Bonus Track_78-1-3 『湖の乙女と七つの魔神』第一話『湖の乙女と暴食の魔神』第三幕『たくらみの王女とあやしい瞳』
ミュージカルシーン! 凝りました(*´∀`)b
ささやかながらもたのしいお祝いシーンがおわると、次に現れたのは、贅を凝らしたゴージャスな一室。
さらにそこには、瀟洒なメイド服や、華やかなドレスで装った少女たちがいっぱい。
ほとんどみんなが目元をレースのヴェールで隠しているが、その美少女ぶりはいや増すばかり。
それだけで目の保養になるような、麗しさ満開の絵面だ。
一幅の絵のような画面の中で目を引いたのは、優美なしぐさでひとり働くリンカさん。服装はよくみれば『ふしふた』のメイド服のアレンジ。心憎いファンサービスだ。
彼女は優雅にお茶を入れ、ひときわ豪華な装いの女の子のまえにうやうやしく差し出す。
部屋の主と思しきその子は、サクラさん――のように見えるが、これまた何かが違う。
よく見れば、瞳の色が普通じゃない。蛍光がかった紫だ。
縦ロールのツインテールに結ばれた大きなリボン、幾重にもドレープを重ねたひらふわのスカートで、けも耳しっぽも隠されている。
メタな見方で言えば、あきらかな伏線である。
もちろんミズキのナレーションは、そんなところには触れない。
『いっぽう、王女さまはおもしろくありません。
お城の使用人たちや動物たちが、いつしかみんなコトハの味方になっていたことを知って、焦りながらも不満をもらします』
サクラさんの姿をした王女さまは、取り巻きと思しき女の子たちをまえにぷんすか怒る。
『全く、おもしろくないこと!
一体どうしてやったものかしら!』
サクラさんの澄んだ、かわいらしい声が響く。
が、その口調は、サクラさんのものではない。
そのしぐさもまた、サクラさんぽくない。
もっと大人っぽいほかのだれかが、サクラさんの真似をしている、というかんじだ。
ともあれ、彼女が取り巻きたちに声をかければ、その中の一人――目元をレースのヴェールで隠しているが、どうみても女装したライカだ――が立ち上がる。
『王女さま。わたくしに提案がありますわ』
『なあに、いってごらんなさい』
芝居がかったしぐさで、女装ライカは振り返る。
そして、アスカゆずりの歌いっぷりで、悪のたくらみを歌いだす。
アカペラで堂々と。ほとんどアルトの音域で。
『あの子の作ったあのケーキ。
その材料はだれのもの?
ミルクに、たまごに、はちみつ小麦粉。
それはいったい、だれのもの?
それはあなたよ、王女さま。
けしてあの子じゃありません。
そう、あの子は――』
『どろぼうね!』
合いの手を入れる女の子たち。ライカはくるりと回ってセンスを翻した。
『いいえ、ちがうわそうじゃない。
あの子はこわい、こわい魔女。
あの子の連れた猫をご覧、
こわい茜の目をしてる。
あれはそう――』
『暴食の魔神!』
ここで、取り巻き少女に扮したみんなも立ち上がる。
流れ出すオーケストラ。ゆるく照らし出された奏者席には、『ふしふたアフター』で名演奏を披露した『うさたん楽団』がいた。
全員黒のスーツでキメ、磨き上げた愛器を輝かせ、渋くさりげなく華を添える。
『畑の作物食い尽くし、』
『お城の蔵も平らげた、』
『あの伝説の、恐ろしい、』
『大ぐらいの、大ぐらいの、大ぐらいの悪魔!』
一方で少女たちは、すぎるくらいにゴージャスな演奏にのって、フレーズを重ねつつ踊る。
とりどりのドレスの裾をなびかせて、くるくる、くるくる、くるくると回る。
目元を隠すヴェールもひらひら。その内側は、見えそうで見えない。
あやしいほどに美しい、悪の華たちの饗宴だ。
『暴食の魔神はちからじまん。
目覚めてしまえばもう大変!
はやく、ええ、一刻もはやく。
追い出してしまうに限るのです!』
ライカがすべての歌声を引き継げば、ぴたり、音楽が止まる。
取り巻き少女たちもその瞬間に動きを止めた。
あるいは腕を掲げたまま。あるいは斜めにかしいだまま。
生きた彫像の森の中、ふたたび響くライカの独唱。
『ええ、ええ、王女さま。
わたしに作戦ございます。
あの子をどろぼうとお言いなさい。
さすればみんなはあの子をかばう』
ゆっくりゆっくりと、伴奏が忍び寄る。
『そしたらこんどはそのみなを、
ろうやに入れるとお言いなさい。
あの子はかならず、こういうわ――』
ふつり、伴奏が途切れると、ライカの姿がくるりと変わる。
ぼろぼろのメイド服の、コトハさんそっくりに。
声真似、口真似で言うにはこうだ。
『いいえ、みんなは悪くない。
すべての責はわたしにあります。
わたしが、わたしが城を出ます!』
大音声。弦楽器が哭き、管楽器が叫び、打楽器が吼える。
耳を打つのは楽曲『ボレロ』の終わりを思わせる、落雷さながらの終局だ。
楽の音がこだましつつ消え、奏者席の明かりが落ちる。
固まっていた少女たちが、水面に散り落ちる花のようにゆるりと床に座す。
残ったのはふたり、王女とライカ。
ライカは王女のほうを向き、うやうやしく礼をする。
違和感を感じた。
よく見れば、ライカの礼は、微妙に王女を向いていない。
『いいわ、いいわね!
これならあいつらを永久に追い出してやれるわ!
みてらっしゃい! すべてを手に入れるのは、このわたくしよ!』
しかし、彼女はそれに気づかない。満足そうに手をたたく。
豪奢なセンスをひるがえし、おーっほっほと高笑い。
この笑いっぷり。王女の中身は、『虚飾』なのだ。
感心した。うまいキャスティングだと。
サクラさんも『虚飾』も瞳が紫。ただし、色味が違う。
ふたりともヘアスタイルがツインテールだが、短めストレートと縦巻ロングという違いがある。その辺をうまくハイブリッドしてきたのだ。
これは、正体を現すところも楽しみである。
などと考えたそのとき、取り巻き少女たちのヴェールがすとん、一斉に落ちる。
あらわになった彼女らの瞳はすべて、ひとつの色に染まっていた。
王女のそれと同じ、蛍光がかった紫に。
無表情の美貌の中で、同じ色の瞳だけが息づいて。
ばん、と落ちた照明の中、紫の燐光だけが輝き残る。
やがてそれらは、墓場の人魂が流れるように、すいっとはけて消えていく。
『ブラボ――!!』
BGMも消え、しいんと静まり返った会場内。
そこに誰かの歓声が響くと、万雷の拍手が巻き起こった。
もちろんおれも、めいっぱい手をたたいていた。
最初は『ライカ耳打ち、王女ちゃん高笑い→ナレーションで説明』だったのですがあんまりにも説明すぐるので書き直したらこうなりました。
脳内ミュージカルたのしいです( *´艸`)
次回、失意の帰郷と魔神ドーン!(←GOと書きかけて思いとどまった)
どうぞ、お楽しみに!




