9-7 決闘、黒猫VS銀狼!(1)
うわああすみません遅れました!
そしてサブタイを間違いました……お詫びして訂正いたします……orz
そうしておれたちは、ここに立っている。
明るすぎるほどの照明、そしてうるさいほどの歓声がふりそそぐフィールドに。
足元はクレイ。魔法ですっかりと整地しなおされている。よしよし、充分行けそうだ。
「いってらっしゃい、イツカ。もう避けないでよ、回復ポーション」
「当たり前だろ? カナタこそばっちり頼むぜ?」
たがいに声を掛け合うと、イツカはスタート位置へ。おれは『砦』からそれを見送った。
見れば、アスカたちも同様にしている。
このF&Fというバトル形式は、前衛&後衛コンビ同士の試合で使われるものだ。
すなわち、前衛(Fighter)どうしが白兵戦を、後衛は『砦(Fortress)』と呼ばれる陣地から前衛の補助や、相手側への攻撃を行うというもの。
『砦』は安全地帯であり、敵の前衛が健在の間は、敵側の『砦』に入ることや、その内側への攻撃ができないようになっている。
もっとも前衛が倒れた瞬間に、ほとんどの後衛は白旗を上げる。そのため実質『前衛の接敵前には爆撃を仕掛けあい』『白兵戦が始まれば、前衛を補助しまくって倒れるまで戦わせる』という流れのバトルになる。
今回も例外ではなかった……一応は。
「よっしゃーハヤトー! ホリフォホリフォホリフォ! 耐えろ――!!」
開幕一番、アスカがかましてきたのだ。
まず、ハヤトに神聖強化をかけまくりつつ、一抱えほどもあるスイカのようなものをマジックポーチから取り出した。
物理法則って何だったっけ、という絵面だが、そこはゲームなので突っ込まないのがお約束である。
アスカは『スイカ』からぷちっとヘタを抜き取ると、両手で大きく振りかぶり、フィールド中央にぶん投げた!
もちろんこれは本物のスイカじゃない。ヘタのようにみえたのは時限信管起動用の安全ピン。
そう、これはアスカお手製の『スイカ型ギガフレアボム』なのである。
スタート位置近くでそいつが炸裂すると、重い轟音とともにフィールド全体がスイカ色の火の玉と化した。
見ている限りはギャグみたいだが、ふつうの建物ならばあっさり瓦礫と化する。イツカでもまともに食らえば一発アウト。強化済みのハヤトであっても生き残れる気がしない、まさしく必殺の一撃だ。
これに対して、おれがとった対策は?
アスカが神聖強化を唱え始めた瞬間、『指向性引力』の巻物を向けてイツカを引き寄せ、『砦』に引っ張り込んだ。
そして、おれの後ろに立たせた。それだけである。
前衛が自陣の『砦』に入ってはいけないというルールはない。
そして、『砦』にいる後衛が『砦』の力で守られる以上、その後ろにいる前衛がダメージを食らうわけもないのである。
「あー!! カナぴょんずっるーい! おれもそれやればよかったー!! そうすればおれの背中にはりついておびえるハーちゃんの絵がとれたのに――!!
よしもう一度! ハーちゃんもう一発やらせてー! もういっこおっきいやつぶっこ」
「やめろ――!! 闘技場がぶっ飛ぶ!!」
ハヤトも『砦』そばまで跳び下がり、スキル『瞬即塹壕』を発動。一瞬で掘り上げた塹壕に身を隠し、すんでのところで難を逃れていた。
塹壕から顔を出して全力突っ込みするが、頭の狼耳はぺったんこである。
開幕からシリアスがぶっ飛んだが、これがあの二人のやり方なのだ。
「ちぇー。でもいい顔いただけたしまっ、いっかー。
ちょこっと回復、&ホリフォー! いってらー!」
「くっそ、完全に無駄だったろ今の……っていうか今のでフィールドが溶岩地帯なんだがどう戦えって?!」
「ハーちゃんにはホリフォ4連してあるけど?」
「それを無茶ぶりっていうんだ馬鹿ウサ!!」
「てへっ?」
「じゃねえ!!」
ちょこんと小首をかしげるアスカと、つっこみ連発のハヤト。観衆からも笑いが起きる。
しかし、このやりかたで俺たちはしてやられない。むしろ笑って調子が出るのだ。
アスカもわかっているのだ。
ハヤトの肩の力もすっかり抜けたようだし、いい試合が期待できそうだ。
「よし、それじゃあおれの出番だね。
ハヤト、アイスボム行くからもうちょっとなかで待ってて!」
「ておいちょっ」
ハヤトが大あわてて塹壕の中に引っ込むのを確認し、おれはアツアツのフィールドにアイスボムを打ち込みまくった……当然、フィールドのあちこちで激しい水蒸気爆発が起きた。
大丈夫、作戦通りだ。闘技場もこの程度では崩落しない。
最後にエアロボムで水蒸気を吹き払えば、そこには爆発で吹き上がり、冷え固まった溶岩の木々が立ち並ぶ、まったく新たなフィールドがお目見えしていたのだった。
「ありがと、アスカ。おれが全部やるつもりだったんだけど、手間が省けたよ」
「どったまー。あとでなんか甘いものちょーだいねカナぴょーん☆」
「りょーかい♪ さ、イツカ」
しかしイツカは黒い猫耳をペタらせ、ちょっと涙目でおれに問う。
「お前、隠し玉とか隠してないよな?」
「何脅えてるのイツカ、作戦通りじゃん。ハヤトも大丈夫だからでておいで?」
一方で向こうも似たようなやり取りをしていた。
「カナタのやつは信用できるとして……
アスカお前、もうボムはなしだな? 信用していいんだな?!」
「うんうんー。おれにそう命令してくれたらね♪」
「そっちのが後が怖いだろー!!」
「ハーちゃんはイツにゃんを鍛えるんでしょ~? おれがガチで敵に回ってもやりあえるくらい強く。この程度でビビるはずなんかないんだけどなぁ?」
「たのむからお前を計算に入れるなっ!!」
「しゃーないなぁ。わかった、こっからはマジメに行くねー。
――神聖強化。ここからは、ハヤトへの補助以外はしない。
『すべて、ハヤトの良いようになるように』。健闘を祈るよ」
最後はプリーストらしく、そっとハヤトの肩にふれて祝福を与える。
Sランクにも手が届くプリーストの祈りは、ハヤトに『幸運』の補助効果を付与した。
ハイイロオオカミの少年は、聖なる白銀の光に包まれ、銀狼の剣士へと姿を変える。
「じゃ、おれも。
ここからはイツカの補助に徹するよ。
おれはプリーストの力はあんまりないから、この手でイツカを助けると約束する。
まずはこれ。リンゴ味にしといたから、前祝いのつもりで一気にいこうか!」
おれはクラフターらしく、人のできる全力をイツカに約束した。
強化のポーションの大びんをふたつ取り出す。1.5リットルサイズのそれを景気よく開けて、二人で乾杯。
おれが一本飲み干す間に、イツカはうまそうに半分を飲み干し、半分を頭からかぶった。
ポーションは瞬時に吸収され、『空跳ぶ黒猫』の毛並みは、金色の輝きを帯びてさらにつやめく。
さあ、ここまでが前振りだ。
今度こそ、二人の剣士は向き合った。
スタート位置だったあたりに立ち、互いの剣先を軽く触れ合わせ……
最初の一秒で三つの金属音が響き渡った。ふたつはイツカから。一つはハヤトから。
よしよし。ふたりとも絶好調みたいだ。
斬り結ぶそれぞれの前衛に向け、おれたちは支援を送った。
アスカはタイミングを見て回復と神聖強化。
おれも惜しまずポーションを投げる。強化と回復のミックスポーションだ。
今日のは揮発と吸収を速め、飛沫が不用意に散らないようにしてある。クラフターにだって、白兵戦時の支援はできないわけじゃないのだ。
ちなみに今日のポーションはいろいろ風味づけもしてある……投げた順番に、ラムネ、いちご、ミント。
イヌ科装備で嗅覚の強化されているハヤトの鼻に入らないよう、ほぼ瞬時に消臭される仕様も忘れてない。
「カナタ!」
と、イツカの尻尾がぴぴっと振られる。
そのサインの通り、おれは後ろ向きに地を蹴るイツカを、『指向性引力』の巻物で引き寄せる。
ハヤトが鋭く踏み込み追ってくるが、障害物の多い場所はイツカが有利。
溶岩の木立を巧みにすりぬけ、距離の開いたところで一気に空中へ。
器用に溶岩の枝に飛び移ると、コンパクトに剣を振っての斬撃を二連発。
もちろん、その程度のジャブでハヤトにダメージは通らないし、挑発の役にも立たない。
しかし、イツカがしたかったことはそのどちらでもなく、その動きに紛れさせておれにしっぽサインを送ることだった。
了承の証としてパイン風味のミックスポーションを投げ、おれはタイミングをはかりはじめた。
もちろん、左右の魔擲弾銃には、いつもの『斥力のオーブ』が装填されている。
いったん納刀したイツカは、別の枝へ、別の枝へと跳び移って高度を上げはじめた。
ハヤトはというと、その場でパワーチャージに入った。迎え撃つ気だろう。
イツカは止まらず、最後の枝から跳躍した!
そのときハヤトが動いた。踏み込んで、すくい上げるように斬撃を放つ。
チャージを途中キャンセルして撃ったものであるために、威力こそそれなりだ。
しかしそれは、おれたちにとってはやっかいな妨害になった。
イツカは『短距離超猫走』発動による空中蹴りで回避を余儀なくされた。おれも、狙っていた場所、すなわち『イツカのまっすぐ上の天井付近』への『斥力のオーブ』の射出を妨げられてしまう。
つまり、狙っていた『ムーンサルト・バスター』での攻撃ができなくなってしまったのだ。
ハヤトは攻撃も強いし防御も固いため、これで一気に畳みかけるしかないというのが俺たちの見解、なのだが……。
「『クイックチャージ』! にがさないよイツにゃん♪」
さらにそこへ、続けて斬撃で狙われる。
アスカがハヤトに神聖魔法『クイックチャージ』をかけ、チャージタイムを縮めてきたのだ。
おれはというと、ハヤトの斬撃でイツカとの間を遮られ、対抗しての支援が難しい。
ならば。おれは斬撃に突っ込むように『斥力のオーブ』一発を発射。斬撃のなかではじけたオーブのチカラで、イツカを押し上げる。
イツカは一声こう叫んだ。
「突っ切る! 引力で!!」
「了解っ!!」




