彼らに声をかけなければ、僕に疑義ありの証となるというわけだ。


 ユキテルの、あいつへの信義は篤い。

 冷遇をわかっていてなお、それがあの人のためだからと文句も言わず従っている。

 そんなユキテルだから、今そばに置くのはためらわれるのだ――あいつに命じられればきっと、僕たちの身辺を探ろうとするだろう。そしてきっと僕らの『裏切り』を嗅ぎ当てるのだ。


 それでも、ここであいつの、あいつらの疑念を強めるわけにはいかない。

 ニコニコ戻ってきた二人に声をかけようとした、その時だった。


「やあやあ、ケイジくんユキテルくん。

 探していたんだよ。どうだい、これからちょっとお茶でも?

 五分程度でいい。私たちのこれからを話し合いたいんだ」


 スルッと出てきたのはレインだ。

 同行しているライカ分体が『えっちなのはだめだかんね?』とまぜっかえし、ハヤトが疑いの目でレインを見る。


「いやはや手厳しいな。そうだ、きみたちも同席してくれたまえ。

 たぶん、われわれの用件は同じだ。なら、一度で済むほうがふたりのためにいいからね」


 そう言いながらやつは、僕にそっとウインクを投げてきた。



 かたや、『次期党首の最有力候補』と目されるモデルはだしのイケメン。

 対するは、彼の従弟である『天才軍師』。

 奪い合うのは、いま大人気のわんわんコンビ。

 なんていったら、騒ぎにならないほうがおかしい。

 カフェテリアのソファー席に移動した僕たちは、すっかりと周囲を人垣で取り囲まれていたのだった。


 やじうまどものターゲットという状況に、ハヤトの狼耳の角度はちょっとふきげん。でっかい体で僕をかばい、隠すようにくっついて座っている。

 僕としてはあったかくて気持ちいいので、役得といったところである。


 ケイジとユキテルはさすがもと傭兵団長というべきか、まったく動じていない。

 人に囲まれるのがすきなレインのやつは上機嫌だ――ちょっとむかついたらしいライカ分体が、そのとなりでケーキをばくばく食べている。つられたらしいライカ本体もハヤトのとなりでケーキバクバク。ほんと誰に似たんだこいつら。多分僕である。


 それはおいとき、ケイジとユキテル、ハヤトがコーヒーを。僕が激甘ミルクティーを口にすると、レインは話し出した。


「用件というのはほかでもない。ケイジ君、ユキテル君。ふたりをスカウトしたいんだ。

 君たちのここまでをトータルでみれば、最低でも、本家の人間つきの衛士として取り立てられているべき人材といって間違いない。

 いまの環境は君たちにあっているみたいだし、みんなも君たちをたよりにしている。だから、取り上げようとは思わないよ。

 ただ、いざというときに、その力強い剣を貸してほしいんだ。

 わたしは弱い。戦うことを身につけられなかった人間だ。

 だからこそできることもあるけれど、狙われることも増えるだろう。それを見越してのお願いだ――君たちさえよければ、私の専属の衛士となってもらいたい」


 僕は半笑いでタメ息をつかずにいられなかった。なぜって。


「それほっとんどおれが言おうとしてたことなんすけど?」

「君は強いだろう? ハヤト君、そしてライカ君本体という心強い味方もいるし。」

「ケイジとユキテルはおれの仲間だし。」

「ここで一緒に暮らしている以上、われわれはみな家族だ。違うかな」

「あの、あの、おふたりともーっ!」


 ここでユキテルが声を上げた。

 立ち上がり、ぺこっと頭を下げる。


「ごめんなさい! おれ、なるんならあの人の衛士がいいんです!

 あのひとには、拾ってもらえた恩があるから。

 だから、認めてもらえるまでこうして……働きながら、待ちたいんです!!

 なので、ケイジをスカウトしてやってください!!」

「ゆっきー」


 ケイジはというと、すこしふくれてユキテルを見る。

 ユキテルは、もともとたれてる金色のいぬみみを、もっと垂らしてこう言った。


「だって、これはおれのワガママで……

 なのにケイはつきあわされて、悪いっていっつも思ってる。

 ケイは、もっと認められて、上に行けてていいはずなんだ。

 なのに、ずっとおれのことばっかで……高天原でも、ここでも。

 バディではいたい、いてほしい。ぶじにマルヤムさんと結婚するまででも。

 けれど、そのためにももっといろいろ、……必要だろ? それ、考えたらおれ……」


 するとケイジは、ユキテルの顔に手をかけ、自分のほうをまっすぐ向かせ。

 ひとことひとこと、区切るように告げた。


「ゆっきー。

 ゆっきーをおってけぼりにするなんて、オレはゼッタイ嫌。

 二度とそんなの、死んでもいやだ。

 まあ、ゆっきーにきらわれたらそんときゃしょーがないけどさ……」


 けれどさいごには手を放し、ふいっと横向いてうつむく。

 どよめきが走る。ハヤトがコーヒーカップを取り落としかけた。

 一瞬悲しむ子犬ちゃんに見えた。180cm近くある、でっかい野郎のはずなのに。

 垂れいぬみみか。それともしっぽのせいなのか。


「わあああ! ケイを嫌うなんてないからっ! 絶対一生死んでもないからっ!!

 わかった、ケイだけスカウトしてなんて言いません! だからこっちむいておねがい!! ほらっケーキあげるからああ!!」


 もちろんユキテルは秒で陥落。力関係浮き彫り過ぎる構図である。というかぶっちゃけラブラブだ。マルヤムさんのこれからが思いやられてならない。



 結局二人はそっからも熱々だったんで、僕たち五人は二人を置いてカフェテリアを出た。


「さてと、これで大丈夫だね」

「……まあ、だろね」


 レインのやつはいい笑顔。ちょっと聞くとケイジとユキテルのこれからを言ってるようだが、いたずらっぽいウインクをみれば、そうでないことはあきらかだ。

 仲間だからという理由で、従兄相手に二人を奪い合った。

 そのことで、僕は頭の痛い疑惑からスッキリと逃れることができたのだ。


 レインのやつには感謝しないといけない。けれど、それは今は口には出せない。

 だから僕は、くれてやることにした――


「ていっ」


 どえむの従兄のほっぺたに、必殺のうさ耳パンチを。


「はうっ?! アアアアスカ?! とつぜんいったいなにをっ?!

 いやいいんだよ、もっと、もっとぶっておくれ! どうせなら両方のお耳で往復ビ」


 世にも幸せそうに変態発言を始めたやつと、笑顔でやつにフェイスロックをかけるライカ分体をその場において、僕たちは全速離脱したのだった。


このあとハヤトにお説教された模様です。


次回、なやめるダンサーズ!

どうぞ、お楽しみに!

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