Bonus Track_78-1-4 『湖の乙女と七つの魔神』第一話『湖の乙女と暴食の魔神』第四幕『燃えるほこらとみっつの魔神』(1)
『こうしてコトハは、聖女候補からはずされ、お城を追い出されてしまいました』
ミズキの声とともに、新しい場面があらわれた。
小さなフィールドに現れたコトハさんは再び、村娘の服に。
ものさびしい街道を、彼女はひとり、子猫を抱いて歩いていく。
荷物もなく、とぼとぼ進むあしもとに、一枚の紙切れが飛んでくる。
それを拾い上げてコトハさんは、ええっと声を上げた。
『うそだわ、うそ……
わたしたちがお城を襲っただなんて!
猫ちゃんが恐ろしい暴食の魔神で、わたしがそれを操る魔女だなんて!』
不穏なBGM。ミズキの声はいっそう暗く沈む。
『王女さまはさらに追い打ちをかけました。
町の新聞やさんに嘘を言って、こんな記事を書かせたのです。
こわい魔神と、それを操る魔女にお城がおそわれ、食料を食い荒らされたと。
これでは、生まれ故郷の村に帰ることもできません。
しかたなくコトハは、村には寄らず、湖のほこらに足を向けたのですが……』
照明の当たっていない向こう側、フィールドのはじに目を向けたコトハさんは、再び驚きの声を上げた。
『え? なに? 何かが燃えてる……
湖のほうだわ!』
そうしてナツキ猫をしっかりと抱いて、駆けだそうとしたそのとき。
『コトハー!
だめー、こっちに来ちゃだめー!!』
行く手から登場したのは、シスター姿のアウレアさん。
なるほど、お城のモブ祭りにいないと思ったら、ここでの登場である。
後ろからドヤ顔ミツバチ、もとい、村男ルーファスも追いついてくる。
『アウレアちゃん、……ルーファスくん!
わたしたちのこと、こわくないの?』
『あんなでたらめ、だーれも信じてねえよ!』
日差しのような笑顔できっぱり言い切るルーファス。さっきのドヤ顔が吹っ飛ぶイケメンぶりだ。
アウレアさんはというと、それに構わず言葉を続ける。
『それよりいまはそっちに行かないで。
湖のほこらには、怖い人たちが来ているわ。
あれは魔神のほこらに違いないと、焼き払おうとしているの!』
『そんな!』
するとコトハさんの腕の中から、ナツキ猫がぴょんと飛び出す。
アウレアさんたちが現れたほうへ、たたっと走って消えていく。
『まって! まって、猫ちゃ――ん!』
三人も追って、フィールドを出ていった。
それから数秒。
恐ろしいまでの静けさのなかに、ぱちぱちという効果音が流れ出す。
大フィールドにゆっくりと明かりがともる。
そこには、あかあかと燃える小さなほこらと、その下手人たち。
かれらは全員、まがまがしい赤に染まる瞳をけいけいと光らせ、燃えるほこらを見つめている。
そこにナツキ猫とコトハさん、アウレアさんが走りこんでくれば、全員が一度にくるっと振り返った。
そうして始まるのは、デジャブを覚えるシーンだ。
『よう、遅かったな悪の魔神!』
『魔神を操る悪の魔女!』
『悪は全員成敗だ!』
『その根城は焼き払え!』
ソーヤが、シオンが、ニノが、イズミが。
全員、同じ表情で。全員、同じ口調でしゃべる。
中身が全員、おんなじなのだ。このハイテンションぶりは、レイジだろう。
さて、どうやって正体を現す。
『そこっ!
聖なる水を、食らいなさい!!』
そのときだった。
ふいにアウレアさんが抜く手も見せず、聖水のつまったスプラッシュ・ボトルを投げはなつ。
目にも鮮やかな『抜打狙擲』。狙った先は、背後の茂み。
ボトルがばしゅんと炸裂する音、聖水がばしゃんとぶちまけられる音に続くのは、聞き覚えのある『ちょっ?!』という女性の声。
がさがさ、葉っぱを鳴らして倒れこんできた獲物はなんと。
『え、……なんかすっげえかっこの女の子たちがいるんだけど!
これってもしかして、どっかのお姫様か?』
仕留められたのはびっくりするような人数だ。ドレス、ドレスとメイド服。
全員、軽くだが頭から濡れている。
ルーファスが駆け寄り、一番小さな一人を助け起こす。
その顔を見て、コトハさんが驚きの声を上げた。
『王女さまだわ!
それに、ほかの聖女候補のみんな!
いったい、どうしてここに?』
『もちろん、見に来たのよ。
暴食の魔神とそのあるじが、ぶち倒されるところをね!』
答えを返したのは、新たに表れたドレスの少女。
王女サクラさんの影から立ち上がった彼女は、サクラさんとよく似た姿。
しかしひらり、センスを翻すと姿が変わる。
上背と髪がするりと伸びて、ドレスも顔も一気に大人びる。
ゴージャスなたてまきツインテがするんとたなびけば、かわいいうさみみがぴょんと飛び出す。
間違いない、おとなバージョンの『虚飾』である。
『まったく、こんなへんぴなど田舎で本物の聖水を食らうなんてね。
まあ、いいわ。
ここでお前たちは死ぬの。そうしたら王女たちも用済み。
また別の国の姫にでも取り付けばいいわ!』
コトハさんと子猫にセンスを向けると、倒れたままの少女たちを見下ろし、ふふんと笑う。
コトハさんは戸惑い、問いかける。
『だ、だれ……?!
一体、これは、どうなってるの……?!』
『察しの悪い子たちねえ。
あたしは魔神『バニティ』。
そこの王女にとりついて、まわりの取り巻きを操って、聖女と女王の座を狙っていた、ゴージャス・ビューティフル・ファンタスティックな魔神様よ!』
そうしておーっほっほと、いつもの高笑い。
もはや気持ちいいばかりのヒールぶりだ。本人も気持ちよさそうである。
『あたしのための王国をつくるには、おまえたちは邪魔なのよ。
さあ、記憶が戻る前にぶっ潰してあげる。
あたしと、そこのチンピラとでね!』
『虚飾』が目を向けた先には、赤い目をした四人。
口々に、同じ口調で返事を返す。
『チンピラだ?』
『どの口が言うよ、この極悪め!』
『まあいい、まずはそこの泥棒どもだ!』
『覚悟しろ! 女だからって容赦はねえぞ!!』
そうして、コトハさんに刃を向けたその時だ。
『だれが。泥棒だって……』
ひとつの声がその場を圧する。
まるで地の底を這うような、低い低い、怒りの声が。
『コトハは、泥棒なんかじゃない!
許さない、許さないぞ。
俺はお前たちを許さない!!』
その源は、コトハさんの前に立ち、フーッと毛並みを逆立てる、ダークグレイのちいさな子猫。
首に巻かれたリボンが真っ白に輝けば、子猫はひとりの美丈夫に姿を変えた。
変身シーンは脱ぎません(爆)
次回、正気を取り戻したプリンセス・サクラのおしおき宣言! そしてごほうびにくきゅうぱんち!
どうぞ、お楽しみに!!




