77-7 動き出す『ゴーちゃん』、始まる2on2!!
そのときの月萌軍の対応は、考えられ得る限りでベストのものだったとおれも思う。
イズミは『時止め』を発動せよ、対象は戦場の『魔王軍』全員。
推定効果時間は一秒。ミツルとモモカさんへの砲撃が可能なものは、二人の予想到達位置にむけ砲撃。十字砲火を浴びせ、ふたりを撃墜せよ。
そう、命を発したのは。
ミツルたちだけ。もしくは『アイドル軍団』だけを『時止め』の対象としていたら、当然ほかのだれかが干渉してくるはずだ。
だから『魔王軍』全員を対象にせざるを得なかった。
だがその規模を止められる時間はせいぜい一秒。スキル『抜打狙撃』をもってしても、算出した予想到達位置に、半ば当てずっぽうで砲撃を浴びせるしかできないレベルだ。
だが、それで充分なはずだった。必中のウイニングショットとなっていたはずだ――アオバが決死のミラクルジャンプを行わなければ。
精密に算出された予測は、一匹の小さなヤマネコの存在でおしゃかにされ、砲撃は空振りに。
広域時止めでパワーを使い切ったイズミはダウン。
ニノがイズミを抱え、思うように動けなくなったところにアオバが舞い降り降伏勧告。一気に背中に乗られてしまったフォルドはもちろん、ルシードとマユリさんの合体竜も味方ごとアオバを叩き落とすことはできず、ホールドアップとあいなった。
さらに悪いことに、『時止め』は万能でも絶対でもない。
いくつかの覚醒技は、それに抵抗、もしくは無効化が可能だ。
ソーヤの『アトリエ・ラパン』は、守る対象をソーヤとシオンだけに絞ることで、時止めの効果すら防ぎとめる。
かくして緊急砲撃の瞬間を見られたタンクの操作者たちは、シオンに尻尾をつかまれてしまう。
『陸戦隊に報告!
タンクはぜんぶ遠隔操作。コントローラーは本陣クラフター隊右から二番目。真ん中の人がバックアップと判明したよ!』
ぎらり。フユキとルーファスが向けた剣に、狙われた二人が身を引くのが見えた。
彼らも学生時代、学園闘技場で戦っている。そこではこれは有名なサインなのだ――『お前を狩るぞ』という。
実際のところ、フユキたちのまえにはいまだにスケルトン軍団の1/3と、タンク五台ががんばっているし、バックアップの工兵たちも健在だ。
そのすべてを下したとしても、月萌軍本陣の砲撃手たちによる的確でし烈な攻撃、盾隊とプリースト隊の鉄壁の守り、最終的にはカルテットによる再現版『セント・フローラ・アーク』が彼らを守っている。
隣に立っている同僚クラフターたちだって戦えるし、なんならアスカがとんでもないなんかをぶん投げてくれるかもしれない。
それでも。
突き刺さるのだ。視線は。そこに乗せた、意志は。
たじろいだ彼らの頭上に、無数の光のモモンガが飛び交い始めれば、タンクのコントロールはわずかに乱れ。
そのすきを見逃さなかった神獣たちが、順次タンクをころがし始めた。
「うえっ?!」
ゴトン、ゴガン。異様な音に、さすがにイツカがそっちを向いた。
スケさんともども、そちらを伺い、つばぜり合いつつ顔を見合わせる。
「ええっと……助太刀、しないでだいじょぶか?」
スケさんはこっくりとうなずくが、彼もまたなんというか、ノリを失ってしまったよう。
こて、と小首をかしげてイツカを見る。
するとイツカはおれに呼びかけてきた。
「俺はいーけど。
カナター! なんかもうあれだし、バディ戦始めようってー!」
「いやなんでわかるの?! ていうかスケさんそれで合ってるの?」
いったいなんでかわかんないがイツカはその意図するところを正確に汲み取っているらしい。確認をとれば、こくこくとうなずきが返ってくる。
こうなっては、腰を上げないわけには行かない。おれはふとももの双銃を抜く。
あきらかにそれを待っていた様子で、『ゴーちゃん』が基地へと向けて進みだす。
その大きさと気迫はこれまでとは段違い。ぶっちゃけおれがツリーアーマーで向かいたいところ。いや、いまは割り切らないと。そう思ったそのときだった。
『まかせてカナタ!『ゴーちゃん』は、オレたちで止めるよ!!
だから集中して、その戦いに勝って!!』
耳の通信機から、シオンのかわいらしくも力強い声が響いてきた。
その声はほかの仲間たちにも届けられていたらしい。オンラインでオフラインであがる、いくつもの『まかせとけ』。
なんてありがたいタイミング。ありがとうをこめて大きく、両手の銃を天に掲げた。
アオバのミラクルジャンプは『横入りでかっさらう』に特化したワザなのです。
次回、決着の予定!
どうぞ、お楽しみに!!




